63.南領領城
※控えめですが、拷問シーンがありますのでご注意ください。
南領領城内にある牢獄に領主と領主の姉が向かっていた。
二人はまだ十代で幼さが残る顔をしているが、今の彼らの目を見れば逃げ出す者もいるだろう。
何故二人が牢獄に来たのか。
それは、捕らえた者らが首謀者や黒幕の人相書きを作る際に嘘を吐いたからだ。
普通、複数の人を対象に人相書き作成した場合、個人の印象が入るので同じ顔にはならない。
少しずつ証言が違ったりするし、似てすらいない時もある。
しかし、今回捕らえた者らの証言は同じで、出来上がった似顔絵も大体同じだった。
「姉上、やはり嘘の証言をするように指示されたと考えていいのでしょうか」
「そう考えていいと思います。でなければ一字一句ほぼ同じ証言はしないでしょうからね」
「捕縛した場所も同じですから、口裏を合せたと考えられますね」
「ええ、そうでしょう」
二人が牢獄に入ると、彼らを見た投獄内の者らが茶化してきた。
「なんだなんだあ?こんな所にお嬢ちゃんとお坊ちゃんが何の用だ?」
小太りの男が笑いながら言った。
「はははっ!社会勉強か?」
坊主頭の男も笑いながら言った。
「ここはジメジメしていて健康に悪そうだって、領主様に言っておいてくれよお」
髭面の男はニヤニヤと笑いながら言った。
「私が領主だ」
領主が言うと一瞬だけ静まりかえったが、すぐに先ほどより大きな笑い声がしだした。
「あはははは!こんなに可愛い領主様がいたとはなあ!驚きだな!」
「そっちのお嬢ちゃんはなんだ?婚約者か?」
「姉です」
領主の姉はとても静かに、表情を変えずに言った。
「はははははっ!なんだ?おねーちゃんに一緒に来てもらったのか?ぼくちん一人じゃ怖いですって!」
「はぁ……、話を聞きに来ただけだ。何故人相書きの作成の際に嘘を吐いたんだ?」
こうなる事は予測出来たので、領主は怒らず呆れただけだった。
「は?嘘なんか吐いてねーよ!」
「貴方達の証言がほぼ一致しているんです。人の顔は見る人によって印象が変わるのであり得ないんですよ」
「ぁあ?たまたま同じだっただけかもしれねぇだろ!」
「言った言葉も同じになると?いい加減認めたらどうだ?」
「認めたらどうなるってんだ!」
「真実を話してもらうだけだ」
「ふっ、俺達がほいほい喋ると思うのか?これだからお貴族様は!」
男達はまた笑い出した。
とても汚い笑い方だった。
「もちろんちゃんと道具を用意している」
領主の合図で兵士が何かを台車に乗せて運んで来た。
「あ?ストーブだぁ?クソあちぃのに何考えてんだ?もしかしてここを暑くしたら喋るとでも思ってんのか?」
「ははっ!子どもらしい可愛い発想だな!」
領主は気にせず、姉から道具を渡されそれらを身に付けていった。
「お、おい!まさか!」
「あ?」
領主の手には防熱のために分厚い手袋がされており、彼の手には焼きごてが握られている。
「おい!人道に反するだろうが!」
「今更、人道とか言うのか?面白いな」
「騙されるな!どうせハッタリだ!」
「ハッタリかどうかやってみますか?じゃあ貴方」
姉は小太りの男を手で示した。
「なんで俺なんだよ!ふざけんじゃねぇよ!」
「手前にいたからですかね」
「クソッ!ただじゃおかねぇからな!」
小太りの男は兵士に取り押さえられながら、別の場所に移動させられた。
別の場所と言っても牢獄内の、先ほどまでいた所の死角になっている場所だ。
声は十分聞こえる。
「では、始めようか」
「こんなの国は認めているのか!」
小太りの男は兵士達によって椅子に縛りつけられた。
どんな屈強な男でも身動き取れないだろう。
「陛下は拷問するなと仰っているが、我が領の面目もあるから苦渋の決断なんだ」
「すぐに白状すればいいだけの話です。ではまず、嘘の証言でも元になった人物がいるはずですので、
その人は誰ですか?」
二人は淡々と進めだした。
「だから!嘘はついてねぇって!本当だよ信じてくれよ!」
「嘘の証言に利用された人物に心当たりは?」
「何だよそれ!俺はちゃんと言っただろ!似顔絵の奴が俺達の親分だ!」
「はぁ……」
領主は焼きごてをストーブの中に入れた。
「こちらも熱いのだから面倒をかけさせないで欲しいな」
領主は十分に熱された焼きごてを、小太りの男の目の前まで持って行った。
「ひぃ!あちぃよ!やめてくれ!」
小太りの男の顔は恐怖で引きつり、見るに堪えない顔になっている。
「手が滑るかもしれない。何せ私は貴族のお坊ちゃんだから力仕事はしていないんだ」
「さっき言ったことは謝るから許してくれ!」
「私達が欲しいのは謝罪の言葉ではなく、嘘偽りのない証言だけです」
領主の姉が言うと当時に、領主は焼きごてを小太りの男の顔面に近づけた。
「だから本当だって言ってるだろぉお!」
「実在する人物なのは知っている。お前らの隠れ家近くの青果店の店主だろ?」
「……!」
小太りの男の顔は凍り付いた。
彼の顔は汗や脂まみれだが、しまったと思い固まったのだ。
「店主には確認済みで、無実が証明されています」
「畜生騙しやがったな!汚ねぇぞ!」
小太りの男の顔はいつの間にか怒りの表情になった。
「素直に答えていたら減刑も考えていたが、もうその機会は失ったな」
「ご愁傷様です」
「ううう……」
「では、始めよう」
「ええ、そうですね」
小太りの男は兵士達に目隠しをされた。
当然小太りの男は暴れる。
「ちなみにこれはちゃんと焼けるからな」
そう言って領主は熱した焼きごてを水の中に入れると、水は激しい音を立てながら一気に湯気になっていった。
この場にいる全員の顔中に熱い蒸気がまとわりついた。
「うん。熱いな」
「はぁ…髪の毛が……」
領主の姉はせっかく朝整えた髪が湿気で乱れるのが嫌だった。
「姉上、少しの辛抱です。お前達の親玉の名はなんだ?」
「名前は誰も知らねぇよ!何度か聞いたが教えてくれなかった!」
「顔の特徴は?」
「特徴?年はさっきの果物屋のおやじよりは上だ!」
「身長は?」
「俺と同じぐらいか、ちょっと低い」
「もう一度言うが顔の特徴は?目の色や形は?鼻や口の形は?」
「分かんねぇよ!」
「そうか、じゃあ気乗りはしないが、止むを得ない」
「え?なんだ?何するんだ?」
小太りの男は自身の耳だけを頼りに、自分が何をされるか考えた。
「や、やめてくれ!覚えてないんだ!特徴なんてなかったんだ!」
「髪の色は?」
「いつも被り物をしているから分からない!」
小太りの男の腕に熱い物が近づき、そして触れた。
「ぎゃぁああああ!」
じゅ、と一瞬だけ触れた。
ただそれだけだったが、悲鳴を上げるのに十分すぎる痛みだった。
「髪の色は?」
「た、多分、白髪交じりの茶髪だ!痛ぇよぉ…ま、眉毛がそんな感じだったから、髪もそんなだろ!」
周囲には焼けた肉の匂いがする。
「では、目の色と形は?」
「色ぉ?目も茶色だぁ!!」
「形は?つり目垂れ目とか色々あるだろう」
「んなもん知らねぇよ!」
小太りの男がそう言うと、再び彼の腕に嫌な熱気が近づいて来た!
「うわぁ!待ってくれ!今思い出すから!……そうだっ!垂れても上がってもいねぇ!普通の目だった!」
「本当か?」
領主は焼きごてをより小太りの男に近づけた。
小太りの男の腕毛が焦げてチリチリになった。
「やめてくれ!本当だ信じてくれーっ!」
「次だ。鼻はどうだったんだ?」
「でかくも小さくもねぇよ!形、形は…そうだ!普通の形だった!」
「普通とは?」
「普通は普通だよっ!」
「普通じゃ分からない。頑張って言語化してくれ。でないと……」
領主が焼きごてを小太りの男の腕に近づけると、彼の体はビクリと反応した。
彼は体中に汗をかいている。
「やめてくれ!そうだな…よく見る形だった」
「よく見る?誰かに似ているのか?」
「自分自身の鼻に似ているとかでしょうか?」
「はっ!そうだ!そうだよ!俺の鼻に似ているんだ!もういいだろ?全て話したからもう解放してくれ!」
「顎の形は?顔の形でもいい。丸い、面長、逆三角、えらが張っているなど色々あるだろ?」
「分かんねぇよ!美人なねーちゃんの顔ならじっと見るが、じじいの顔なんて、いちいち見てねえよ!」
領主がため息をつき、熱された焼きごてを小太りの男の腕に近づけた。
「ひぃ!やめてくれ!」
「もう一回焼いたら思い出すんじゃないか?」
「ぐぅう!」
領主は先ほどの近くに、ほんの少しだけ掠めるように焼きごてを触れさせた。
僅かに肉が焼けた臭いがした。
「顔や顎、顔や顎は……!丸くねぇし、四角くもねぇし、三角でもねぇよ!」
「普通か」
「そうだよ!本当なんだよ!他の奴等にも聞いてくれよ!本当に何の特徴もねぇんだよ!」
「分かった信じよう。だが、嘘だと分かったら次はもっと念入りに焼いてやる。なんなら慣れている者にやらせよう」
「ひぃいい!」
小太りの男はついさっきまで領主達を馬鹿にしていたのに、今ではすっかり別人のように怯えていた。
領主と姉は、牢獄から自身らの部屋に戻るために領城内の廊下を歩いていた。
「昔の人は恐ろしい実験をするのですね」
「それを利用した姉上も怖いですよ」
「自己催眠、ですか……」
実は、先ほどの小太りの男には熱された焼きごてを当てていない。
兵士が同じ形の焼きごとを小太りの男の腕に当てると同時に、領主が持っている焼きごては豚肉に押しつけて、焼ける音と臭いをさせていただけだ。
小太りの男の腕毛は焼いたが、腕は焼いていないのだった。
「いずれにしろ、彼女の証言と大体一致しました。これで首謀者の顔は確定したと言っていいのでしょうね」
「しかし、末端と言っていい人物なので黒幕の顔は知らないようですね。後は殺人犯…。この二人は彼女の証言だけですね」
「いえ、牢にいる残りの奴等にもう一度尋問しましょう。先ほどのやり取りを聞いて、協力的になってくれると有り難いですね」
「ええ、尋問ですね。拷問ではないです」
「姉上…。強調なさらないでください」
「我々は豚肉に焼きごてを当てていただけです」
「……そうですね」
領主は姉を敵に回すまいと強く思った。
領主と領主姉による拷問(?)の回でした。
少しでも面白いと思ったら、評価&ブクマをよろしくお願い致します!喜びます!




