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19.友人と


 王配とミハイルは王城の外を歩いていた。

 すぐ近くには護衛の兵士がいる。



「いかがなさいました?」



 ミハイルは王配が少し考え込んでいるような表情をしているので尋ねた。

 幼い頃から側にいたので表情の変化には気付ける。

 


「ん…。最近のエレオノーラの様子が気になってだな…」

「先ほどのような?」

「ああ。消極的な発言をしなくなっていたんだが、最近またするようになったんだ」



 女王の性格は基本的に引っ込み思案だ。

 塔に十年間も幽閉されていたのだから、そうなっても仕方ない。

 人との会話も得意ではない。

 それでも本人は努力して人の前に出て発言をしている。



「陛下ご本人に聞いては……いないのですね」

「ああ、聞けていない」

「心配かけたくないと思った行動が、かえって心配かけてしまうのは往々にしてあることです」

「それはそうなんだが、俺には言ってほしい」

「親しい人にほど言いにくい話はありますよ」

「分かってはいるが…」

「全てを共有したいと?」

「そんな感じなんだろうか…」



 王配は視線を落とし、ため息をついた。

 女王に全て聞けたらとも思うし、何故分かってあげられないのかとも思ってしまい、もどかしいのだ。



「彼女は明らかに何かに悩んでいるだろうから、力になりたいんだ。それに間違いはない」

「やはり陛下に直接聞くしかないですね」

「はぐらかされたらどうしようか…」



 王配はいつになく弱気になっていた。

 女王の事になると別人のようになってしまうのをミハイルは知っていた。



「どうしましょうね…。ところで何処に向かっているのですか?」

「何処って訓練場だ。って知っているだろう?」



 ミハイルも王配と共に連合国軍としてケレース王国の王城の敷地内に出入りしていたので、大体何処に何があるのか知っている。



「何処ではなく何故でしたね。何故訓練場に向かっているのでしょうか?」

「そりゃ訓練に参加してもらうからだ」

「何日もかけて来た人にする仕打ちですかね」



 ミハイルはなんとも嫌そうな顔をした。



「仕打ちってなんだ…。そんなに激しい運動はしないから大丈夫だ。今日は弓矢の訓練だから手本を見せて欲しいんだよ」

「…顔見知りの官に聞きましたが、連日、将軍殿から殿下が手本と称してボロボロにされているとか」

「色々あってなぁ…」



 王配は宰相達から言われた内容を思い出していた。

 彼らも言いにくかっただろうに。



「色々とは?」

「色々は色々だ」

「はぁ、私もボロボロにされてしまうのでしょうか…。殿下の顔の痣もそれが原因ですか?」

「マクシムと対戦したらこうなった。侍女に頼んで隠してもらったのに、よく分かったな」



 王配は侍女に頼んで痣が消えるまで化粧をしてもらっている。

 かなり薄くなったので、化粧で隠している範囲も僅かなのに友人には見破られてしまった。



「まぁ、一年顔を見ていなくても分かりますよ。…陛下は殿下が訓練での怪我を心配されているとかありませんか?」



 ミハイルはマクシムなら遠慮なく王配の顔を狙うだろうと思った。



「そうなんだろうか…」



 女王は自身が怪我をしたかのように痛そうな顔をしていた。

 王配はそんな女王の顔を思い出していた。



「さぁ?」

「夜、聞いてみるか…」

「そもそも、何故訓練に参加なっているのです?殿下は武人ではありますけど、ほぼ毎日参加なさる必要はないのではないですか?他にも仕事があるのですから断れるでしょう」

「それは苦情があってだな…」

「何の苦情ですか?色々ですか?」

「…そうだ。色々だな」

「…予想はつきますが、言わないでおきましょう」



 え、と王配が驚きの声をあげた。



「ミハイル殿。お久しぶりです」

「はい。ご無沙汰しております」



 将軍とミハイルは握手をした。

 王配はミハイルに聞き返す機会を失った。



「王配殿下、本日もよろしくお願い致します。ミハイル殿もよろしくお願い致します」



 将軍は軽く礼をした。

 きびきびとした無駄のない動きだった。



「ああ。俺は何をすればいいんだ?ミハイルが放った弓矢を剣で打ち落とすとかか?」

「おお!流石よくお分かりで」

「冗談で言ったんだがなぁ…」



 将軍は笑顔なので冗談ではないらしい。



「まずはミハイル殿に手本を見せて頂き、その後に兵士にやらせます。そして最後に殿下とミハイル殿の対戦形式で手本を見せて頂こうと思っております」




 訓練は無事に終わった。

 王配とミハイルはボロボロにはならなかったが疲れて肩で息をしていた。



「お二人とも素晴らしかったです。兵士達にはよい刺激になったでしょう。かく言う私も血が沸き肉躍るような気持ちになりました」



 将軍は簒奪者から指名手配されて逃げ隠れていた。

 数え切れないほど、襲撃されたらしい。

 そんな経歴を持つ人から言われると、王配とミハイルは苦笑いをするしかなかった。



「将軍殿は殿下と試合をしないのですか?」

「私は右手が満足に使えませんから、王配殿下の相手にはなりませんよ」



 将軍は片腕だけでも長剣を扱えるので、王配はそれはないだろうと思っていたら、ミハイルが代わりに言ってくれた。



「いえいえ、イワン殿下との試合はとても素晴らしかったですよ。イワン殿下をあそこまで追い詰める人はセマルグル王国内にもいるかどうか。いえ、世界にいるかどうか…」

「それは言い過ぎでしょう。イワン殿下は前日、夜遅くまで飲酒されていたと聞きました。そうでなければ、あんな簡単な作戦に乗ってくださらなかったでしょう」



 王配の叔父イワンは武術の達人と言っても良いくらいの人だ。

 剣や槍、弓、体術、馬術など言い出したらきりがない。



「叔父には飲み過ぎるなと注意したんですけどね…」

「イワン殿下らしいといえば、それまでですけど…」



 イワンをよく知る二人は苦笑いをするしかなかった。



「ははは!お二人とも改めて感謝申し上げます。それでは別の仕事があるので失礼いたします」



 将軍は去って行った。

 連合国軍の兵士が帰国するので、今まで彼らに任せていた巡回等を自国の兵士でしなければならない。

 各領に知らせるための準備をするのだろう。



「…自分達の部屋に戻るか」

「そうですね…」



 二人は来た時よりも足取りは重く、顔色も良くなかった。



「あとどのくらい訓練に参加すればいいのだろうか。毎日ボロボロになって汗を拭いて着替えて…。何回繰り返せばいいのだろう。すでに日常になりつつある…」

「陛下のご負担が減るのならば、このままでいいのではないですか?」

「…誰から聞いた?」



 王配は足を止め友人を見た。

 数歩進んだミハイルは振り返って王配を見た。



「考えただけです。お二人の体力や性格を考えれば想像つきますよ」

「そうか…」

「ええ、苦情が出るほどとは…」



 ミハイルは呆れかえった表情をし、鼻で笑った。

 他の王配の友人へ、いい土産話が出来たと心の中で笑った。



「うっ…」



 王配は何も言い返せず、渋い顔をするしかなかった。




 王城内のとある一室でアンドレイはジュゼッペ先生と話をしていた。

 二人はアンドレイが国王だった時に何度も会っている。

 今はお互い引退した者同士、気楽に話が出来た。



「そうか、学校の先生を…。ほう、いいですなあ」

「ええ、長年の夢が漸く叶います。陛下には止められましたが、最終的に許可して下さいました」

「陛下も心配しておられるのだろう。貴方がセマルグルの王都にたどり着いた時の状態は、それは酷い有様だったと聞いている」

「一刻も早くと思い、治療を後回しにしたせいですね。陛下と再会した時も陛下は大変驚いていらした。ご自身も痩せ細って…満足に食事が出来なかったでしょうに…。こんなじじいを心配してくださるなんて…」



 先生は肩を震わせて涙を流し始めた。



「女王は人の痛みが分かる人だ。だが、自分自身の痛みは口に出さない。いや、どうやって言うのか分からないのかもしれない。ずっと長い間一人で過ごして来たのだから、我慢しすぎて上手く表現が出来ないのかもしれないな」

「そうでございますね…。何か力になって差し上げたいと常々思っております」



 先生は涙を拭いた。

 拭き損ねた涙は皺を伝って顎から落ちていった。



「本来なら私の孫がその役目のはずなんだがなぁ。申し訳ない」

「王配殿下はよくやって下さっておりますよ。いつも陛下を気遣って下さっておりますよ」



 先生は王配がどれだけ女王を思っているのか知っている。



「それならよかった。しかし、あいつはイワンに懐いていたからか、性格やら何やらはあいつに似たようだからなぁ。子どもの頃は少々扱いづらい時があった」



 少々不満げな顔をするアンドレイは拗ねているようにも見える。



「はて?イワン殿下のご性格やらはアンドレイ様に似たと思っておりましたが、私の記憶違いでございましたかな?」



 先生はおどけたように首を傾げる。



「…そうだったかなぁ?少なくとも私はイワンのように色んな女性に手を出していない。妻一筋だ。だが、まぁ、この二人は他の子や孫よりは私に似ているかな」

「エフゲニー国王陛下は外見はよく似ておられますが、温和な性格をなさってますからね」

「そうだな、アレクサンドルもな」

「ああそうでした。王太子殿下のところにもうすぐ、お子がお生まれになるそうですね。おめでとうございます。アンドレイ様から見たら初曾孫でございますね」



 先生は顔をしわくちゃにして笑うと、アンドレイも皺が深くなった。



「そうなんだ。ジュゼッペ殿も曾孫がいるのだろう?」

「ええ、私がこの国にいない間に生まれていたようです。嬉しいですね。本当に」

「ああ、そうだな」



 二人が笑っていると、王配がやって来た。

 訓練の帰りなのでやや疲れた顔をしている。

 ミハイルは女王とエレーナのもとに行ったようだ。



「失礼いたします。お二人とも何やら楽しそうですね」

「ああ、お陰様でな。アレクセイ大丈夫か?」

「はい。大丈夫ですよ。この通りなんともありません」



 王配は腕を回してどこも悪くないと示した。



「殿下は毎日のように兵士の訓練を手伝って下さっているのですよ」

「ほう?」



 アンドレイがニヤリと笑うので王配は唾を飲み込んだ。



「はい…」



 王配は危険を感じたので、余計な発言をしないようにした。



「そうだ。今、アレクセイは私似だと話していたんだ」

「まぁよく言われますけど、妻一筋とか、多趣味とかがですかね?」

「んまぁ…それもあるかな」



 言い終わってアンドレイは含み笑いをした。

 その様子を見た先生が笑い出したので王配は不思議そうな顔になった。




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