第16話:夜明け前の報告
路地にサイレンの光が差し込み、青と赤の点滅が倒れた捕獲班の影を揺らした。
その光の中を、風間が駆け込んでくる。
「優斗くん! 朔弥くん! 美咲くん!」
普段は絶対に崩れないはずの顔に、はっきりと焦りが浮かんでいた。
三人はすぐに返事を返す。
「大丈夫です、風間さん!」
「俺たちは無事だぜ!」
「怪我もないよ!」
その言葉を聞いた瞬間、風間の肩がわずかに落ちた。
胸の奥から、安堵がそのまま漏れ出すような息がこぼれる。
「……よかった……本当に……」
だが次の瞬間には、いつもの冷静な表情へ戻り、周囲の自衛隊員へ鋭く指示を飛ばした。
「全員拘束しろ! 装備も回収! 負傷者は救護班へ! 急げ、まだ増援が来る可能性がある!」
自衛隊員たちが素早く動き出す。
倒れた捕獲班の数を見て、誰もが息を呑んだ。
「……こんなに送り込まれていたとは……」
風間の呟きは、驚愕と警戒が入り混じっていた。
風間はレオンの方へ歩み寄り、倒れた捕獲班を見渡しながら言った。
「……レオンくん……君一人でこれを……?」
その声には、信じられないという色が濃く滲んでいた。
「ち、違う違う!」
優斗が慌てて手を振る。
朔弥と美咲も続く。
「俺たちも戦ったから!」
「そうだよ、レオンくんだけじゃないよ!」
朔弥は苦笑しながら肩をすくめた。
「……まぁ、レオンが一番すごかったけどね」
風間は三人を見て、目を見開いた。
「……君たち……ここまで戦えるのか……?」
狭山市駅前事件のSNS動画しか知らない風間にとって、三人の戦闘力は想定外だった。
(……校長室で訓練を受けてみないかと誘ったが……まさかここまでとは……)
驚愕が隠しきれない。
だがレオンは、風間の驚きなど気にしていなかった。
一歩、風間に近づく。
「そんなことより風間。あいつらはどこの所属だ」
低く、静かな声。
怒りはもう収まっている。
だが、その奥にある鋼は消えていない。
風間は短く息を吐き、首を振った。
「今すぐ断定はできない。だが……調べる。必ずだ」
レオンは風間の目を見据え、ゆっくりと頷いた。
「……頼む」
風間は護衛隊に指示を出す。
「四人を家まで送れ。ここは私たちで片付ける」
「了解!」
美咲がレオンの腕をそっと引く。
「……帰ろう、レオンくん」
優斗と朔弥も疲れた表情で頷き、護衛車へ乗り込む。
レオンは最後に風間へ言った。
「風間、連絡を待つ」
風間も真剣な表情で返す。
「必ず知らせる。……気をつけて帰れ」
護衛車が走り去り、風間は静かに息を吐いた。
自衛隊員が押収した装置を箱に詰めていく。
その中で――
一つの装置が、微かに光った。
ピッ……。
画面に文字が浮かぶ。
〈送信完了〉
風間はその光に気づき、眉をひそめた。
「……何だ、今のは……?」
だが、装置はもう沈黙していた。
―中国・第一の襲撃者―
北京・情報部地下室。
薄暗い部屋に、冷たい蛍光灯の光が落ちる。
「……日本での作戦班、全滅です」
報告を受けた上官は、手にしていた資料を静かに置いた。
「回収は?」
「不可能です。自衛隊に押さえられました。通信も遮断され、情報は一切……」
上官は眉をひそめ、モニターに映る少年の姿を見つめる。
「例の少年は?」
「……健在です。むしろ、想定以上の戦闘力を確認しました」
沈黙が落ちる。
やがて上官は低く呟いた。
「……さすが『光の少年』と言われるだけはある、か……」
部下が驚いたように顔を上げる。
「勇者……という噂、ですか?」
「日本が少年の情報を隠している可能性がある。ハッキングしてでも情報を探り出せ」
「了解しました」
中国は――
レオンを日本の隠し玉と誤解したまま、情報戦へと舵を切った。
―ロシア・第二の襲撃者―
モスクワ・軍情報局。
分厚い防音扉の奥、冷たい空気が漂う作戦室。
「……第二班、通信途絶。全員です」
報告を受けた将校は、無表情のままモニターを見つめる。
「日本の自衛隊も動いているらしいが、少年一人に、我々のエージェントが……?」
「いや、違う。日本が何かを隠している」
将校は椅子から立ち上がり、窓の外の雪景色を見つめた。
「……少年を確保できれば、我が国の戦力は跳ね上がる。次の手を考えろ」
「了解」
ロシアは――
レオンを日本が兵器化している存在と誤解したまま、軍事的警戒を強めていく。
―アメリカ・第三の襲撃者―
アメリカ・極秘研究施設。
白い無機質な部屋に、電子音が響く。
モニターに大量のデータが流れ込んでいく。
「……データ受信。対象レオンの戦闘反応、解析開始します」
研究員が目を見開いた。
「これは……人間の反応じゃない……! 圧力波……重力変動……? 何だこれは……!」
別の研究員が声を上げる。
「観察班からの映像も届きました! 影との戦闘記録です!」
背後で軍服の男が静かに言った。
「――やはり、あの少年は特異点だ」
研究員が振り返る。
「次の作戦はどうしますか?」
軍服の男は迷いなく答えた。
「決まっている。奪う。どんな手を使ってでも」
モニターに文字が浮かぶ。
《対象:レオン 危険度:S 優先度:最上位》
アメリカは――
レオンを世界の均衡を変える存在と判断し、本格的な奪取作戦へと動き出した。




