第14話:「神聖なる檻と、影の創設」
真夜中のローゼンバーグ公爵邸。
ルナの執務室の窓が音もなく開き、スラムから帰還したノアが降り立った。
黒いスーツには焦げ跡一つ、血の一滴すら付着していない。
「おかえりなさい。……それで、教会の尻尾は掴めたの?」
「ああ。だが、ただの尻尾じゃなかった。一番奥の、黒く腐りきった臓物だ」
ノアは窓辺に立ち、深海の瞳に冷たい怒りを滲ませながら、教会の暗殺者から簒奪した記憶をルナに告げた。
五年前の真の黒幕である『枢機卿ザカリー』の名。
そして、教会の地下深くで、孤児たちに魔石を埋め込むという非道な人体実験が行われていること。
「……虫唾が走るわね」
報告を聞き終えたルナの表情から、いつもの艶やかな笑みが消え失せていた。
神の名の下に、抵抗できない子供をモルモットにする。
その構図は、かつて別邸の鳥籠の中で、継母イザベラの毒の実験台にされ続けていた自分自身の過去と嫌というほど重なった。ルナが握りしめた扇子が、ミシミシと嫌な音を立てる。
「……その隠し施設、私が公爵家の私兵を動かして潰すわ。教会の連中に、地獄を見せてやる」
「いや、ルナ。お前は動くな」
怒りに呑まれかけたルナを、ノアの静かで絶対的な声が制止した。
「公爵家(表の権力)が直接動けば、教会に警戒され、尻尾切りで終わる。それに……」
ノアは自身の掌を見つめた。
暗殺者の身体能力と、氷結の魔力。どんな大人でも一瞬で殺せる力を持っている。だが、それだけでは足りないのだ。
「俺一人で暴れ回っても、殺せる数には限界がある。教会という国家そのものを内側から崩壊させるには、情報網と、暗殺と、破壊工作を同時に行う【俺の手足】が必要だ」
「手足……?」
「教会の隠し施設は、俺が単独で潰す。そして、そこに捕らわれている孤児たちを全員回収し……俺が暗殺術を叩き込んで、俺直属の『影の部隊』を作り上げる」
ノアの口から出たのは、単なる人助けや正義感ではない。
神への復讐という途方もない目的を達成するための、極めて冷徹なロジックだった。
「……教会にすべてを奪われ、憎悪を抱えている連中だ。俺が力を与えれば、この世で最も鋭く、決して裏切らない刃になる」
十歳の少年が口にするには、あまりにも傲慢で、狂気に満ちた野心。
だが、その暗い瞳の奥に燃える絶対的なカリスマに当てられ、ルナは小さく息を呑んだ。
ああ、やはりこの少年はただの復讐者ではない。いずれ王都の闇をすべて喰らい尽くし、頂点に立つ本物の化け物だ。
ルナの唇に、再び極上の悪逆令嬢の笑みが戻る。
「……最高にイカれた提案ね。いいわ、ノア。あなたの復讐のために、新しい牙を研ぎなさい」
ルナは立ち上がり、ノアの前に歩み寄った。
「彼らを匿うための秘密の施設と、裏社会で生きていくための偽造戸籍。それから部隊を運用するための莫大な資金は、すべてローゼンバーグ公爵家の力で私が用意してあげる。……だからあなたは、何も気にせず存分に暴れてきなさい」
「助かる。お前は本当に、最高の共犯者だ」
ノアが年相応の微かな笑みを浮かべると、ルナも満足そうに目を細めた。
互いの役割は明確だ。
ルナは表の貴族社会を支配し、資金と権力でノアをバックアップする。
そしてノアは、裏社会の闇を統べる「長」として、教会の首を刈り取る。
ノアは身を翻し、再び夜の窓辺へと立った。
バルガスから奪った情報網により、教会の隠し研究施設の場所はすでに特定できている。
「待っていろ、ザカリー」
自身から家族を奪った巨悪への死刑宣告。
そして、新たな自分の手足(組織)を獲得するため。
復讐鬼から影の支配者へと覚醒したノアは、一直線に教会の地下施設へと跳躍した。
お読みいただきありがとうございます!
ついにノアが、単独での復讐の限界を悟り、自身の手足となる「影の部隊」の創設を決意しました!
ただ可哀想な子供を助けるのではなく、「教会への憎悪を利用して自分の暗殺部隊にする」というダークファンタジーならではの冷徹な決断です。
そして、その無茶苦茶な提案を莫大な資金と権力で即座にバックアップするルナ。
二人の「最強の共犯関係」のバランスも、ここからさらに強固になっていきます。
次回、ノアがいよいよ教会の隠し研究施設へと単独でカチコミをかけます!
もし「ノアがボスになる展開熱い!」「悪役令嬢なルナのサポート頼もしい!」「早く教会の施設をぶっ潰してほしい!」と思っていただけましたら、
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次回、怒れる狂犬の蹂躙劇をお楽しみに!




