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66.牢にて

 再びある人物が登場です。


「ここから出して!私は何も悪いことしてないわ!私は皆に目を覚さまして欲しくてやったのよ!」



 ヴィオレッタは牢の柵を両手で掴み、顔も柵に近づけて叫んでいた。

 彼女は今朝目覚めると別の牢に移されているのに気付いた。

 どうやら寝ている間に運ばれたらしい。



「嬢ちゃん、俺達の目はすっきり覚めているから、そろそろ寝かせてくれないか?夜も騒がれたらたまったもんじゃねぇ」



 ヴィオレッタの隣の牢の男が、とてもうんざりしたように言った。

 彼女は食事中以外ほとんどの時間喋っているのだが、他の者は労働から帰って来て疲れているので、寝かせて欲しいのだ。



「皆さんはどう思います?女王は国民を騙して再び税を上げようとしているんです」

「突拍子もねぇ話だな。つか、そんな反発が起きそうなことしねぇだろ」



 他にも牢にいるはずだが、反応したのは隣の牢の男だけで、他の者は黙ったままだった。



「絶対にしますよ。火山が噴火するだなんて起こりもしない嘘を言って節約しろだなんて、私達から貯蓄を奪う気なんです」

「なんで起らないって言えるんだ?ずっと前にも同じことは起きてんだ。ずっと前のその前もな。今回もそれだろう。たまたま俺達が生きている時に当たっちまったのは運が悪いが受け入れるしかねぇ。自然災害ってのはそういうもんだ」

「ですから!それ自体が嘘なんですって!」



 ヴィオレッタの語気は強くなっていた。

 必死なヴィオレッタを尻目に、隣の牢の男は呆れたようにため息を吐いた。



「だから、なんで嘘になるんだよ。ちゃんと俺の話を聞いてたか?過去にも同じ被害は出ているんだよ。国内外の古文書にも書いてある」

「聞いてますよ!だけど、現に何も起きていないじゃないですか!何ヶ月も不安な状況にさせておいて、やっぱり何もなかっただなんて、私達を馬鹿にしすぎです!」

「ああ、不安で仕方ないから嘘だと信じたいのか。だがそんな子どもみたいな理屈じゃ、嘘だと言い張るのには、ちと弱いんじゃねぇのかあ?」



 隣の牢の男はクククと笑っていた。



「だから!自然災害に備えさせておいて、税を高くして備蓄を掠め取るんです!とても卑怯な手口なんです!」

「高くしてどうするんだ?」

「女王が贅沢をするんです」

「女王が贅沢しちゃいけないのかあ?」



 なんともざっくりとした話だったので、隣の牢の男は茶化した。



「当たり前です!国民は苦しんでいるのに自分だけ贅沢するだなんて許されません!」

「自分が苦しいから、女王も苦しめって?ひでぇ発想だな」

「国民の苦しみを知るべきです!」

「ふぅん。じゃあアンタは十年間外に一歩も出られずに閉じ込められてもいいってのか」

「何の話ですか?」



 隣の牢の男は女王の境遇を言ったのだが、ヴィオレッタは知らないようだった。



「まあ、ここに連れて来られたってことは重罪犯なんだろ?それは願わずとも叶うんだけどな」

「何の話ですかって聞いてるじゃないですか!」



 隣の牢の男が笑うのでヴィオレッタは更に腹が立ってきた。



「国民の苦しみを知れって言うから、女王の苦しみも知る覚悟があるんだろ?」

「なんで私がそんな訳の分からない事をしないといけないんですか!」

「何だ違うのか。自分の苦しみだけ知れだなんて自分勝手、自分本位なんだなぁ」



 やはり隣の牢の男は人を馬鹿にしたようにケラケラと笑う。



「なっ!私のどこが自分勝手なんですか!」

「他人の話を聞こうとしないところだな。自分の話しかする気がねぇみたいだしな。ああ、他人の話を聞くって言うのは理解しようとするって意味だからな?」

「聞いてますし、理解しようとしています!」

「そうかぁ?俺には屁理屈並べて騒いでるだけにしか聞こえないぞ?」

「どこが屁理屈なんですか!私は真実を言っているんです!」



 ヴィオレッタはこの人も自分を馬鹿にするのかと憤った。



「ああ、屁理屈にもなってないか。んで、誰が真実だって言ったんだ?根拠は?ないんだろ?」

「国にとって不都合な行動をしたから!実際に仲間が殺されたんです!」

「国がやったって証拠はあるのか?どうせ他の仲間が国がやったって言っただけで、アンタのその目で見た訳じゃないんだろ?」

「そうですけど、じゃあなんで彼は殺されたんですか!いい人だったのに!」



 ヴィオレッタにとって、男はいい人だった。

 彼女を馬鹿にせず、ちゃんと会話をしてくれる人だった。

 少なくともヴィオレッタはそう思っている。



「なんで殺されたかって?そりゃあ邪魔になったからだろう。あるいはアンタを更に信じ込ますためにソイツを殺したんだろう。あーカワイソ」

「そんな!皆さん必死で活動しているのに!そんなはずありません!」



 仲間が仲間を殺すなんてあり得ない、あってはならないとヴィオレッタは思っている。



「必死で活動していたからって殺されない保証はないぞ?親玉が不要だと思ったら消される。そんなの常識だ」

「国がやっていないって証拠だってないじゃないですか!」

「アンタが知らされてないだけじゃないか?俺もその事件は知らないから何とも言えないがな。お仲間達はなんて言ってたんだ?」

「それは……、国に殺されたとしか……」

「他は?」

「背後から襲われてって、刃物で刺されたとも言っていました」

「へぇ~。お仲間は随分詳しく知っていたんだな。まるで殺人犯本人か本人から聞いたみたいじゃないか」

「そっそんなの、調べている時に耳にしたのかもしれないじゃないですか」



 ヴィオレッタは言いながら、そうだそうに決まっていると思った。



「だとすると現場検証中は野次馬は遠ざけるだろうから、余程耳の良い奴だな。あるいは読唇術でも使えるのか?いや、遺体を詳しく見るのは現場じゃなく建物内だろうから一般人が死因を耳にするは無理じゃないか?」

「実際に見たのかもしれません!背中から血を流していたら刺されたか斬られたかじゃないですか?」



 ヴィオレッタは、どうしてこの男は詳しいのだろうと首を傾げた。

 自分が知らないだけで、皆知っているのだろうかとも思った。



「んまぁ、そうかもな。傷の大きさで刺したか斬ったかは分かるだろうしな」

「え、ええ……」

「どうしたんだ?」

「いえ、なんでもありません……」



 ヴィオレッタは仲間の小柄な男性が、死んでいたんだそうだと伝聞調で言っていたのを覚えていた。

 もしかしたら、あの部屋にいた痩身の男性か中年女性、あるいは他の仲間から聞いたのかもしれない。



「おお、そうか。で、国がやったとしたら、殺したのは隠すんじゃないかなぁ?うん、俺だったら隠すね。自分達に都合の悪い活動をしている奴の死体を転がしておいたら国がやったってバレちまうだろ?だから俺だったら絶対に隠すな」



 隣の牢の男は楽しそうに言った。

 喋り声からするとまた笑っているのかもしれない。



「そ、そう思われると思って、わざと見つかりやすくしたんですよ!」

「危険じゃないか?俺は危険が少ない方を選ぶ」

「貴方はそうかもしれないですけど、国は違ったんです」

「それか、自殺や事故に見せかけて殺すかな。足を滑らせ崖から落ちたり、川に落ちたり……、んまぁ、手段は何でもいい」

「何なんです?貴方さっきから恐ろしい話ばかりして」

「ええ?そりゃアンタが騒がなければこんな話しないさ。俺はさっさと眠りたいだけなんだよ」



 隣の牢の男は、ヴィオレッタに聞こえるようにわざと大きくため息をついた。



「あ、あの、貴方は何をして牢屋に入れられたんですか?さっき重罪犯って言っていたみたいですけど……」

「……んー、そうだなぁ。自分が生き残るために色々しちまったんだよ」

「生き残るためにしたのが犯罪だったんですか?」

「そうだな。随分と愚かしい行為をしちまった。自分が死から逃れるために、他人を死に追いやったんだからな」

「よく分からないですけど、大変だったんですね」

「随分と他人事のように言うんだな。ここにいるんだからアンタも重罪犯なんだろ?」

「私は無実ですから、そのうち出られます」



 ヴィオレッタは国民の声を聞き、釈放せざるを得なくなるだろうと信じている。



「仮にアンタが正しいとしても、国がそう思わないんだったら意味ないぞ」



 隣の牢の男はケラケラととても面白そうに笑った。



「認めさせます!」

「無理無理!俺でさえ納得させられてないのに、そんなの無理だって!」



 彼の笑い声は牢の中に良く響き渡っていった。




 ヴィオレッタは丸一日は寝ていました。

 ある人物、隣の牢の男はまた出てきます。

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