↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『記憶を喰らう暗殺者の冷徹な復讐劇』  作者: beck2026
第4章:【アスター領復興と、国境の防諜戦 編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/104

第81話 王都の激震と、凍土の防衛線

 王都の空を覆う冬の薄雲の下、ローゼンバーグ商会本部の最上階執務室には、暖炉の爆ぜる心地よい音が満ちていた。


 上質な黒革の椅子に深く腰掛けたルナ・ローゼンバーグは、手元に届いたばかりの重厚なトランクと、封蝋の施された羊皮紙の束を眺めていた。

 トランクの中には、整然と並べられた金貨五千枚の眩い輝き。

 そして羊皮紙には、前軍務卿派閥の頂点に君臨するクロムウェル公爵が、帝国商館から定期的に巨額の裏金を受け取っていた証拠――『賄賂台帳原本』が生々しく記されていた。


「……ふふっ。本当に、恐ろしい男ね、ノアは」


 ルナの艶やかな唇が、冷酷かつ魅惑的な弧を描いた。

 傍らに控える商会筆頭秘書が、驚嘆の面持ちで頭を垂れる。


「査察使として送り込まれたバルトロメウス男爵を利用して合法的な討伐令状を発行させ、隣領のカルステン子爵を損害ゼロで電撃解体するとは……。王都のいかなる老獪な政治家でも、これほど無駄のない手腕は振るえません」

「当然よ。あの男の頭の中には『感情』などという不純物は一切存在しないもの。ただ勝率百パーセントの計算式だけを冷徹に実行しているだけ」


 ルナは優雅に立ち上がり、窓の外――王宮の中央にそびえ立つ貴族院議事堂を見下ろした。


「この台帳原本の写しを、王室査問会と近衛騎士団長、そして財務卿の私室へ同時に届出なさい。……クロムウェル公爵閣下の全資産の仮差し押さえと、登庁停止処分を緊急動議で通すわ」

「かしこまりました。公爵派閥の貴族たちも、この動かぬ証拠を見せられれば一斉に蜘蛛の子を散らすように離反するはずです」

「ええ。ノアが北の極寒地で盤面を制圧してくれたのだから、王都の掃除は私が完璧にやり遂げてあげないとね。……商会の全力を挙げて、ノアへの兵站支援をさらに加速させなさい」


 冷徹な暗殺者と、王都の若き女傑。

 二人の描く復讐の幾何学は、王国中枢の巨悪を音もなく絞め殺しつつあった。



        ◇



 アスター領と旧カルステン領を分断する、標高千メートルの白銀の峠道。


 かつては豪雪によって半年間完全に孤立していたこの難所を、今は数百名の人員と荷馬車が行き交っていた。

 中央を歩くのは、青銀の耐寒魔導外套を羽織ったノア・アスター。

 その両手からは、青白い不可視の熱振動パルスが放射され、街道を埋め尽くしていた数メートルの雪壁と氷盤が分子レベルで解凍・圧縮されていた。


 カチ、カチ、カチ……!


 ノアの心臓部――アスター・コアが規則正しく脈動し、溶け出した雪解け水と砕石を瞬時に均一な硬質石畳へと焼き固めていく。

 常人なら数百人の人足と数ヶ月の工期を要する土木工事が、ノアの超並列演算と魔導出力によって、わずか一日で数キロメートル単位で延伸されていた。


「す、凄まじい……。峠の雪がすべて消え去り、馬車が全速で走れる軍用道路が完成していく……」


 現場で警備を指揮していた旧カルステン領の私兵小隊長が、畏怖の眼差しでその光景を見つめていた。

 その隣で、臨時軍政官の任を受けたヴェルナーが厳格な声で兵たちを統率する。


「見とれている暇はないぞ! ノア様が開削された路面に、木枠と敷砂利を流し込め! 本日の作業枠を達成した者には、規定通り小麦二升と温かい肉煮込みの配給が出る!」

「「「おおっ!!」」」


 兵たちと領民工兵部隊から、威勢のいい鬨の声が上がった。

 かつては敵対していた私兵百四十八名も、家族に確実に届く食糧と正当な日当を前にして、今やアスター侯爵家への絶対的な忠誠を示していた。

 恐怖による支配ではなく、利害と生存を完全に一致させるノアの冷徹な統治機構が、人心を完全に掌握していたのだ。


 作業の合間、物陰から音もなくリアが姿を現した。


「ノア様。北の国境哨戒線に展開しているアッシュから、緊急の暗号パルスを受信しました」

「報告しろ」

「国境の向こう――帝国のアイゼンガルド要塞において、異例の兵力再編が観測されました。白鴉に続きカルステン子爵からの定期通信が完全に途絶えたことで、要塞司令部が北方の謀叛あるいは壊滅を確信した模様です。要塞の城門から、帝国正規軍の重装猟兵隊およそ五十名が、国境検問所へ向けて進軍を開始したとのことです」


 リアの報告に、周囲の空気が張り詰めた。

 ついに、帝国正規軍が直接動いたのだ。


 だが、ノアの表情には動揺の欠片もなかった。


「白鴉の記憶から、アイゼンガルド要塞の司令官ヴァルター中将の思考ルーチンは完全に把握している」


 ノアは冷ややかに告げ、街道の先――北の峻険な峰々を見据えた。


「奴は極めて教条主義的な軍人だ。通信途絶の原因を『王国の正規軍による奇襲』と誤認し、まずは国境の要衝を武力威嚇で封鎖しにくる。……五十名の猟兵隊など、誘い込まれた獲物に過ぎん」

「迎撃の配置は」


 リアの問いに、ノアは迷いなく告げた。


「旧カルステン領から接収した帝国製魔導弓五十張、および火薬樽百個。そして我が【局所冷凍弩】を防壁へ据え付ける。……帝国の武器を用いて、帝国の猟兵を無音で呑み込む」


 雪解けの春を待たずして、凍てつく国境の山嶺を舞台に、帝国正規軍との最初の防衛迎撃戦が始まろうとしていた。


お読みいただきありがとうございます!

カルステン子爵から押収した決定的な賄賂台帳を受け取り、王都でクロムウェル公爵への資産差し押さえと登庁停止を仕掛けるルナ!

一方の北方では、ノアが魔導土木によってアスター本領と旧カルステン領を結ぶ大動脈をわずか一日で切り拓き、人心と兵站を完全に掌握していきます。

しかし、密偵たちの音信不通を受けて、国境のアイゼンガルド要塞から帝国正規軍「重装猟兵隊五十名」が出撃!

接収した帝国の兵器を用い、帝国の精鋭を迎え撃つ冷徹な防衛戦がいよいよ幕を開けます。

物語の展開やノアの冷徹なロジックを楽しんでいただけましたら、

下にある【★評価】や【ブックマーク追加】、いいねをポチッと押して応援していただけると非常に励みになります!

次回、第82話もどうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。