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『記憶を喰らう暗殺者の冷徹な復讐劇』  作者: beck2026
第1章:【王都暗闘と、悪逆の契約 編】

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第19話:「星天の鍵と、共鳴する狂気」

深夜のローゼンバーグ公爵邸。

ただ一人、主の帰還を待っていたルナの執務室に、夜の闇を滑るようにノアが降り立った。

「……ずいぶんと血の匂いが強いわね。聖騎士はどうだったの?」

「瞬殺した。奴の脳味噌から、五年前の『答え』も一緒に引きずり出してきた」

ノアは静かに手袋を外し、深海の瞳に極寒の殺意を宿しながら、聖騎士の死体から捕食した記憶の全貌を語り始めた。

それは、アスター侯爵家がなぜ異端の濡れ衣を着せられ、一夜にして焼き払われたのかという、凄惨な真実。

狙いは、王都の地下に張り巡らされた巨大な魔力網の心臓部。星天の羅針盤だった。

アスター家は代々、その羅針盤を起動するための『鍵』を極秘に守護する一族だったのだ。

枢機卿ザカリーは、その鍵を奪って王都の魔力を独占し、神にも等しい絶対的な権力を握るために、アスター家を異端審問という名目で襲撃した。

燃え盛る屋敷。

異端者に神の浄化をと嘲笑いながら、両親を炎へと突き落としたザカリーと聖騎士の姿。

ノアの脳裏に焼き付いたフラッシュバックは、今もどす黒い憎悪となって彼の胸の内を焼き焦がしている。回想は一瞬だ。だが、その一瞬に込められた殺意の質量は、部屋の空気を凍りつかせるほどに重かった。

「……本当に、腹立たしいわね」

パチン、と。

ルナの持っていた扇子の骨が、力任せにへし折られた。

彼女は泣きもしなければ、安い同情の言葉も口にしなかった。

ただ、かつて自分が継母に毒を盛られ、鳥籠の中でゴミのように扱われていた日々を重ね合わせるように、氷のように冷たく、底知れぬ怒りをその美しい顔に張り付かせていた。

「あなたたちの過去も、私の過去も。全部自分たちの都合で踏みにじって、神様気取りで笑っている白豚どもが」

ルナは立ち上がり、血の匂いが残るノアの頬に、その白い手をそっと添えた。

「ノア。私の最強の共犯者」

「なんだ」

「ローゼンバーグ公爵家の全財産と権力を、すべてあなたに賭けるわ。……あの薄汚い教会を、根絶やしにしましょう」

それは、同情などではない。

魂レベルでの狂気の共鳴だった。

互いの復讐心を自分自身のものとして完全に同一化し、地獄の底まで付き合うという絶対的な誓い。打算で結ばれた愛憎の仮面は、もはやどんな正義の絆よりも深く、分かち難いものへと昇華されていた。

ノアはルナの手を静かに重ね返し、微かに、ひどく残酷な笑みを浮かべた。

「ああ。すべて喰らい尽くしてやる」

同じ頃。

光の教会、大聖堂の地下霊廟。

そこには、王都の裏路地で発見された聖騎士の部隊長の無残な遺体が横たえられていた。

首の骨を完全に粉砕され、明後日の方向を向いた頭部。

それを見下ろす枢機卿ザカリーの瞳には、かつてないほどの濃密な警戒心が渦巻いていた。

「……我が教会の最高武力である聖騎士を、詠唱の隙も与えず物理的に破壊し、記憶を抜き取るなど。ただの暗殺者にできる芸当ではない」

ザカリーは死体の首元に残された、極低温の凍結痕に触れた。

五年前、アスター家を焼き払った炎の中で、ただ一人死体が見つからなかった侯爵家の長男。

彼がもし生きていれば、ちょうど十歳になる。

「……ふん。地獄の底から、アスターの亡霊が這い戻ってきたというわけか。星天の羅針盤の『鍵』を抱えたままな」

ザカリーは冷酷に立ち上がり、背後に控える純白の異端審問官たちへ振り返った。

「事態は変わった。相手は神聖なる我々の脅威となる異端の悪魔だ。……国家騎士団にも号令をかけろ」

「はっ! いかがなさいましょうか」

「聖騎士が殺された王都東区を完全に封鎖し、戒厳令を敷け。……大規模な異端狩りを行う。怪しいネズミは女子供であろうと構わん、すべて捕らえ、火あぶりにしろ」

教会の権力をもってすれば、国家の騎士団すら私兵のように動かすことができる。

アスターの亡霊を確実に炙り出すため、ザカリーはついに王都の裏社会全体を焼き払うという盤面破りの暴挙に出たのだ。

東の空が白み始めた頃。

王都東区。ルナの治める領地であり、ノアの夜鴉が潜むアジトの周囲へ向けて、無数の純白の鎧が地響きを立てて進軍を開始していた。

神を名乗る絶対的な巨悪と。

過去を喰らう底辺の復讐鬼たち。

王都を二分する、血みどろの全面戦争の火蓋が、ついに切って落とされた。

お読みいただきありがとうございます!

五年前の真実、アスター家の悲劇の理由が【星天の羅針盤の鍵】であることが判明しました。

そして、その凄惨な過去を知ったルナの反応。同情して優しく抱きしめるのではなく、「本当に腹立たしい。全部根絶やしにしましょう」と怒りを完全に共有する姿こそが悪逆令嬢たる彼女の魅力であり、タイトルにある二人の愛憎の仮面の真骨頂です。

後半では、聖騎士を殺されたザカリーが国家権力(騎士団)まで動員し、ルナたちの治める東区全体への大規模な異端狩りを開始しました。

個人の暗殺戦から、ついに軍勢vs軍勢の市街戦(全面戦争)へとスケールアップします!

もしこの展開に少しでもワクワクしていただけましたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】から星を入れて応援していただけると、執筆の限界突破の力になります!

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