第7話:真実の名を告げる時
三人の説明が終わり、風間大臣の話もひと段落したあと――
リビングには、重く、しかしどこか次の段階を求める沈黙が落ちた。
その沈黙を破ったのは、朔弥の父だった。
「……レオンくん。君にも、聞きたいことがある」
レオンは静かに顔を上げた。
「はい」
朔弥の父は慎重に言葉を選びながら続ける。
「君は……一体、何者なんだ? どうして影の化け物と戦える? どうして三人を守れるほど強い?」
美咲の母も震える声で言った。
「あなたがいなかったら……三人はどうなっていたか分からない。だからこそ……知りたいの。あなたが何者なのかを」
雫は美咲の袖を握りしめ、不安そうにレオンを見つめていた。
レオンは――
一度、目を閉じた。
(……ここまで来たら、隠す理由はない)
三人の家族は真実を知る権利がある。
レオンはゆっくりと息を吸い、そして覚悟を決めた。
「……まず、これから話す事で、嘘はつかないと誓います」
「俺は――この世界の人間ではありません」
大人たちの表情が一斉に強張る。
だがレオンは続けた。
「こことは別の世界……アルティリアにある、アラリウス王国第一王子、レオン・ウル・アラリウス。勇者として育てられた者です」
リビングの空気が震えた。
優斗の母が息を呑む。
「……王子……? 勇者……?」
レオンは頷いた。
「はい。俺の世界では、魔王軍が率いる魔物が存在し、それに対抗するために勇者が必要でした。俺はその役目を担うために育てられました」
美咲の父が慎重に問う。
「……では、なぜこの世界に?」
レオンは静かに答えた。
「女神に……導かれたからです」
大人たちの目が揺れる。
「この世界に来た時、夢の中で女神に会いました。魔王がこの世界へ逃れた。世界を守れ――そう告げられました」
朔弥の母が震える声で言う。
「……魔王……?」
レオンははっきりと頷いた。
「はい。影の魔物が現れているのは、魔王がこの世界に来ているからです」
優斗の父が息を呑む。
「……つまり……この世界が狙われている……?」
「正確には、魔王が逃げ込んだ世界がここだった。だから魔物が漏れ出している。俺はそれを止めるために来ました」
美咲の母が震える声で問う。
「じゃあ……三人と出会ったのも……運命だったの……?」
レオンは少しだけ困ったように笑った。
「……俺は偶然だと思っています。ただ、女神が何を考えているかは……分かりません」
三人はその言葉に胸がざわついた。
レオンは続ける。
「俺は、この世界の人間ではありません。でも――俺がこの世界で最初に出会ったのは三人でした。だから……俺は三人を守ると決めたんです」
美咲の母が涙をこぼす。
優斗の父は深く息を吐き、朔弥の父は静かに頷いた。
雫は小さく微笑んだ。
「……レオンお兄ちゃん……ありがとう……」
レオンは静かに頭を下げた。
「こちらこそ……俺を信じてくれて、ありがとうございます」
レオンがすべてを語り終えたあと、リビングには深い沈黙が落ちた。
王子。
勇者。
異世界。
女神。
魔王。
どれも現実離れしている。
だが――
レオンの声は震えていなかった。
嘘をつく者の目ではなかった。
三人の家族は、その誠実さを感じ取っていた。
最初に口を開いたのは、朔弥の父だった。
「……レオンくん」
レオンは姿勢を正す。
「はい」
朔弥の父は、しばらく言葉を探すように沈黙し、やがて静かに言った。
「君の話は……信じがたい。だが――嘘ではないことは分かる」
レオンは深く頷いた。
優斗の父が続ける。
「異世界の王子だろうが勇者だろうが……そんな肩書きはどうでもいい。大事なのは――」
彼は三人を見て、そしてレオンを見た。
「君が、三人を守ってくれたという事実だ」
美咲の母は涙を拭いながら言った。
「……あなたがいなかったら……この子たちは……どうなっていたか分からないのよ……」
レオンは静かに頭を下げた。
「俺は……守りたかっただけです。それが、俺の役目だから」
そして――
朔弥の父が、深く息を吸って言った。
「レオンくん」
レオンは顔を上げる。
「……君がどこの世界の誰であろうと、君が三人を守ってくれた事実は変わらない」
その声は、父親としての覚悟を帯びていた。
「だから……うちは君を危険人物とは見ない。むしろ――」
朔弥の父は、まっすぐレオンを見つめた。
「君を、うちの家族として受け入れたい」
リビングの空気が震えた。
優斗の父も、美咲の母も、その言葉に静かに頷いた。
「レオンくん。君が朔弥のそばにいてくれるなら、安心できる」
「美咲も……あなたを信じてる。私たちも同じよ」
「優斗も、君を仲間だと言っていた。その気持ちは、私たちも同じだ」
レオンの目がわずかに揺れた。
(……家族……)
その言葉は、彼の世界では決して軽くない。
王族として生まれ、勇者として育てられ、常に役目を背負ってきた。
だが――
家族として受け入れられるという温かさは、この世界で初めて感じたものだった。
レオンは深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。俺は……この世界で、初めて居場所を貰った気がします」
朔弥の父は、穏やかに微笑んだ。
「これからは……うちの子だ。遠慮はいらないよ。レオンくん――いや、レオン」
レオンは胸に手を当て、静かに、しかし力強く言った。
「……はい。俺は、朔弥たちを守るためにここにいます。そして……この家を守るためにも」
その言葉に、三人も大人たちも、胸が熱くなった。
レオンは――
正式に、朔弥の家族として迎え入れられた。




