#13 Self-conscious――ディジア
ディジアとエイミーの出会いは勘違いにはじまった。
パンタミーマの過労騒動――妊娠の疑い――があったその夜、彼女はいつものように戦場恐怖症の患者、ヴォロンターリオの心理療法のために、医務室にやってきた。
しかしそこで、パンタミーマが過労で倒れたことを知り、その病室に足を運んだ。
人影が途絶える深夜帯だったが、ディジアはそこでエイミーと出会った。
「リッキー !!」
彼女はいきなり別人の名前で呼ばれたことに、驚きこそしなかった。
(随分と直情的な人ね……)
その時、彼女は機関整備の夜勤の合間を縫って来ていただけに、淡い水色の整備作業服姿だったから、なおさらそう思ったのだった。
しかしディジアは、そんな素振りなど見せず、差し障りのない会話を交わしていた。
(なんていうのかしら……思ってることといってることがズレてる感じかな?……。もっとも、腹黒さはないみたいだけど……動揺が顔に出ちゃうタイプかしら?)
彼女は短いやり取りからエイミーの性格を分析していった。
(国際宇宙機構で、タミーと同じ仕事してたとはとても思えない。だってタミーはいうなればやり手だったんだろうけど、この子は純情すぎるもの。そりゃ馬も合わなかったでしょう……。確かに凸と凹は上手くすれば組み合わさりもすんだろうけど、ちょっと想像できないわね……。でも、人間関係ってそういうものかもしれない……)
ディジアとエイミーの会話はそう長くつづいたのではなかったが、彼女がエイミーに抱いた第一印象は、決して良いものではないようだった。
ともかくも、ディジアはしばらくすると、話にけりをつけて担当患者の部屋に戻っていった。
事件はその数日後に起きた。
《リヴァール号》が、中継地である火星の衛星ダイモスに駐機していたときのことだった。
彼女の担当患者であったヴォロンターリオが船から脱走したのだ。
その夜、彼は強いストレス障害からか、いつも以上に興奮していた。
ディジアは必死に話しかけ、耳を傾けていたが、ヴォロンターリオはその隙を突いて、彼女を突き飛ばして転ばせ、船の外に出てしまったのだ。暴力を前にして彼女は無力だった。
しかしディジアは諦めなかった。
間に合わせで結成された捜索隊の前に立ち、演説を打って士気を上げると、捜索の最前線へ出てヴォロンターリオを見つけ出した。
だが状況は最悪だった。
彼は爆薬が取り付けられたベストを着て、起爆装置を手にしていたのだ。
それでもディジアは躊躇うことなく、語りかけながら彼に一歩また一歩と近づいていった。
冷静な彼女はそのとき起こったことを克明に憶えていた。
ヴォロンターリオがにやりと笑ったあと、一瞬恐怖に顔を歪めながら身体をぴくりと緊張させ、
「エイミー!」
と絶叫するやいなや、起爆装置を作動させたのを見た。
(死ぬ……)
彼女の脳裏を過去の出来事が、走馬灯のようにひた走ったかはわからない。
だが、ディジアは次の瞬間、背中になにかがぶつかってくるのを感じながら、地面が急速に近づいてくるのを目にした。
その直後、猛烈な衝撃波と爆風を浴びて、耳が聞こえなくなったことに気づいた。
(ここはどこ?……)
数十秒だろうか、彼女は朦朧とした音のない世界にいた。
しばらくして上体を起こしたとき、ぶつかってきたのがチクローポであることに気づいた。
彼は彼女を庇うために体当たりして地面に伏せさせ、覆い被さったのだった。
チクローポの両腕が血まみれなのを目にした彼女は、すぐに医学的な診断を行った。
それは、反射的な行動だったのかもしれない。
しかし、その後はそうではなかった。
辺りを見回し、血肉の飛沫を浴びて泣き崩れながら嘔吐しているエイミーの元へと、ふらふらしながら向かったのだった。
彼女が一番重症と見たからだった。
(この子……もう駄目かもしれない。だって、あまりにも無防備な性格だもの……)
「リッキー……」
エイミーが意識を失う前に彼女の顔を見ながら呟いた勘違いが、さらに彼女の確信を強めさせた。
(エイミー……あれはあなたを呼んだんじゃないのよ……。それに、わたしはリッキーじゃない……可哀想な人……。思い込みが強すぎる……)
しかしディジアは後に、自分の感覚が見込み違いだったと疑ったのか、エイミーの急性ストレス症状の改善に、意外な提案をすることになる。
(わたし……人の可能性を自分の思考の枠に嵌めすぎてたのかもしれない……)
そしてまた、彼女はエイミーから受けた影響からか、重大な決断をすることにもなるのだった。
もっともそれは、《リヴァール号》が事件のあった火星の衛星ダイモスを去って、次の中継地であるベスタに着くまた先のことだった。




