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―幕間― 市民視点:光の少年を見た夜

 夕暮れの狭山市駅前。


 いつもなら帰宅ラッシュで賑わう時間帯。

 だが、その日の駅前は――

 地獄だった。


 黒い霧が地面を這い、影が形を持ち、魔物が次々と街へ溢れ出す。


 ゴブリンが車の屋根に飛び乗り、シャドーウルフが影の中から飛びかかり、スケルトンが骨の腕を振り上げ、アーマーオーク幼体が車を片手で投げ飛ばす。


 悲鳴。

 泣き声。

 逃げ惑う足音。

 割れるガラス。

 横転する車。


 日常が、一瞬で崩れ落ちた。


「逃げろ!!」

「こっちだ、早く!!」

「いやぁぁぁ!! 来ないで!!」


 市民たちはただ必死に走るしかなかった。


 その時――

 光が落ちた。


 最初は、夕陽の反射かと思った。

 だが違う。

 光は人から溢れていた。


 駅前ロータリーの中央に立つ、一人の少年。


 金色の光を纏い、影を押し返し、空気そのものを震わせる存在。


「なに……あれ……?」

「光ってる……?」

「人……なの……?」


 誰もが足を止めた。

 恐怖で固まったわけではない。

 その光に、目を奪われたのだ。


 少年は、まるで戦場に降り立った光の象徴だった。


 そして――

 静かに息を吸い込む。


 次の瞬間。


「《光刃連撃ライトラッシュ》」


 光が――

 走った。


 シュバッ!!

 シュババババッ!!


 視界に白い線が刻まれ、その線が消えた後には、魔物が存在ごと消えている。


「すごい……」

「助かる……助かるんだ……!」

「勇者……勇者がいる……!」


 誰かがそう呟いた。

 その声は、絶望の中に差し込む光そのものだった。


 だが、光の少年だけではなかった。

 駅前の別の場所で、三人の少年少女が魔物と渡り合っていた。


 刀を構え、風のように斬り込む少年。

 火と雷を操り、魔物を焼き払う少年。

 光で負傷者を救い続ける少女。


「え……あの子たち……中学生……?」

「嘘でしょ……?」

「なんで……戦ってるの……?」


 市民たちは理解できなかった。

 だが、確かに見た。


 ――三人の子どもが、命を張って街を守っている姿を。


 光の少女が負傷者を治し、魔法の少年が雷で魔物を貫き、刀の少年が影を断ち切る。

 その姿は、恐怖を押し返す希望そのものだった。


 戦場が押し返され始めたその時。

 ロータリーの奥で、黒い霧がゆっくりと形を成し始めた。


 最初に現れたのは――尾。

 長く、しなやかで、闇そのものを引きずるような黒い尾。


 ――シャドーリザード


 そして、その背後。

 霧の奥から巨壁のような影が立ち上がる。


 ――シャドーゴーレム


「なに……あれ……?」

「でかすぎ……!」

「もう……終わりだ……」


 絶望が街を覆い始めた。


 その瞬間――

 光の少年が歩き出した。


 少年はゴーレムを見上げ、静かに呟いた。


「《英雄心臓ブレイブハート》」


 光が脈打ち、空気が震える。

 次の瞬間。


「《光迅裂閃ライトニングラッシュ》」


 ズバァッ!!


 シャドーゴーレムの巨体が、音もなく真っ二つに裂けた。


「え……?」

「嘘……でしょ……?」

「巨人が……斬られた……?」


 市民たちは言葉を失った。

 光の少年は、そのまま三人の子どもたちが戦う方向へ歩いていった。

 その背中は勇者という言葉そのものだった。


 光の勇者がゴーレムを倒した後、三人の子どもたちはシャドーリザードと対峙していた。

 刀の少年が踏み込み、魔法の少年が雷を放ち、光の少女が支援を続ける。


 だが――

 リザードは強かった。


 刀の少年が吹き飛ばされ、魔法の少年が尾で弾き飛ばされ、光の少女が恐怖で足をすくませる。


「やめて……!」

「逃げて……!」

「誰か……助けて……!」


 市民の悲鳴が響く。


 だが――

 三人は立ち上がった。


 刀の少年が叫び、魔法の少年が魔力を練り、光の少女が涙を拭って杖を構える。

 その姿は、誰よりも小さく、誰よりも強かった。


 魔法の少年の魔力が暴れ始めた瞬間、市民たちは息を呑んだ。

 空気が震え、魔力が渦を巻き、炎が形を成す。


「危ない!!」

「逃げろ!!」


 だが、少年の目は覚悟に満ちていた。


「――《爆裂エクスプロージョン》ッ!!」


 世界が光に呑まれた。


 ズッドドドドドドドドドーーーーン!!


 爆風が地面をえぐり、炎が渦を巻き、シャドーリザードが影ごと吹き飛ぶ。

 市民たちは地面に伏せ、世界が白く染まった。


 やがて――

 影は跡形もなく消えていた。


 三人はアスファルトに転がり、砂埃と熱風にまみれながら、それでも笑っていた。


「……勝った……?」

「……勝った……よね……?」

「……爆発しすぎ……!!」


 その笑い声は、恐怖を乗り越えた者だけが出せる本物の笑いだった。

 市民たちは涙を流しながら、その三人を見つめていた。


「ありがとう……」

「助けてくれて……ありがとう……」

「あなたたちが……街を救ったんだ……」


 そして、光の勇者が三人のもとへ歩いていく。

 四つの影が並んで家路へ向かう姿は、戦場を救った英雄たちそのものだった。


 ――「光と三つの炎が街を救った夜」

 市民は忘れない。

 あの夜、光が巨影を断ち、三つの炎が闇を焼いたことを。


 そして、その中心に立っていたのが――

 名前も知らない、ただの子どもたちだったことを。


 ――この街には、光がいる。

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