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第11話:バレた。いや、バレすぎた

  ―朔弥邸・朝―


 カーテンの隙間から差し込む光が、昨夜の疲れを無理やり剥がすように部屋を照らしていた。

 朔弥は布団の中で丸くなったまま、スマホのアラームを止める。


「……起きたくねぇ……」


 隣ではレオンがすでに起きていた。

 背筋を伸ばし、静かに窓の外を眺めている。


「おはよう、朔弥」


「……おはよ……」


 まだ眠気の残る声で返しながら、朔弥はふらふらとリビングへ向かった。

 リビングに入った瞬間、玄関のチャイムが鳴った。


「……誰だよ、こんな朝っぱらから……」


 ドアを開けると、制服姿の優斗と美咲が立っていた。

 優斗は寝癖を直しきれず、頭をかきながら言う。


「おはよ……いや、なんかさ。昨日のことが気になってよく寝れなくてよ。早めに来ちまった」


 美咲は不安そうに眉を寄せていた。


「……一緒に行ったほうがいいかなって……その……怖くて……」


 朔弥は二人の顔を見て、少しだけ肩の力が抜けた。


「……まぁ、入れよ。レオンも起きてるし」


 三人が靴を脱いでリビングに入ると、レオンが軽く手を挙げた。


「おはよう、みんな」


 美咲がにこっと笑う。


「レオンくん、おはよう」


 優斗も気楽に返す。


「おはよ、レオン」


 朔弥がリモコンを押し、テレビをつけた。


 ―ニュース速報―


 画面に映った映像を見た瞬間、朔弥の眠気は吹き飛んだ。


『昨夜、狭山市駅前で発生した謎の爆発ですが……』


『SNSに投稿された映像から、四人の人物が戦っている様子が確認されました……』


 黒い影のような魔物。

 光の爆発。

 そして――

 四人の人影。


 顔はぼやけている。

 だが、体格、髪型、動き……知っている者が見れば、誰か分かる。

 朔弥の心臓が跳ねた。


「……は……? ちょ、待って……これ……俺ら……じゃん……!」


 優斗は寝癖のまま固まる。


「……おい……マジかよ……完全に俺らだろ……!」


 美咲は口元を押さえ、震える声で言う。


「ど、どうしよう……これ……絶対バレてる……!」


 レオンは腕を組み、淡々と画面を見つめていた。


「この世界の情報伝達は速いな。まぁ、あれだけ派手に戦えば、隠し通せるはずもない」


 朔弥は叫ぶ。


「いや、そうだけどさー!!」


 ―SNSは地獄だった―

 スマホの通知が鳴り止まない。

 トレンドを開くと――


 #狭山駅爆発

 #影の怪物

 #謎の四人組

 #美少女ヒーラー

 #光の勇者


 画面に映るタグの羅列に、朔弥が思わず叫んだ。


「美少女ヒーラーって誰だよ!!?」


 その声に、美咲がびくっと肩を震わせる。


「わ、わたし……!? えっ、わたしなの……!?」


 優斗はスマホを覗き込みながら、半ば呆れたように言った。


「いや、どう見ても美咲だろ……てか光の勇者ってなんだよ……!」


 朔弥は頭を抱え、床に崩れ落ちそうになりながら叫ぶ。


「俺ら、完全にネタにされてるじゃん!!」


 SNSには切り抜き動画が大量に投稿されていた。


 ・美咲の回復魔法

 ・優斗が爆風で吹っ飛ぶ瞬間

 ・朔弥の《爆裂》

 ・レオンのシルエット(※顔は映っていない)


 コメント欄は地獄。


「この子、ヒーラー? 可愛すぎ」

「爆発のやつ、魔法だよな? 絶対魔法だろ」

「影の怪物って何?」

「狭山終わった?」

「―至急―四人組の正体求む」


 朔弥は頭を抱えた。


「……終わった……いや、終わりすぎてる……!」


 ―朝食―


 キッチンから味噌汁の香りが漂い、湯気がゆらゆらと立ち上っていた。

 いつもと同じ朝のはずなのに、空気はどこか張り詰めている。

 母は味噌汁をよそいながら、一度だけテレビを見て、すぐに視線をそらした。


「……昨日のあれ……やっぱり、ただの事故じゃなかったのね」


 その声は、驚きよりも覚悟に近かった。

 父は新聞をめくる手を止め、深く息を吐いた。


「警察も自衛隊もコメントを出していない。……だが、あの映像を見る限り何かが起きていたのは間違いないな」


 朔弥は味噌汁をすすりながら、胃のあたりが重くなるのを感じた。


(……気づいてたんだ、やっぱり……)


 昨日の帰宅時、両親は何も聞かなかった。

 ただ「無事でよかった」と抱きしめてくれた。

 その優しさが、今になって胸に刺さる。


 優斗はパンをかじりながら青ざめている。


「謎の四人組の動画……再生数、もう100万超えてる……」


 美咲は箸を持つ手を震わせた。


「わ、わたし……美少女ヒーラーって……そんな……」


 母は美咲の方をちらりと見て、そっと微笑んだ。


「……美咲ちゃん、昨日……怖かったでしょう?」


 美咲は言葉を失い、小さく頷いた。

 父は新聞を閉じ、レオンを見る。


「……君も、昨日は大変だったな」


 レオンは静かに頷いた。


「危険は、早めに周知すべきだ。魔物の存在を知らなければ、皆を守れない」


 父はその言葉を噛みしめるように聞き、ゆっくり頷いた。


「……そうだな。隠していいものではない」


 朔弥は箸を置き、両親の顔を見る。


「……あの、さ……昨日のこと……」


 母は優しく微笑んだ。


「話したくなったら、話してね。無理に聞き出すつもりはないから」


 父も静かに言う。


「お前たちが無事なら、それでいい。それ以上は……お前たちのタイミングでいい」


 その言葉に、朔弥の胸がぎゅっと締めつけられた。


(……分かってたんだ。全部……気づいてたんだ……)


 レオンはその空気を感じ取り、小さく息を吸った。


(……この家族は……強いな)


 母がふと、レオンの箸の持ち方に気づき、柔らかく笑った。


「レオンくん、箸……上手になったわね」


 レオンは少し照れながら、焼き魚を慎重につまんだ。


「……昨日よりは、うまくいった」


 その小さな日常の温かさが、逆に三人の焦りを際立たせた。


 玄関で靴を履きながら、朔弥は深いため息をついた。


「今日、絶対いろいろ聞かれるよな……」


 優斗はスマホを見ながら言う。


「いや、聞かれるどころじゃねぇよ。お前らだろって言われるレベルだろ、これ」


 美咲は制服の袖をぎゅっと握りしめる。


「……行くの怖いよ……みんな、絶対いろいろ言ってくる……」


 朔弥は頭を抱えた。


「もう……無理じゃね……?」


 レオンは冷静に言う。


「隠し通せるのか?」


「無理だって言ってんだろ!!」


「だろうな」


「だからその冷静さやめろって!!」


 優斗は苦笑しながら肩をすくめる。


「まぁ……行くしかねぇよな」


 その言葉に、三人の視線が自然と重なった。

 誰も大げさなことは言わない。

 ただ、同じ気持ちを胸の奥でそっと確かめ合うような、そんな静かな間が流れた。


 朝の光がリビングに差し込み、四人の影をやわらかく伸ばしていく。


 レオンは玄関で軽く肩を回し、装備を整えた。

 銀色に輝く鎧が朝の光を受けて淡く光る。

 背中には聖剣が収まり、白いマントがふわりと揺れた。


 それだけで、そこに立つ少年が異世界の勇者であることが分かる。

 朔弥は思わず見入る。


「……なんか……昨日より勇者感増してない?」


 優斗は目を丸くする。


「いや増してるどころじゃねぇだろ……背中の大剣、完全にラスボス前の装備じゃん……!」


 美咲は小さく呟いた。


「……レオンくん……すごく……綺麗……」


 レオンは淡々と答える。


「何を言っている? 毎日見ているだろう。それに、俺の装備は魔力に反応して最適化される。昨日より馴染んでいるのは当然だ」


 朔弥は苦笑する。


「当然って言うなよ……俺らまだ現実に追いついてねぇんだよ……」


 レオンは玄関の外に出ると、静かに言った。


「俺は狭山湖へ向かう。アーマーオークが現れた場所を調べる」


 朔弥は心配そうに言う。


「気をつけろよ、レオン。昨日みたいなのがまた出るかもしれないし」


 レオンは振り返り、白いマントを揺らしながら軽く手を挙げた。


「お前もな。学校で何が起きるか分からない」


 その言葉に、三人は一瞬だけ息を呑んだ。


 レオンは朝の光の中へ歩き出す。

 鎧が光を反射し、白いマントが風に揺れ、背中の大剣が低くカンと鳴った。

 その背中は、同じ歳とは思えないほど頼もしく、そしてどこか孤独だった。


 通学路には、すでに噂が飛び交っていた。


「昨日の爆発、何だったの?」

「影みたいなの映ってたよね?」

「自衛隊が動いたって噂も……」

「謎の四人組って誰なんだろ?」


 朔弥は小声で言う。


「やばい……絶対俺らのことだって……!」


 優斗は苦笑する。


「まぁ……バレるよな、そりゃ」


 美咲は胸の前で手を握りしめる。


「……ドキドキして胸が苦しい……」


 朔弥は深呼吸した。


「……覚悟決めるしかねぇ……」


 ―学校―


 教室の扉を開けた瞬間――

 空気が変わった。


「おい見た!? 昨日の動画!」

「これ絶対CGだろ!」

「いやいや、あの影マジだって!」

「この光、誰が出したんだよ!?」

「美少女ヒーラーってこの学校の子らしいぞ!」


 スマホを見せ合い、動画を再生し、教室は祭りのような騒ぎになっていた。


 そして――

 三人が教室に入った瞬間、ざわめきが爆発した。


「お前ら!! 昨日の現場にいたって本当か!?」

「ヒーローかよ!!」

「この光、お前らじゃね!?」

「美咲ちゃん、ヒーラーってマジ!?」

「優斗、吹っ飛んでたのお前だろ!!」


 質問、歓声、スマホの画面。

 三人は一気に囲まれた。


 優斗は押し返しながら叫ぶ。


「おいおい、押すなって!!」


 美咲は半泣きで言う。


「み、みんな近い……!」


 朔弥は完全にパニックだった。


(やばい……やばい……! これ絶対バレてる……!)


 その時――

 校内放送が鳴り響いた。


『三年A組、光野くん、剣くん、天城さん。至急、校長室まで来なさい』


 教室のざわめきが一瞬止まり、次の瞬間、さらに大きなざわめきが起きた。


「うわ……ガチじゃん……」

「校長室!? 何したの!?」

「やっぱりお前らだったのかよ!!」


 朔弥はその場に崩れ落ちた。


「終わった……俺の中学生活……」


 優斗は肩をすくめる。


「まぁ落ち着け。まだ終わらねーよ」


 美咲は不安げに指を絡め、小さく呟いた。


「……怒られるのかな……」


 三人は顔を見合わせた。


 逃げ場はない。

 行くしかない。


 重い足取りで、校長室へ向かうために教室を出た。


 その先で何が待っているのか、まだ誰も知らなかった。

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