60.迫り来る災害
いつも通り会話だらけです。読みにくくてすみません。
年が明けてから二週間が経った。
北領から使者が早馬に乗ってやって来た。
使者がやって来た理由は一つだけだ。
「イグニス島の火山活動がより顕著になったのね」
噴煙や地震が多発しているそうだ。
ウルカヌス国やその周辺の国ではすでに火山灰にまみれているらしい。
「オーケアノス王国ではどうなのか聞いたかしら?」
「はい。地震を体感する程度だそうで、降灰はしていないとの事です」
ウルカヌス国から各国を中継して大陸中の国に知らせているらしい。
次は王都からセマルグル王国に使者を送るのだ。
「いよいよと考えていいのよね?」
「そのようです。大噴火が確認されたらオーケアノス王国が即時に連絡が出してくれるそうです」
「分かったわ。すぐに感謝の手紙を書くので、持ち帰って渡してくれるかしら」
「かしこまりました」
北領の使者は女王が書いた手紙を持ってとんぼ返りした。
女王の執務室にはいつものように王配と宰相が来ていた。
「すぐに全領に知らせを出しました」
「残党達はどのような動きをするのかしらね。これでも嘘だと叫ぶのだとしたら、大きな衝突が起きるかもしれないわね」
負傷者や死者が出る可能性がある。
女王は人々の衝突で人的被害が出るのはどうしても嫌なので、暗い顔になっていた。
「はい。南領周辺には要警戒を呼びかけました」
残党はおそらくだが北側には移動していないと考えられる。
実際、北部の領では目撃されていないし、大噴火が起きた際に真っ先に降灰する地域なので避けると考えられる。
「年末から姿を見かけていないが、まだ国内にいるのだろうか。もう国外へ逃亡しているのではないだろうか?」
「北、南西、南東からは報告を受けておりません。領主の母親はご立腹のようですから、まず南領から出られないでしょう」
南領への出入りがかなり厳しくなったらしい。
通行証の有無を確認され、なければ身ぐるみを剥がされると噂されている。
どうやら何人かサクラを雇い、別室に連れ去られるのをわざと見せているようだ。
「通行証は商人中心に配布されたようですね」
「しょ、商人から盗んだりしたらどうするの?」
「うーん、分かりにくい合い言葉を用意しているとかじゃないか?」
南領からは通行証についてしか知らされていないが、ご立腹の南領主の母親がそれだけの策で迎え撃つとは思えない。
「分かりにくいって?」
「合い言葉を知らない人には分からないように、会話の中に紛れ込ますとかじゃないか?」
「それは合い言葉を知られたら意味ないし、もし商人も仲間だったら?」
「それはもうどうしようもないな」
女王はどうしたものかと考え込んでしまった。
王配と宰相も他に策はないかと考えているようだ。
「一旦整理させて。残党が南領から脱出していないのは確実なの?変装すれば逃げられるわよね?劇団員だったのだから、変装はお手の物
なのではないかしら?」
「綿密に調べさせているだろうから、変装なんて見破られるだろう」
かなり接近して顔を見られるし、体を触って体型を変えていないかも確認される。
「しかし顔が分かっているのは女性二人だけですので、他の構成員はすでに逃げているかもしれません」
「そうなのよね。通行証を盗んだり偽造されたり商人が仲間にいたら、もう南領から出ているかもしれないのよね」
女王は彼女の性格上どうしても悪い方へと考えてしまう。
女王が再び考え込みそうになった時、王配がいつもより低い声で喋りだした。
「……国外逃亡だとすれば何処に逃げると思う?」
「え?南東側のセマルグル王国か南西側のファウヌス王国でしょう?」
「残党の中にはセマルグルから逃げた奴もいるのに戻るのか?」
「じゃあファウヌスの方?」
「ファウヌスも降灰が予測されているから、それもないと思う」
北側のオーケアノス王国に行くわけないし、女王は王配が何を言おうとしているのか分からなかった。
「アイテール王国ですか?」
「え?それだと一旦セマルグルに入国しないといけないわよ?すでに指名手配したんじゃないの?」
ドナートからの手紙には捕らえそびれたであろう者共を割り出して、指名手配したとあったのだ。
ケレース王国にも国外逃亡したと可能性のある者らの氏名は届いている。
「降灰したらセマルグルはケレースを始め、他国に支援物資を届ける。その出入りに乗じてセマルグルに入国する気なのだろう。セマルグルからの出国時には避難だなんだと言えばいい」
「人に紛れて逃げる…。それも、よりによって挑発行為をしているアイテール王国へだなんて」
女王はこれは本当に偶然なのだろうかと考えて険しい顔になった。
「指名手配している人物の名前は割れているのならば、身分や出自も調査されているのですよね?」
「その言い方だとアイテール王国に関係する人物ってこと?」
「当然調査されているし、ケレースとセマルグルの両方と仲が悪いのはアイテール王国ぐらいだろう?」
「それだけで疑うのって言いたいところだけど、なんだかそんな気がしてきたわ」
女王はこれは偶然ではないのだと思った。
「だとすると、国境に兵士を増員したのは何のためでしょうか?」
「知っているとバレた時のため…とかかしら?」
「そりゃ、犯罪者が潜伏していると知っているのに黙っていたら怒るさ。当たり前だろう」
「結構な数の兵士を集めたらしいけど、随分と大袈裟じゃない?」
「自己紹介みたいなものだろう。同じ目に遭ったら激しく攻め入るつもりなのだろうな」
「そんな、物騒よ……」
女王はそう思いつつ、半分呆れてため息をついた。
「新聞記者を帰さなければよかったな。彼の返還を条件に何か質問に答えさせばよかった」
「それこそ物騒よ。いい記事だけだったんだし」
新聞社の女王を上げて落とす作戦を失敗させた。
「冗談だよ。未遂だったからな」
未遂でなく実行されていたら、王配は何をしてやろうかと考えていた。
「新聞記者は目眩ましのための記事を書くために入国したのかと思いましたが、内情を探らせるためだったのではないかと思えてきました」
「いや、監視した兵士らによるとそんな素振りはしていなかったようだ」
記者は保護と言う名の監視を開始して少し経ったら、目立った行動はせずに大人しく帰国したのだ。
「じゃあ、本当に自社の失態から目を逸らさせるために私の記事を書いたのね。何だか腹立たしいわね。自分達の利益のために誰かを利用するなんて嫌な奴等ね。南領領主の母親の気持ちが分かるような気がするわ」
女王は子どものように拗ねた表情になっていた。
「その怒りは後で聞こう。それで、残党の中にアイテール王国関係者がいるとして、どうやって奴等の動きを掴むかだったな」
「ええ。無理よね。誰かを忍び込ませるか、すでに中にいる者を買収するかぐらいしか思い浮かばないけど、何処にいるのか分からないのでは、どちらも出来ないわ」
「それについてなのですが、殺された男は夜間学校で食事をせしめていた一人です。残党はどうやら職にあぶれた者らを誘っていたようです」
男の身元を探っていたときに判明したらしい。
誘われて断った者の話によると上手い話すぎて断ったようだ。
「誘ってきた者の人相書きは?」
「顔は見えなかったそうですが、背格好や声質などは聞き取れました」
年齢は声から判断すると五十代から六十代、体型は中肉中背だそうだ。
「ついて行った者は何人ぐらいいるのかしら?」
「残念ながら不明です」
「潜入させるとしたら、浮浪人を装わせないとか。厄介だな。そんな奴いないだろう?」
そんな奴とは重大な仕事を任せられるだけの技能を持ち、且つ風体がだらしない感じを装える人物である。
「危険だから駄目よ。実際に殺されている人だっているんだもの。ねぇ、……他に不審死していた事件を調べられる?」
「今までも不要になった者らは殺していたと。あり得ますね」
宰相は顎に手を当てて、少し考えるような仕草をした。
「んー、慣れているようだから、バレないように自殺に見せかけているんじゃないか?だとしたら判別が困難だ」
「それもそうね。だけど、今回殺された男は何処から見ても他殺じゃない?」
「いい駒が手に入ったからだろう。仲間の死を見せて彼女を奮起させるためじゃないか?」
彼女とはヴィオレッタの事だ。
時期が一致しているので十分考えられる。
「それで、誘ってきた者の人相書きは牢屋にいる者達に見せたのか?」
前王の悪事に加担していた元文官達だ。
前将軍などの人質を取られていた元兵士は北東領で、元文官達は王城近くの作業場で刑務作業をしている。
尚、進んで前王側につき、捕縛される際に抵抗した者は全員殺されている。
大人しく捕まった者は悔いる気持ちがあると判断し、働かせている。
「どの者らも知らないそうです」
「刑期を軽くするとチラつかせたか?」
「指示してみます」
兵士がもう一度囚人達に聞いたところ、何人かが思い出していた。
刑期を軽くするのを言う前だったので信用出来そうだが、一応こちらが持っている情報と囚人の情報が一致しているかで見定めている。
「言い出す前に自主的に言ってくれたのね。有り難いわね」
「はい。顔を隠しているという点で思い出した者がおりました。元々は中央領にいたようです」
「何かの理由で西領に移動したのね」
「いつ移動したのかは不明ですが、殿下が領主になられたのが関係しているのではないかと存じます」
王配が領主になったので中央領内は警備が厳重になり、治安が改善されたと報告がある。
「顔を隠した中肉中背の中高年男性が首謀者でいいのかしら?」
「ケレース側はな。だが、セマルグル側はどんな姿かまだ分かっていない」
「ケレース側だってまだ顔も名前も分かっていないわよ。セマルグルは名前は分かっているじゃない。ただどの人物か絞っている段階なだけで」
ドナートから関連が予測される人物の名前が記された表が届いた。
かなりの人数の名前があったが、これでも減らされたらしい。
王配はこんなに捕らえ損なっていたのかと驚いていた。
中には近隣住民なだけだと思われていた人もおり、詳しく調べてみると一部の仕事を請け負っていた、孫請けだったなど新たに発覚した例もある。
かなり大がかりだったので、大樹のよう広く根が広がっていたのだ。
「ややこしいから、ケレース側が首謀者で、セマルグル側が黒幕にしないか?」
「そうね。そうしましょう。それで、黒幕の名前はどれくらいに絞れたの?」
「さあ?アイテール王国と関係している者のあぶり出しは難航しているようだ。どちらも諜報目的で結婚しているのが何件もあるようだし」
「色仕掛けね」
「も、あっただろうな」
「話を戻してよろしいでしょうか?身代わりの人物が証言から作成した、残党共の人相書きを彼らに見せましたが、知らないと言っておりました。こちらも雇われた人間なのでしょう」
結局誰かは分からなかった。
進展がないと言えばない、状況は変わらなかった。
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