―幕間― 自衛隊視点:前線に降りた光
―自衛隊第三十二普通科連隊・前線観測報告―
夕暮れの狭山市駅前。
第三十二普通科連隊の前線は、すでに崩壊寸前だった。
ゴブリンの群れは散開し、シャドーウルフは影の中から背後を狙い、スケルトンは銃撃を物ともせず迫ってくる。
アーマーオーク幼体の突進は、装甲車すら横転させた。
「前線維持できません!」
「民間人がまだ残ってる、下がれない!」
「くそっ……弾が……!」
焦りと恐怖が混ざる中、兵士たちは必死に射撃を続けていた。
だが――
その努力は、押し寄せる影の波に飲まれつつあった。
その時だった。
最初は夕陽の反射かと思った。
だが違う。
光は中心から広がっていた。
駅前ロータリーの中央に、一人の少年が立っていた。
金色の光を纏い、影を押し返し、空気そのものを震わせる存在。
「なんだ……あれ……」
「光ってる……?」
「いや……人間……なのか……?」
目を凝らすと、ようやくその姿が見えた。
銀の鎧に身を包み、マントを揺らし、剣を携えた少年――
その全身が、まるで光そのものを纏っていた。
その少年が駅前の中心に立った瞬間、戦場の空気が変わった。
さっきまで街を覆っていた影の圧力が、まるで風向きが変わるように後退していく。
空気がわずかに震え、兵士たちの肌に光の気配が触れた。
「……なんだ……?」
「空気が……軽く……?」
誰もが銃を構えたまま、ただその少年を見つめていた。
少年の身体から溢れる光は、夕陽の反射ではなかった。
それは、彼自身が発している本物の輝きだった。
影が揺れ、魔物が一歩後ずさる。
その中心に立つ少年は、戦場に降り立った光の象徴のようだった。
そして――
少年は静かに息を吸い込む。
次の瞬間。
「《光刃連撃》」
光が――
走った。
それは斬撃というより、光そのものが線を描いて駆け抜けたような動きだった。
兵士たちの視界には、ただ白い軌跡がいくつも刻まれ、その線が消えた後には、魔物が存在ごと消えている。
音が遅れて届き、理解が追いつかない。
ただひとつだけ確かだった。
――光が戦場を支配した。
シュバッ!!
シュババババッ!!
ゴブリンの首が飛び、シャドーウルフの影が焼かれ、スケルトンが粉々に砕け散る。
「な……なんだあの速さ……!」
「光……? いや、人……?」
「いや……あれは……人じゃねぇ……!」
兵士たちは銃を構えたまま固まっていた。
少年が通った後には、ただ光の余韻と、魔物が消えた空間だけが残る。
まるで――
光が魔物を消去しているようだった。
光の少年が戦場を切り裂く中、別の場所で三人の少年少女が魔物と渡り合っていた。
刀を構え、風のように斬り込む少年。
火と雷を操り、魔物を焼き払う少年。
光で負傷者を救い続ける少女。
「おい……あれ見ろ……!」
「高校生か……?」
「いや……中学生……?」
「嘘だろ……」
兵士たちは理解できなかった。
だが、確かに見た。
――三人の子どもが、恐怖を押し殺し、戦場に立っていた。
刀の少年は風のように斬り抜け、魔法の少年は火と雷を連続で放ち、光の少女は負傷者を治療しながら市民を守り続ける。
その姿は、光の少年に続く小さな三つの炎だった。
戦場が押し返され始めたその時。
ロータリーの奥で、黒い霧がゆっくりと形を成し始めた。
シャドーリザード。
そして――
シャドーゴーレム。
「なっ……なんだあれ……!」
「で、でかい……!」
「撃て!! 撃てぇぇ!!」
銃撃。
砲撃。
だが、ゴーレムは微動だにしない。
絶望が前線を覆い始めたその瞬間。
光の少年が歩き出した。
少年はゴーレムを見上げ、静かに呟いた。
「《英雄心臓》」
胸元で光が脈打った瞬間、空気がわずかに震えた。
まるで戦場そのものがこれから起きることを予感して息を呑んだようだった。
光が爆ぜる。
眩しさではなく、熱でもなく――
ただ圧だけが周囲を押し広げる。
兵士たちは思わず息を止めた。
次の瞬間。
「《光迅裂閃》」
少年の姿が、ふっと視界から消えた。
ズバァッ!!
空気が裂ける音だけが遅れて響く。
何が起きたのか理解するより早く、シャドーゴーレムの巨体が――
音もなく、真っ二つに裂けていた。
「え……?」
「嘘……でしょ……?」
「巨人が……斬られた……?」
誰もが言葉を失った。
銃を構えたまま固まる兵士。
口を開けたまま動けない隊員。
崩れ落ちるゴーレムの影を、ただ呆然と見つめるしかなかった。
その場にいた全員が理解した。
――今の一撃は、人間の領域ではない。
少年は振り返りもせず、剣を軽く払って霧を落とした。
その姿は、戦場の中心に立つ光の勇者そのものだった。
光の勇者がゴーレムを倒した後、三人の子どもたちはシャドーリザードと対峙していた。
刀の少年が踏み込み、魔法の少年が雷を放ち、光の少女が支援を続ける。
だが――
リザードは強かった。
刀の少年が吹き飛ばされ、魔法の少年が尾で弾き飛ばされ、光の少女が恐怖で足をすくませる。
兵士たちは息を呑んだ。
(……もう無理だ……)
そう思った瞬間――
三人は立ち上がった。
刀の少年が叫び、魔法の少年が魔力を練り、光の少女が涙を拭って杖を構える。
その姿は、誰よりも小さく、誰よりも強かった。
魔法の少年の魔力が暴れ始めた瞬間、兵士たちは恐怖で固まった。
空気が震え、魔力が渦を巻き、炎が形を成す。
「……まずい……」
「逃げろ!!」
だが、少年の目は覚悟に満ちていた。
「――《爆裂》ッ!!」
世界が光に呑まれた。
ズッドドドドドドドドドーーーーン!!
爆風が地面をえぐり、炎が渦を巻き、シャドーリザードが影ごと吹き飛ぶ。
兵士たちは地面に伏せ、世界が白く染まった。
やがて――
影は跡形もなく消えていた。
三人はアスファルトに転がり、砂埃と熱風にまみれながら、それでも笑っていた。
「……勝った……?」
「……勝った……よな……?」
「……爆発しすぎ……!」
その笑い声は、恐怖を乗り越えた者だけが出せる本物の笑いだった。
兵士たちは涙を流しながら、その三人を見つめていた。
(……あの子たちが……街を救ったんだ……)
そして、光の勇者が三人のもとへ歩いていく。
四つの影が並んで家路へ向かう姿は、戦場を救った英雄たちそのものだった。
夜。
仮設指揮所のテント内。
前線で戦った隊員・三浦一等陸曹は、震える手で報告書を提出した。
上官の佐伯三佐が、静かにその書類を受け取る。
「……これが今日、現場でおきた事か……」
「はい……信じていただけるかは……分かりませんが」
佐伯は報告書を読み進める。
ページをめくるたびに、眉がわずかに動く。
「光を纏った少年が……ゴーレムを一刀両断……?」
「中学生と思われる三名が……魔物と交戦し、勝利……?」
「最後は……大爆発……?」
読み終えた佐伯は、しばらく沈黙した。
やがて、静かに口を開く。
「三浦。これは……誇張ではないのだな?」
三浦は背筋を伸ばし、はっきりと答えた。
「誇張どころか……むしろ、書ききれていません」
佐伯は息を吐いた。
「……そうか。ならば、これは事実として扱う」
報告書を閉じ、佐伯は静かに言った。
「――正体不明の四名が、この街を救ったということだな」
三浦は頷いた。
「はい。あの時、確かに見ました。光の少年と……三人の子どもたちが、戦場をひっくり返す瞬間を」
「この件はすぐに防衛大臣へ報告する」
テントの外では、まだ救助活動の声が響いていた。
だが、その夜の戦場を見た者たちは皆、同じ思いを胸に抱いていた。
――あの四人は、ただの子どもではない。
そして、この国の未来は、あの光と炎に照らされていくのかもしれない。




