56.皆の年越しの仕方
明けましておめでとうございます!本年もよろしくお願い致します!
大広間では王城で働く者達が集まって踊りを踊ったり、飲食したりしていた。
普段入る機会がないので場所なので、それだけで気分が高揚するが、それに加え年越しと言うこともあって大盛り上がりだった。
楽団員が楽器を持ち寄って演奏し、周囲の人達は歌ったり踊ったりその様子を見ていたりしていた。
「こんなに楽しい日がまた来るなんて!」
「酒は美味いし、飯も美味い!」
「大声で笑っていても咎められない!」
「こんなに幸せなことはない!」
とある二人組が腕を組んでクルクルと回り始めると、他の者達も真似しだした。
腕を組替えて時計回り、反時計回りと回転した。
「目が回らないのかしら?」
「だけど、なんだか楽しそうね」
「別にあの踊りじゃなくてもいいのよ。他の踊りをしましょうよ!」
今度は別の踊りの集団が出来た。
次第に集団同士が、踊りを見せ合うようになり対決するかのようになり更に盛り上がっていった。
「いいなぁ。俺も巡回なんかしてないで、あっちに交じりたかったなぁ」
兵士二人は王城の外を見回っていた。
大広間から少し離れているが、大騒ぎしている声がうっすらと聞こえていた。
「だけど、いつもより金が多く貰えるんだからいいじゃないか」
夜勤は日勤より多めだが、祝日だとより多く貰える。
少しでも多くの給金が欲しければ、わざわざ祝日の夜勤を希望する者もいる。
なので平日ばかり休みの者がいるらしい。
「そりゃそうだけど、お祭り騒ぎしたたくないか?」
「そうかぁ?うるさいだけだろう。俺は家で静かにしていたい。というか寝ているな」
「……どうやら俺は、話す相手を間違えたようだ」
「陛下と殿下がリゾットを作られたそうだから、こちらでも作ってみた。みんな食べてくれ」
そう言ったのは、兵士や官吏達が使う食堂担当の料理長だった。
厨房は王族と高官、それ以外に分かれている。
料理長達ははわざわざ大広間まで料理を運んで来たようだ。
「わぁ!美味しそう!」
「いい香りだな!」
「ほら、一杯ずつ配るから並んでくれ」
皆は列に並んで皿を受け取り、次々にリゾットを盛り付けられていった。
「えー、トマトもチーズも両方食べたいわ」
「じゃあ半分ずつ分けましょうよ」
「いい考えね!そうしましょう」
大広間はトマトで赤いリゾットと、チーズで白っぽいリゾットを持った人達が増えていった。
「お、こっちは何ですか?」
今度は若い侍女達は何かが盛り付けられた大皿を持って来た。
「プロシュートで野菜やチーズを巻いただけですけど、皆さんどうぞ」
野菜やチーズのプロシュート巻きは綺麗に並べられているので、とても豪華に見えた。
野菜の色鮮やかさやプロシュートの艶やかさがより、そう感じさせた。
「簡単につまめる物は有り難いな」
人々はひょいひょいと摘まんで食べていった。
「うまい!」
「いくらでも食べられそうだ」
皆は笑顔で次々と食べていき、瞬く間に皿は空になった。
予想以上に食いつきだったので、若い侍女達は少々驚いていた。
「盛り上がっていますね。そろそろ甘い物はいかがでしょう?」
やって来たのは先ほどまで女王にリゾットの作り方を教えていた方の料理長だった。
彼の後ろには他にも何人か料理人がいて、配膳台車を持って来ていた。
「ビスコッティね!」
「沢山焼きましたから、皆さんに行き渡ると思います」
「いただきま――」
兵士と見られる男性が取ろうとした時、料理長が止めた。
「その前に、大広間を少し片付けてください。陛下が御厚意で貸してくださったのですから、綺麗にしてお返ししなければなりません」
いつも女王と接している料理長の言葉で、皆はいそいそと片付けをしだした。
食べかすの掃除や放置された食器を元の場所に戻したりした。
「綺麗になりましたね。皆さんちゃんと手を洗いましたか?」
料理長が尋ねると、皆は生徒のようにいい返事をした。
「では、皆さんどうぞお召し上がりください」
皆は幸せそうに、甘い物を頬張った。
宰相は先生と同じ部屋で話をしていた。
宰相は酒を、先生はお茶を楽しんでいた。
「こんなジジイと一緒に年越ししていいのですか?」
「皆さん、家族や友人と一緒ですからね。私が大広間に行ってもギョッとされるでしょうし」
宰相の顔は城で働いている者なら全員知っている。
他の高官達も参加していないだろうし、皆家族と過ごしているだろう。
「セマルグル王国にいる恋人は呼び寄せないのですか?」
「こちらでは女性の職業は侍女ぐらいしかありませんから……。情勢も良くないですしね」
「陛下は女性の職を増やそうとしていますよ」
「ええ、分かっていますが、今ある物を捨てて来てくれだなんて言えませんよ」
宰相の恋人はケレース王国の出身である。
彼女は宰相と同じく国境が閉ざされた時、ケレース王国外にいた。
故郷に帰れずに困っているときに出会い、同じ境遇ということもあって、意気投合し恋仲になった。
「そうですか……。手紙のやり取りはしていないのですか?」
「していましたが、最近返事が来るのが遅くなっています。きっと別のいい人と巡り会えたのでしょう」
そのうち別れの手紙が来るのだろうと覚悟している。
「まだ好きなのでしょう?諦める前に思い切って手紙に書きなさい」
「好きというか……。ええ、好きなのには間違いないのですが、なんとも複雑な感じでして」
「ふむ。私が補佐に誘った責任があるので、私から手紙を書きましょうか?」
「そんな、先生の手を煩わせるような事は出来ませんよ」
「では、自分で書くのですね。いつ書くのです?」
先生は前のめり気味になった。
「時期をみて書きますから心配はいりませんよ」
「なんと、じれったいことか。今すぐお書きなさい!」
宰相は先ほどから先生に違和感を覚えていた。
いつもはこんなに感情的になる人ではない。
「先生、酔ってらっしゃいます?」
「いいえ、私が酔うわけないでしょう」
「……失礼いたします」
宰相は先生の飲み物の匂いを嗅いだ。
「やっぱり……。お茶にお酒を垂らしていたのですね」
「これっぽっちで酔うわけないでしょう!」
「そうでしたか。失礼いたしました。心配して頂けるのはとても嬉しいのですが、私も大人ですので自分の事は自分でいたしますので大丈夫でございますよ」
宰相は先生を刺激しないように努めた。
「ただ恋人に手紙を書くだけでしょう。何をそんなにうだうだと言っているのです!」
しかし、あまり効果がなかったようだ。
「ええ、もちろんですよ。自分で解決いたしますので、少々お時間を頂ければと存じます」
「怪しいものです。具体的な時期を言いなさい!」
「そう、ですね…。今回の騒動が落ち着いたら――」
「いつになるのか分からないのに、何を言っているのですか?本当に誰かにとられてしまいますよ?不安な時こそ大切な人に隣にいて欲しいと思うでしょう。貴方の恋人の隣が貴方でなくてもいいのですか?見損ないましたよ」
先生は鼻息が荒くなっている。
「彼女とは長く一緒に居すぎたせいで、いつの間にかすでに家族になった気になっていました」
「それの何がいけないのです?」
「家族ならばまた会えると錯覚していたのかもしれません」
「もう会わないつもりですか?別れるにしても一度会って直接話してからにしなさい」
「ええ……」
先生は確実に酔っているのだろうが、本人が認めないし、先生の意思を尊重したいので宰相は会話を続けていた。
「………」
「?」
先生が静かになったと思い、宰相は嫌な予感がして慌てて先生の呼吸を確認した。
確認するまでは僅かな時間だったが、心臓が早くなっていた。
「すーすー」
宰相が先生の口元に耳を近づけると、先生の呼吸音がしていたので宰相は胸をなで下ろした。
先生は眠っただけだったようだ。
「教壇に立つのが夢なのですから、まだまだ長生きしてください」
次回は1月5日(火)に更新予定です。
少々立て込んでいて執筆速度が落ちております。
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