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記者の話

 短いです。


 そんなまさか、と記者は思った。

 完全に行動を読まれていたため、王配に突撃取材出来なかったのだ。

 形としては警護対象だのなんだの言われたが、これでは監視されているも同然だった。

 イグニス島で記者の仲間が死んだので、本社ではそれの対応に追われており、ケレース王国に派遣されたのは彼一人きりだった。

 せめてもう一人いたら、あるいは人を雇う金があればと悔いた。

 そうすれば、情報のやり取りでもっと上手く動けたはずだ…と信じたい。



「貴方にはこの宿をご用意いたしました。外出なさる時は私共に声をおかけください。もし勝手に外出なさるようなことがあったなら、命の保証はありません。ええ、もちろん素晴らしい記事を書いてくださった貴方にこんな恐ろしい話をしたくはありません。しかし、何分このご時世ですから、世間が混乱しているので何が起こるか分からないのです。ですので、どうか我々の指示に従ってくださいますよう、お願いいたします」



 恐らく近衛兵と思われる若い兵士から言われた。



「私のような、ただの記者にこのような格別のご配慮、誠に感謝いたします。これはもしや女王陛下のご指示でしょうか?」



 記者は笑顔を作って返した。

 本当は睨みつけてやりたかったが、兵士を睨んだところでこの状況が変わるとは思えないので我慢した。



「ええ。陛下は貴方の書かれた記事を見て、照れながらも大変喜んでおられたと聞き及んでおります。ですので、貴方には国内で不自由せずに活動して欲しいのだそうです」

「そうでございましたか。女王陛下の素晴らしさを世界の方々に知って頂きたかったので、一役買えたのは記者冥利に尽きます」



 記者はおべっかを使いながら、相手の腹をさぐろうとした。



「ええ、大変素晴らしい記事でございました。しかし、そんな記事を書いた貴方が殿下の前に突然飛び出して来るなんて驚きました」

「…殿下ではないようでしたが?」



 上司から見せられた王配の王子時代の似顔絵はもっと美男子であった。

 王族が着るような立派な服を着せられていたが、確実に別人だったのだ。



「はい。実は殿下の動向を探っている輩がいるとの情報を得ましてね…。それで相手が仕掛けて来るのならば、殿下が王城へお帰りの時であろうと警戒していたのです。そしたら、まさか、あの素晴らしい記事を書いてくださった記者殿が飛び出して来るとは!いやぁ、驚きました。ですが、結果として貴方を保護出来たのですから、怪我の功名とでも言うべきでしょうか」



 笑顔の兵士を見て、記者は心の中で舌打ちした。



「何処からそんな恐ろしい情報を得たのでしょう?」

「それを言ってしまったら情報提供者の身の危険もあるでしょうから言えません。…記者殿は何か聞いておりませんか?」

「いえ、私は王配殿下が今日王都にお帰りになるとしか聞いておりませんでした」

「それは誰からでしょうか?こちらとしては殿下の御身を守るために情報は流していないのですが…。今後のためにもお聞かせ願いませんか?」



 兵士はじぃっと記者の顔を見てきた。



「それこそ、情報提供者のために明かせませんよ」

「ははは!そうでしたね!ですが、街道に兵士の数が増えたら嫌でも察知出来ますからね。粗方、街道沿いの住民に聞いたのではないですか?」

「ご想像にお任せいたしますよ。ははは!」



 悔しいが読まれているようだ。

 やはり見知らぬ土地で、知り合いもいない状況で情報を得るのは難しかった。

 連合国軍の兵士がいなくなったので、国内の移動や情報収集は簡単だと思われたが、十年封鎖されていた国だと、外国人はかなり目立つ。

 なので警戒され、上手く情報が聞き出せなかった。



「ああ、そうだ。外国の噴火や降灰対応、対策はどうなっているのですか?記者という職業柄、世界情勢にはお詳しいのでしょう?」

「…ええ、もちろんです。しかし記者ですので特別なネタを得なければなりません。何か女王陛下の情報をくださるのなら、喜んでお教えいたします」

「そうですよねぇ。等価交換ってやつですよね。ではお話くださったら陛下の重大な秘密をお教えいたします」




 結局記者が教えてもらった情報は、女王が猫アレルギーという毒にも薬にもならない話だった。

 記者はそれなりの情報を教えたというのに、あんまりな情報だ。

 こちらが与えた情報にも食いつきが悪かったので、もしかしたらすでに得ている話だったのかもしれない。

 話の内容で女王の秘密とやらも変えられたのだろうか。



「やられたな……。はぁ、もう帰りたい……」



 正直言うともっと簡単だろうと思っていた。

 ずっと閉鎖されていた国の人々に外の国の話をすれば、その見返りに面白い話をしてくれると思っていたのに、彼らの反応は薄かった。

 愛想笑いはされたが、それだけだった。


 国境封鎖される前にケレース王国に行った先輩の話だと、ケレース王国民は皆気が優しく穏やかであると聞かされていた。

 しかし記者自身の体験から言うと、別の地域から来た人の話は信じず、表面では人当たりは悪くないようにするが、内面では全く違う顔をしていると感じた。

 聞いていた話と全く別の国ではないかと思ってしまった。

 だが、これは十年間の過酷な生活によって身についてしまった習慣なのだろうと記者は痛感した。



「二年経ってあれだけなのか、それとももっと酷かったのか…。帰国した連合国軍の兵士とかに取材した方がよかったんじゃないか?」



 全体的に綺麗になっていたようだが、記者の国の街道の方が立派だった。


 ここで本来の目的を思い出す。

 別にケレース王国の復興の進捗を調べに来たのではなかった。



「そうだ、大人気の劇の元になった人物を使って、世間の目を逸らすためだった…。はぁ…こんなの何が楽しいんだか…。何が楽しくて、阿呆なおっさんの指示に従わにゃならんのだ…。俺は目眩ましの話を書きたいんじゃないんだよ…ったく…ふざけんなよ…」



 記者は飲食も提供されていたので、酒を頼んで飲んだ。

 飲み慣れない味だが悪くないと思った。

 香辛料のような香りがし、後味がすっきりとしているが最後にはほんのりとした甘さが残った。



「色んな国の酒を飲み歩いて本でも出せねぇかなぁ。いいと思うんだがなぁ…。部署の異動願いを出して諸国放浪美酒日記とか、そんな感じの記事を書きてぇなぁ…」



 記者は女王の猫アレルギーの記事を書いた後に、異動願いを出そうと強く思った。




 エレオノーラ女王陛下は猫アレルギーだった!!みたいな見出しですかね?

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