↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
71/169

65.名前


「それで、どうだったの?」



 女王は執務室で王配から話を聞いていた。



「あいつの言う通り、以前は髭を蓄えていたらしい。別の牢の者が顔を覚えていた」

「何者だったの?」

「前西領領主の友人か知り合いだったらしい」



 前王や妻のために、見た目がいい人を集めていたらしい。

 ちなみに前西領領主は自害、妻子も逃亡中に事故死している。



「資金は何処から得ているんだ?前領主の私財の隠し場所でも知っていたのだろうか」



 悪人共の財産は連合国軍で没収したはずだ。



「黒幕から提供されているのかも。ねぇ、首謀者は人を集めていたのよね。それなら彼らなら知っているんじゃない?」

「ああ、彼らか」




 女王はすぐに楽団員、劇団員の中でも元愛人だった者達を呼び出し、首謀者の人相書きを見せた。

 彼らなら何か知っていると一縷の望みを託して。



「昔は髭を生やしていたそうよ」



 女王がそう言うと、侍女のジャンナが人相書きの顔の下半分に、髭を付け足した紙を置いた。



「どう?見覚えないかしら?」



 彼らの中には西領出身者が何人かいたはずだし、どうやらケレース王国の南側を中心に全土を回って集めていたらしいので、もしかしたら他領出身でも見たことがあるかもしれない。



「髭……」

「しっかし、この人、フツーの顔ですね。化粧でもされたら分かりませんね」

「化粧?……そう言えば、仲間に元劇団員の女性がいるのよね」

「その人って、俺が見た人ですか?」



 中年女性を目撃した役者が言った。



「ええ、そうよ」

「先輩の話によると、他の役者の化粧も担当していたそうですよ」

「となると、首謀者は昔から変装をしていたのかもしれないわね。随分と用心深いのね」

「髪もこの絵だと短髪ですけど、長髪だと分からないですね」

「あ」



 全員が声を上げた人を見た。

 彼女は自身が思いがけず出てしまった声に驚いたようで、目を丸くして口を押さえていた。



「何か思い出したの?」

「ええ、私は長髪を後ろで結んでいる中年男性に誘われて王都に来たんです。身なりは私達が着るような普通の格好をしていたんですけど、髪はやたら艶があったので違和感があったんです。それで、ふと手の爪を見たら爪も綺麗に整っていたんです。労働者の手ではないと感じました」



 女王は見事な観察力だと感心した。



「変装していても、普段手入れをしている箇所は誤魔化せなかったのね。それで名前は聞いた?」

「えっと…、確かフランチェスコと名乗っていたと思います」



 偽名かもしれないが、名前が判明したのは大きい。



「他に中肉中背の中高年男性でフランチェスコと名乗る人物に心当たりがある人はいる?」



 女王の問いかけに皆は首を傾げたり、顔を見合わせたりしている。

 該当する人物に心当たりがないようだ。



「やはり偽名なのかしら?フランチェスコって昔あった宗教の聖人の名前だったと思うの。とすると他の偽名も聖人の名を名乗っているのかしら?」



 女王は悪趣味だと思ったが、女王の考えは当たった。

 女王が口にした何人かの聖人の名に反応した者達がいた。



「どんな人物に誘われて王城に入ったのか、思い出して書いてくれる?嫌な思い出かもしれないけど、悪党を捕まえるために貴方達の協力が必要なの。力を貸して」



 まともに文字が書けない者は書ける者が手を貸しながら、何とかして自分を王城に誘った人物を思い出した。

 中には前王が即位してすぐに来た人もいたが、頑張って十二年前の記憶を掘り起こしてもらった。




「情報を統合しますと、名や姿が違っても同一人物だと考えてもいいものがありますね」



 言ったのは宰相だ。

 皆が平均的な体型で、あまり印象に残らない顔つきの中高年男性に誘われて来たらしいのが分かった。

 皆の反応から考えると、変装をしていても印象に残らない顔のようだ。



「愛人候補を集めたのは首謀者の組織だったのね」



 複数いたのかもしれないが、首謀者が重用されていたのは間違いない。

 各地を回り、見た目が良い者を口八丁手八丁で誘い出したのだろう。

 実際に今王城内に残っているのは首謀者が集めた者ばかりだ。



「この情報をあいつに話したら、愛人候補達を連れて来ていたのを思い出したらしい。分かった後に思い出してもなぁ」

「まぁいいじゃない。それで、全員が愛人になるのではないわよね。愛人にならなかった人達はどうなったの?」

「そのまま別の仕事をしたり、故郷に帰ったり、仕事に就いても辞めたり……。そうか。連れてこられて、別の部署で働いている人が元愛人ら以外にもいるかもしれないのか」

「調べさせます」

「おそらく下級官か、侍女か侍従だろう。侍従長も何か覚えているかもしれないから彼にも聞いてみてくれ」

「はい。かしこまりました」



 宰相は指示を出すために、すぐに女王の執務室から出て行った。



「降灰までに間に合うかしら?」

「分からん。知らせが来てから一週間経った。明日かもしれないんだよな」

「たった今起きているかもしれないわ。何が起るか分からないから怖いわね。降灰自体もだけど、それで生じる混乱と残党の動きも怖いわ」



 逃げるだけなのか、それとももう一騒動起こそうとするのか。

 逃走劇で騒動が自然発生してしまうのか。



「仮に国境を越えても叔父上が臨時領主をしているんだぞ?かなり厳重な警備体制を敷いているから逃走は無理だろう」

「イワン殿が領主になったって大々的に公表しましょうか。残党達は臆病風を吹かすんじゃないかしら?」

「ああ、そうか。いいかもな」



 イワンが領主になったのを知るのはケレース王国内の民間人だとあまりいない。



「あ、だけど、法螺話を信じている人達にはイワン殿の武力を恐れるのかも。セマルグルがケレースに侵略するとか言いそうね」



 首謀者達がいなくなっても、信じてしまった人達が騒ぎを起こすかもしれない。



「そうも考えられるか。どうしたものか」

「単純にアイテール王国が降灰に乗じて攻めてくるかもって噂を流す?それならイワン殿が国境の領地の領主をしていても恐怖を煽らないのではないかしら?」

「うーん、そんな上手くいくかな?何なら捕まえた者を諜報員にするか?」

「それだって上手くいくかしら?かなり用心深い人物みたいだから、逃げてきただなんて言葉は信じないわよ。それに諜報員は彼らに殺されてしまうかもしれないのよ?」

「……そうだな。何か思いついても、上手く行きそうな案は浮かばないな」



 王配はそれでもいいと思ったが、女王が怒りそうなので言わないでおいた。



「知恵が欲しいわね」

「諜報員に情報を持たせ、首謀者に伝えたであろう時に情報を流すのはどうだ?」

「信じないと思うわ。都合が良すぎるもの」

「そうか」

「そうよ。そもそも国境どころか南領からも出られているのか怪しいわよ」

「だな」




 女王の言う通り、残党達は南領から出られておらず、森に潜伏中だった。

 夜のうちに活動しようも、今は夏で夜は短い。

 そうすると、日が出ている暑い時間帯に眠らなければならず、木の陰に隠れても太陽が移動すると眩しいし、暑いし寝られたものではなく、疲労が溜まるいっぽうだった。

 顔がバレていない者が交代で町に買い出しに行っているが、毎回かなりの量を買っているので怪しまれているので、潜伏場所がバレるのも時間の問題だ。



「クソッ、ここまで厳重になっているとは思っていなかった」



 首謀者は疲れもあって苛立ちを覚えていた。



「素早い判断ですね」

「山を越えるしかないのか?」



 首謀者は用心深いはずなのに疲労と焦りのため、あまり現実的でない発想を口にした。



「東側ほどではないですが、南側の山もかなり急ですから、お止めになったほうがいいですよ」



 止めたのは黒幕だ。



「今頃は南東領内にいる筈だったのに!」



 首謀者は奥歯を噛み、両拳に力を入れた。



「言っても仕方ないことです」

「金を掴ませてどうにか通行出来ないだろうか」

「無理じゃないですか?領主は、いえ、ご母堂はかなり厳しい方のようですから。もし発覚したら、厳刑に処されるのでしょう。そんな危険を冒してまで怪しげな人物を通すはずがありません」



 黒幕が言った。



「私もそうだと思います。渡した相手から足がつくかもしれないですしね。降灰時は屋内にいるように言われているので、人目がないその隙に移動出来るでしょう。焦らず、その時まで待ちましょう」



 必ず、警戒が緩む時がくるはずだと殺人犯は思った。



「長い間姿を隠してきて、やっとこの国から逃げられると思ったのに……」



 首謀者は苛立ちが収まらないようで、ブツブツと何か言いながら、周囲をウロウロと行ったり来たりしていた。


 首謀者が今までケレース王国に残っていたのは、前西領領主の隠し財産を回収仕切るのに時間がかかったからだった。



「ここまで、計画が崩れるとは思いませんでしたね」



 首謀者は隠し財産を換金出来ないので、換金出来る国外へ行こうと思っていた。

 しかし、降灰騒動がおき、兵士の見回りなどが盛んになり迂闊に動けなくなってしまった。

 人を見ているのではないとしても、少しでも不審に思われたらお終いだ。

 収まるまで隠れていようかと思ったが、黒幕と出会い資金提供を受け、一騒動起こして国外逃亡しようと企んだ。


 今の生活を強いられたのは連合国軍のせいだ。

 そして、王位について悠々と暮らしているであろう女王にも痛い目を見てもらおうとも思った。



「まったくだ。王が代わると、これほどまでに国も変わるのか」

「十二年前にも体感しているのではないですか?おかげでかなり良い思いをなさっていたのでしょう?」

「フンッ、領主に頼まれたから引き受けただけだ。元は国内中を回って商人をしていたから、適任だと思われたのだろう」



 怪しまれないようにほぼ毎回違う格好をした。

 人攫いの噂がたったら困るからだ。

 そのおかげで今まで生き延びてこられた。



「連合国軍からも逃げ切れたんだ。今度も逃げてやるさ」




 逆恨みしているのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。