表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/16

#8 Contract――取引き

(あいつ、ほんとにご熱心だな……)

 パンタミーマは、チクローポが見える船内厨房から、いつものように座席客室にいる彼をこっそり眺めていた。

(なんか、いつも同じとこバラしていじくっては、また組み立ててるみたいだけど、無駄じゃないかな? 口と一緒で手も不器用そうだもんな)

 パンタミーマはこんなこともあろうかと用意していたのか、ポケットからオペラグラスを取り出して、作業するチクローポの手元を凝視した。

(まさか、こんなもん持ってるとは思わんだろう)

 彼女はにたにたしながら、しばらく観察していたが、なにかに気づいたのか、オペラグラスをポケットにしまうと、つかつかとチクローポに歩み寄っていって立ち止まると、

「おーい、変態野郎さん。あたし昔、国際宇宙機構にいたことがあってな、そんでカメラにもすこし凝ったことあんだけど。あのね、その部品てあれだろ? カラーフィルターとかイメージセンサーじゃないのか? ――つまりあれだ、変態野郎は撮れた映像の色が気にくわん。でもさ、あたしの知ってる限りじゃその辺の部品て消耗品じゃなかった? ――だから、修理しても無駄じゃない? どうなのよ?」

 といった。

 パンタミーマをよく知る人からすれば、彼女が長々と喋るときは返答を期待していないサインだと、すぐ気づいたのだろうが、チクローポはそうではなかったようで、作業しながらも耳を傾けていたようだった。

 そして、彼をよく観察していた人なら、チクローポがどの語句に反応したかも、読めたはずだった。

「ねえ、聞いてたの? なんかいいなさいよ」

「……」

「あのさ、いまあんた集光部を磨いてるけど、こんなのじゃ無理だよ」

 パンタミーマはそういって作業机にある研磨剤を手にとった。

「荒いね、荒すぎる。番手いくつだよ? それに仮に上手く磨けたとしても、磨いたとこすり減ってるから、そこに隙間できんじゃん。つまり、無駄。ましてや手作業じゃ現代の精密な研磨機に勝てるわけないじゃん」

「どうしろと?」

(お、反応しやがった)

 パンタミーマは胸のなかでガッツポーズをしながらも、名案を思いついたようだった。

「じゃあさ、取引きしようぜ。――あんたはあたしに下品な渾名をつけた理由を話す。そしたらあたしはその部品を安く入手してやる。ただし、仲介手数料は頂くよ」

「しつこいな」

「しつこくねーだろ。あんただって同じじゃん。無駄なこと、ねちねちといつまでもやってるじゃん。小さなことに拘りすぎなんじゃない? ――イタリア語でいうなら、そうだね……チッコリーノ(小さなことに拘る奴)って渾名がぴったりだよ」

 突然、チクローポは強い口調でいった。

「それはやめろ!」

 彼からすれば、無なる境地に近づくことは拘りを捨てることだったが、無論、彼女からすれば強い執着に見えたのだろう。

 だからだろうか、パンタミーマはそれ見たことかといわんばかりに、突っ込んでいった。

「ほらみなよ。あんただっていわれて嫌な渾名とかあんじゃん。それと同じだってば」

 チクローポは作業の手を止めて、彼女をちらちら見てから、訥々といった。

「パンティーが触れてるのは?」

「はあ? なにいってんだよ! レディーがそんなこと口にできるかよ。――まあ、あえていうなら、あそことかあれとかよ、そういうしかないだろ」

 彼女はそういいながらも、まったく照れた様子はなかった。

「急所だ」

「ああ、そういえばそういういい方もあったな。で、それと渾名がどう関係するんだ? ただ覗きたかったんじゃないの? まあ、見せても減らないけどさ……」

「急所に触れすぎる」

 チクローポはきっぱりといった。

「上手いこというね、あんた。でもさ、あのとき咄嗟に思いついたようには見えないんだよねえ……。だってあんた、あのとき寝ぼけてたろ?」

「そうでもない」

 パンタミーマはそれを聞いて半分納得したような顔をした。

「オスの孔雀だ」

「これまた上手いこというじゃん。喋ると案外、面白いやつだな、あんたって」

「それで部品は?」

 こうして二人は最初の契約を交わした。

 だが、それが公平だったかといえば疑わしい。

 チクローポは戦争で高騰した部品代や配送料を、それまでの三分の一以下にする利益を得たが、パンタミーマはより大きな利益を得たように見えた。

 彼女はとっつぁんこと、掌貨物長のパルウスから密輸ルートをつかって部品を格安で入手し、チクローポから得た金を二人で山分けにした。

 そして、(ぶつ)はパンタミーマが管理するために彼女の自室に保管されることになった。

 チクローポは部品が必要になると、必然的に彼女の自室を訪ねるしかなかった。

 だから取引きの場は、彼からすれば無駄話であり、彼女からすれば退屈しのぎになった。

 こうして、二人の会話量は以前より、10%増量(当社比)ということになった。

 とはいえ、パンタミーマはなにも気づいていなかった。

 チクローポが国際宇宙機構という語句に敏感に反応したことを。

 その彼は、彼女の畳み掛けるような口振りに翻弄されながらも、ルフトがどうして魅了ではなく幻惑されたのかに気づいていった。

(磨いても元に戻らない……)

 こうして、チクローポはルフトがなぜ、残ったひとつの水晶を返したがらなかったのかを、理解したのだった。

 ではあっても、彼は相変わらず座席客室に機材を持ち込んで、分解整備や組み立て作業をやめなかった。

 その時間はチクローポにとって、黙想であり情報収集の場だったのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ