第16話:影の報せ
夕暮れが完全に落ち、街灯が静かに灯り始めた頃――
レオンは朔弥の家の前に戻ってきた。
鎧の金属が歩みに合わせて微かに鳴り、その音が玄関前の石畳に吸い込まれていく。
昼間の探索でまとった魔力の残滓が、まだ鎧の表面に薄く漂っていた。
レオンは軽くノックした。
「……戻ったぞ」
すぐに足音が近づき、扉が開く。
顔を出したのは朔弥だった。
「あ、レオン。おかえり」
その声には、どこか安堵の色が混ざっていた。
「ただいま。……もうみんな来ているのか?」
「うん。優斗と美咲も来てる。雫も一緒」
「雫……美咲の妹か」
レオンが確認すると、朔弥は笑って頷いた。
靴を脱いで家に上がると、廊下には夕飯の匂いがふわりと漂っていた。
台所では朔弥の母が鍋をかき混ぜている。
「レオンくん、おかえりなさい。夕飯もう少しでできるからね」
「ありがとうございます。助かります」
レオンは軽く頭を下げ、リビングへ向かった。
リビングでは、優斗と美咲がソファに座り、その横で小学生くらいの少女――
雫が、美咲の袖をつまんで座っていた。
雫はレオンを見るなり、ぱっと目を輝かせる。
「レオンおにいちゃん、おかえり!」
「ただいま、雫」
レオンはわずかに表情を緩めた。
鎧姿の彼に物怖じしない子どもは、そう多くない。
「お、レオン。おかえり」
優斗が手を挙げる。
「おかえりなさい、レオンくん」
美咲も柔らかく微笑む。
レオンは軽く頷き、朔弥の隣に腰を下ろした。
雫が興味津々に鎧をつつく。
「今日もかっこいいね、レオンおにいちゃん」
「そうか。ありがとう」
レオンが照れたように返すと、優斗がニヤニヤしながら肘でつつく。
「お前、雫には甘いよな」
「子どもは守るべき存在だ。普通だろう」
「はいはい、勇者様は優しいことで」
そんなやり取りに、美咲と朔弥もつい笑ってしまう。
だが、笑いの奥には今日の出来事を共有しなければならないという緊張がわずかに残っていた。
レオンはその空気を感じ取り、静かに口を開いた。
「……さて。俺も話がある。お前たちも、今日のことを話してくれ」
三人は自然と姿勢を正した。
雫も、美咲の袖を握りながら静かに座り直す。
日常のリビングに、ほんの少しだけ非日常の気配が混ざった。
朔弥が息を整え、口を開く。
「……まず、校長室でのことなんだけど」
優斗と美咲も真剣な表情で頷く。
レオンは腕を組み、三人の言葉を逃さないように耳を傾けた。
「今日、校長室に呼ばれて……風間大臣って人が来たんだ」
レオンは小さく首を傾げる。
「……その風間大臣とは誰だ?」
「あ、そっか。レオンは知らないよな」
優斗が苦笑する。
美咲が補足した。
「日本の政治家の人で……国の偉い人。私たちの力のことを知ってて、話をしに来たの」
「政治家……国の上に立つ者、ということか」
レオンはゆっくり頷いた。
朔弥が続ける。
「俺たちの力が国にとって重要だって言われた。これから先、協力をお願いすることになるかもしれないって」
レオンの表情がわずかに引き締まる。
「……なるほど。力ある者は、どの世界でも求められるものだ」
優斗が肩をすくめる。
「まあ、いきなり偉い人に呼ばれたらビビるよな。でも、悪い人じゃなかったよ」
美咲も小さく頷く。
「うん。私たちのこと……ちゃんと見てくれてた」
レオンは三人の表情を順に見て、静かに言った。
「お前たちがそう感じたのなら、信用していいだろう。だが、油断はするな力を持つ者は、常に利用される可能性がある」
その言葉に、三人は自然と背筋を伸ばした。
雫だけが、不安そうに美咲の袖を握りしめる。
美咲は妹の頭を優しく撫で、安心させるように微笑んだ。
三人の報告が終わると、レオンは一度ゆっくり息を吐き、真剣な表情で言った。
「……では次は、俺の番だ」
朔弥、優斗、美咲の三人は自然と姿勢を正す。
雫も空気を読んで静かに座り直した。
レオンは三人の顔を順に見て、静かに告げた。
「――狭山湖の裏手で、ダンジョンを見つけた」
その瞬間、リビングの空気が凍りつくように張り詰めた。
優斗が息を呑み、朔弥の表情が強張る。
美咲は思わず雫の肩を抱き寄せた。
雫の小さな手が震えている。
レオンは続けようと口を開き――
その場の空気が、静かに深まっていった。




