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『記憶を喰らう暗殺者の冷徹な復讐劇』  作者: beck2026
第1章:【王都暗闘と、悪逆の契約 編】

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第18話:「囮の猟犬と、死体の記憶」

王都東区、陽の当たらない入り組んだ裏路地。

生臭い風が吹き抜けるその場所で、三つの白い法衣が、音もなく石畳の上へ崩れ落ちた。

「……クリア」

暗闇の中から、小柄な少女・リアが血濡れた短剣を振り払いながら姿を現す。

彼女の足元には、教会の『光の魔法』を詠唱する間もなく、喉笛を正確に切り裂かれた下級異端審問官たちの死体が転がっていた。

「シオン、怪我はないか」

「問題ない。あいつらの初撃の炎は、俺が全部弾いた」

巨漢の少年シオンが、焼け焦げた分厚い外套を脱ぎ捨てながら答える。

それを確認し、路地裏の屋根から飛び降りてきたアッシュは、静かに短剣を鞘に収めた。

魔石の耐性を持つシオンが敵の魔法を正面から受け止め(ヘイトを集め)、その隙にリアが死角から機動力を活かして喉を裂き、アッシュが全体の指揮と残敵の掃討を行う。

ノアから叩き込まれた『対魔法使い用』の暗殺戦術は、彼らの初陣において完璧なまでに機能していた。

「よし、撤収するぞ。これ以上騒ぎになれば――」

アッシュが仲間に合図を送ろうとした、その瞬間だった。

――カッ!!!

突如として、裏路地全体が真昼のように強烈な『純白の光』に照らし出された。

「なっ……!?」

直後、圧倒的な質量の光の魔力が大剣の形をとり、シオンの巨体を消し飛ばすほどの勢いで振り下ろされた。

「シオン!!」

「ぐ、おおおおおっ!!」

シオンが咄嗟に交差させた両腕の魔石を盾にするが、その防御ごと弾き飛ばされ、路地裏のレンガ壁に深くめり込む。

さらに追撃として放たれた光の閃光が、回避行動をとったリアの足を焼き焦がし、アッシュの腹部を深く抉った。

「が、はっ……!」

血反吐を吐きながら、アッシュは石畳に倒れ伏す。

圧倒的すぎる。先ほどの下級審問官たちとは、放っている魔力の桁が違った。

「ネズミどもが。我が教会の神聖なる探求部隊を、随分と減らしてくれたな」

目が眩むほどの光の中から現れたのは、純白の重装甲を纏った大男だった。

教会の最高武力である『聖騎士』の部隊長。

彼は冷酷な瞳で血まみれのアッシュたちを見下ろし、その手に握られた光の大剣をゆっくりと振り上げた。

アッシュは死の恐怖に直面し、激痛に顔を歪めた。

だが、彼らは決して逃げようとはしなかった。

這いつくばったまま、その瞳には『絶望』ではなく、どす黒い『狂信の炎』を宿して聖騎士を睨みつけていたのだ。

「……気持ちの悪いガキどもだ。まあいい、異端の塵は神の炎で消し炭にしてくれる」

聖騎士はアッシュの頭を鉄靴で踏みつけ、勝利を確信したように薄ら笑いを浮かべた。

「光栄に思え。五年前、反逆者アスターの家を焼き払った時のように、貴様らもこの聖なる炎で――」

勝ち誇った聖騎士が、因縁の長台詞を叫び、アッシュの首へ光の剣を振り下ろそうとした、まさにその瞬間だった。

『――無駄口を叩くな』

頭上の死角。

一切の殺気も、魔力の波長すらも完全に消し去った完全な無音の空間から、黒いスーツの少年が落下してきた。

「なっ――」

聖騎士が頭上の異常に気づき、詠唱を始めようと息を吸い込んだ時には、もう遅かった。

ノアは聖騎士の肩に音もなく着地するなり、その純白の兜の両脇を素手で鷲掴みにした。

暗殺者の【狂気的な筋力】と、【氷結の魔力】による関節の急速凍結。

ゴキィィィィンッ!!!!

魔法を放つことも、悲鳴を上げることも許されない。

聖騎士の首は、真後ろに向けて百八十度、無慈悲にねじ切られていた。

光の大剣が霧散し、首の骨を完全に粉砕された聖騎士の巨体が、糸の切れた傀儡のようにドサリと崩れ落ちる。

間一髪の救出劇でもなければ、熱い鍔迫り合いすらない。

完全な奇襲による、一撃の蹂躙。瞬殺だった。

「……記憶は、死体から読めばいい」

ノアは微塵の感情も動かさず、足元に転がる聖騎士の頭部を掴み上げた。

「【冥界神の捕食(イルカルラ・エクリプス)】」

掌から溢れ出した漆黒の闇が聖騎士の脳髄を侵食し、五年前のあの日、アスター家の屋敷を包んだ炎の記憶と、聖騎士が長年培ってきた『光の魔力の運用技術(戦闘経験)』をごっそりと喰らい尽くす。

黒い塵となって消え去る聖騎士の亡骸を払い落とし、ノアは足元で血を流しているアッシュたちを見下ろした。

「……よく足止め(餌の役目)を果たしたな、アッシュ」

アッシュたちは、自分たちが『聖騎士の隙を作るための完全な囮』であったことを最初から理解していた。

だからこそ、死の恐怖を前にしても逃げず、聖騎士が油断して隙を晒すその一瞬まで、その場に留まり続けたのだ。

血まみれのアッシュは、腹部の傷を押さえながらも、強大な敵を一撃で粉砕した絶対的なボスの姿を見上げ、狂おしいほどの忠誠に満ちた笑みを浮かべた。

「……光栄です、ボス。鴉(俺たち)は、あなたの一撃を通すためなら、いつでも死肉になります」

「今は死ななくていい。立て。帰るぞ」

一切の甘さも、同情もない。

ただ『冷徹なロジック』と『圧倒的な暴力』だけで結ばれた、最高に歪で、絶対的な主従関係。

王都の闇夜に、五年前の因縁の敵をいとも容易く葬り去った復讐鬼と、その狂信者たちの静かな足音だけが響き渡っていた。

お読みいただきありがとうございます!

夜鴉の初陣、そして聖騎士との激突でした!

「敵が長台詞を喋っている途中に背後から首をへし折る」という、ノアの容赦のなさを全力で描写しました。

主人公がピンチに駆けつけて敵と会話する……なんて悠長なことはしません。彼には「死体から情報を引き出せる」というチート能力があるので、生かしておく理由が全くないんですよね(笑)。

そして、自分たちが囮であることを理解した上で任務を全うするアッシュたち。

ただの仲良しごっこではない、この歪で強固な組織の在り方が、少しでもかっこいいと思っていただけたら嬉しいです!

もし「聖騎士瞬殺最高!」「死亡フラグすら許さないノア様!」「夜鴉たちの忠誠心しびれる!」と思っていただけましたら、

ページ下部の【☆☆☆☆☆】から、星を入れて応援していただけるとめちゃくちゃ執筆の励みになります!

次回、ついに五年前の記憶の全貌が……? 引き続きよろしくお願いいたします!

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