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『記憶を喰らう暗殺者の冷徹な復讐劇』  作者: beck2026
第1章:【王都暗闘と、悪逆の契約 編】

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【第28話:「地下金庫の残骸と、夜鴉の検分」】

「……開いたぞ、ノア様」

重厚な大金庫の扉が、ゆっくりと外側へ押し開かれる。

冷え切った鉄と、長年密閉されていた古い魔力の匂いが、地下最深部の重苦しい空気の中に漂い出した。

先ほどまでカジノのオーナーとして強気な笑みを浮かべていたバトラーは、己の得意だった風魔法の構築記憶をノアに奪われ、さらには全てのよりどころを失った恐怖から、崩れ落ちるように床へと這いつくばっていた。

だが、ノアはその敗者を一瞥すらしない。

冷徹な瞳を金庫の内部に向け、静かに足を踏み入えた。

「はは、は……ここだ、ここにあるはずだ……! アスター家の設計図も、俺が蓄えた莫大な財宝も、すべてこの金庫の中に……!」

バトラーは縋るような目で這いずり込み、闇雲に床や棚を探し回る。

しかし、彼の歓喜の声は次の瞬間、絶望的な悲鳴へと変わった。

金庫の内部は――完全な「ぬけがら」だった。

そこにあったのは、空っぽの木箱の山と、無造作に放り出されたいくつかの壊れた魔導具の残骸だけ。

肝心のアスター家の魔導具の設計図(本物)の姿は、影も形も残っていなかった。

「なっ……!? ない、ないぞ……!? 設計図はどこだ!? 確かにここに、厳重に保管してあったはずだ……!!」

バトラーは狂ったように木箱をひっくり返し、床をひ掻きむしった。

だが、どれだけ探しても、欲しかった富も、一族の誇りであるはずの設計図も出てこない。

構築記憶を奪われた彼の脳髄では、この金庫の管理や資産の流通経路を思い出そうとしても、ただ激しい頭痛と空虚感が広がるばかりだった。

ノアはそんなバトラーを冷ややかに見下ろしつつ、金庫の隅に散らばる微細な痕跡に目を凝らした。

床の隅、埃にまみれた古い羊皮紙の切れ端が落ちている。

ノアはそれを拾い上げ、わずかに眉を寄せた。

そこに記されていたのは、見覚えのない商業ギルドの魔導印と、数日前に帝国の主要都市へと向けられた「国外密輸ルート」の輸送マニフェストの控えだった。

「……そういうことか」

ノアの呟きに、バトラーが青ざめた顔を上げた。

「な,なんだと……!? 待て、私は知らないぞ! 誰がこれを持ち出した……!?」

「お前は最初から、もっと大きな組織にいいように使われていただけの『使い捨ての駒』に過ぎなかったんだよ」

ノアの冷たい声が、金庫室の静寂に突き刺さる。

自分が莫大な富と権力を握っていると思い込んでいた男は、実際には背後の巨大な組織――帝国に通じる何者かに、すべての価値を裏で抜き取られていた。

利用され、富をかすめ取られ、そして用済みとして捨てられる。

自業自得の絶望が、バトラーの精神を完全に破壊し尽くした。

「あ……が,ぁあ……、そんな……私は……私は……っ!!」

頭を抱え、床に突っ伏して泣き叫ぶバトラーを放置し、ノアは金庫の内部の他の物資や帳簿の確認を始めた。

設計図の本体こそ持ち去られていたが、金庫の隅や周辺の管理室には、この裏カジノが蓄えていた裏帳簿、違法な資金の流れを示す記録、そして他の貴族や悪徳商人間との密約の証拠が山のように残されていた。

これらは、カジノを物理的に潰すだけでなく、裏社会のパイプを根絶やしにするための重要な証拠となる。

しばらくして、地下金庫への通路から、静かな足音が響いてきた。

「――ノア様」

姿を現したのは、暗殺部隊【夜鴉】のリーダー格であるアッシュだった。

その背後には、盾を構えたシオンと、短剣の血を拭うリアの姿もある。

アッシュたちは上階や通路の残党狩り、およびパニックを起こした客たちの誘導と通信遮断を完璧に遂行し、この地下最深部まで合流を果たしていた。

「上の制圧は完了したか?」

「はい。カジノの警備兵および残党の拘束、全員終了しました。外部への通報や救援の試みも、すべてルナの電子戦支援によって完全にブロックしています。外の人間は、ここが平穏な夜の遊技場であると信じたままです」

アッシュは淀みなく報告し、床で泣き叫ぶバトラーと、荒れ果てた金庫の内部を一瞥した。

「……どうやら、設計図の本体はすでに別のルートで持ち出されたようですね」

「ああ。この金庫の有様と、隅に落ちていた密輸マニフェストの控えがその証拠だ。……俺たちは、別の巨大な網の尻尾を掴んでいたらしい」

ノアの言葉に、アッシュはわずかに目を細め、シオンとリアに視線を送った。

「リア、金庫の周辺や外周に繋がる裏の搬出ルートを洗え。シオンは、この男と回収した裏帳簿や証拠品の数々を確実に回収し、アスター家の旧宅跡の隠れ家へ搬送する準備をしろ」

「「御意」」

二人の幹部は即座に動き出し、無力化したバトラーを両側から引き起こした。

もはや反撃の気力すら残っていないバトラーは、布切れのように引きずられながら、暗い地下通路へと連れ出されていく。

ノアは金庫の冷たい壁に手を当て、地下深くの澱んだ空気を吸い込んだ。

カジノ編はまだ終わらない。

バトラーという小間使いを断罪しただけでは、奪われた家族の記憶も、一族の遺産も戻ってこない。

この裏カジノの裏で糸を引いていた「帝国の影」の正体を暴き、そのすべてを喰らい尽くすまで、復讐のロジックは止まらない。

ノアは静かに振り返り、夜鴉の部隊を引き連れて、地下金庫の闇から地上へと歩き出した。

お読みいただきありがとうございます!

第28話「地下金庫の残骸と、夜鴉の検分」、いかがでしたでしょうか?

バトラーを追い詰めてたどり着いた地下大金庫の最深部は、すでにもぬけの殻であり、アスター家の設計図は別の組織によって持ち去られた後でした。

富と権力の幻想にしがみついていた男が「使い捨ての駒」に過ぎなかったと知る絶望と、現場に残された密輸マニフェストの控え。

そして、アッシュ、シオン、リアら【夜鴉】の精鋭たちが合流し、証拠品や裏帳簿を回収して着実に後始末を進める、裏社会のリアルなプロセスを描き出しました。

ただ敵を倒して終わりではなく、その背後にある巨大な闇――「帝国の影」へと繋がる網の尻尾を掴んだノアたち。

カジノ編はここからさらに深く、壮絶な裏社会の抗争と真相究明へと突入していきます。

もし「金庫がぬけがらだった絶望感がたまらない」「夜鴉の組織的な動きがカッコいい」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】をタップして星による応援や、ブックマーク登録をよろしくお願いいたします! 皆様の応援が執筆の大きな力になります。

次回、裏カジノの制圧を完了したノアたちが次に打つ手とは――? どうぞお楽しみに!

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