表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/119

第7話:三人の奮戦、そして影の再来

 レオンが一人で戦場を無双している。

 三人は息を整えながら、その背中を見つめるしかなかった。


 ――自分たちも戦わなければ。

 胸の奥で、そんな思いが静かに燃え始めていた。


 魔物はまだ多い。

 レオンだけでは全てを守りきれない。


「優斗! 右側のゴブリン群を頼む!」

「朔弥! 後方のスケルトンを焼け!」

「美咲! 負傷者の治療と防御を!」


 レオンの指示に三人は頷き、散開した。


「行くぞ……ッ!!」


 優斗が地面を蹴った瞬間、胸の奥で何かが燃え上がった。


 恐怖ではない。

 焦りでもない。

 ――戦う覚悟。


 その覚悟が、侍の技を次々と引き出していく。


「《武威解放》!」


 優斗の全身から、熱が立ち上るような感覚が広がった。

 筋肉が軋み、血流が一気に加速し、視界の色が鮮やかに変わる。


 世界が戦いの色に染まった。

 ゴブリンの動きが、まるでスローモーションのように見える。


「《心技一体》!」


 優斗の呼吸が深くなる。

 胸の奥のざわつきが消え、心が水面のように静かに澄んでいく。


 その静寂の中で、敵の動き、足音、呼吸、重心――

 すべてが見える。


 まるで、世界が優斗のために速度を落としたかのようだった。


「《一閃斬》――ッ!!」


 優斗の身体が風のように前へ走る。


 ザシュッ!!


 一体目のゴブリンの胸を、紅牙が一直線に貫いた。


 優斗は止まらない。

 踏み込みの勢いを殺さず、次の敵へと滑り込む。

 ゴブリンが振り下ろした棍棒を、優斗は《見切り》で紙一重に回避し、そのまま脇腹へ斬撃を叩き込む。


 ズシャッ!!


 黒い霧が弾け、ゴブリンが崩れ落ちる。

 初陣の時とは違う。

 優斗の動きには、迷いがなかった。


 斬るべき場所、踏み込むべき距離、避けるべき角度――

 すべてが自然に身体から溢れ出す。

 まるで、サムライとしての本能が目覚めていくようだった。


「はああああッ!!」


 優斗は叫びと共に、ゴブリンの群れへ飛び込んだ。

 右へ一閃。

 左へ一閃。

 振り返りざまにもう一閃。


 紅牙の軌跡が、夕暮れの駅前に赤い弧を描く。


 ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!


 ゴブリンが三体、ほぼ同時に倒れた。

 優斗の足元に、黒い霧だけが残る。


(……やれる……! 俺でも……戦える……! 守れる……!!)


 優斗の胸の奥で、熱がさらに強く燃え上がる。

 その熱は、恐怖を押し返し、サムライとしての誇りへと変わっていく。

 優斗は紅牙を構え直し、次の敵へと踏み込んだ。


 その姿は、もはやただの中学生ではなく――

 サムライだった。


 優斗がゴブリンの群れへ飛び込んだのを見て、朔弥の胸の奥で、何かが弾けた。


(……優斗があれだけ動いてるのに……俺だけビビってられるかよ……!)


 震えはまだ残っている。

 足も少しふらつく。

 でも――

 仲間が前に立っているのに、自分だけ後ろに隠れているわけにはいかない。


 朔弥は深く息を吸い、震える指先を前へ突き出した。

 火の魔力が指先に集まる。


「《火弾ファイアバレット》!!」


 バシュッ!!


 指先から放たれた火の弾が、ゴブリンの胸を正確に撃ち抜いた。

 爆ぜる炎。

 黒い霧が散り、魔物が崩れ落ちる。


(……当たった……!)


 胸の奥で、熱が広がる。

 初陣では暴れまくっていた魔力が、今は素直に指先へ集まってくれる。

 その手応えが、朔弥の背中を押した。


「よし……! 連射いくぞ……!」


 朔弥は息を整え、次々と火弾を撃ち放つ。


 バシュッ! バシュッ! バシュッ!


 火弾が雨のように降り注ぎ、スケルトンの群れをまとめて焼き砕く。

 骨が砕ける乾いた音が、駅前に連続して響いた。


「続けて……《雷光ライトニング》!!」


 朔弥の指先に青白い光が集まり、空気がビリビリと震え始める。

 髪が逆立つ。魔力が脈打つ。雷が形を成す。


 バチィィィン!!


 雷撃が走り、アーマーオーク幼体の脚を貫いた。

 巨体が痙攣し、動きが止まる。


(……よし……! 俺でも……ちゃんと止められる……!)


 朔弥の胸に、確かな自信が灯り始めた。

 火と雷を連続で放ったはずなのに、朔弥の魔力は乱れない。


 むしろ――

 魔力の流れが、いつもよりスムーズだった。


(……なんだ……? 魔力が扱いやすい……いや、違う……俺が……落ち着いてる……?)


 朔弥は気づく。

 恐怖で暴れていた心が、今は静かに戦いへ向いている。

 その集中が、魔力の流れを整えていた。


「……いける……! 今なら……!!」


 朔弥は深く息を吸い、指先に雷の魔力を集中させる。

 空気が震え、雷光が渦を巻き、槍の形を成し始める。


 初陣では暴発した魔法。

 だが今は――

 魔力が素直に形を作ってくれる。


「《雷槍サンダースピア》!!」


 バチィィィィィン!!


 雷の槍が一直線に走り、スケルトンの群れを貫き、そのまま背後のシャドーウルフまで焼き切った。

 黒い霧が爆ぜ、魔物が一瞬で消し飛ぶ。


「よっしゃ……!!」


 朔弥の顔に、戦士の笑みが浮かんだ。


(……俺でも……戦える……! 二人と並んで……戦える……!!)


 朔弥は魔力を整え、次の魔法の詠唱に入った。

 その姿は、もはやただの中学生ではなく――

 魔法使いだった。


 優斗が斬り込み、朔弥が魔法を放つ。

 二人の背中が戦場の中で光って見えた。


 だが――

 美咲の視界にまず飛び込んできたのは、倒れた人々の姿だった。


 血を流して動けない人。

 瓦礫に挟まれた人。

 恐怖で泣き叫ぶ子ども。

 その前に迫る、影の魔物。


 胸が締め付けられる。

 足が震える。

 喉が乾く。


(……怖い……でも……見捨てられない……!)


 美咲は杖を握りしめ、震える足を前へ踏み出した。


「《上位治癒ハイヒール》!!」


 パァァァァァッ……!


 美咲の杖先から、柔らかい光が溢れ出した。


 その光は、倒れた自衛隊員の胸元へ吸い込まれるように流れ込み、裂けた皮膚を縫い、血を止め、呼吸を安定させていく。


「う……あ……息が……できる……」


 兵士がかすれた声で呟く。

 美咲は涙をこらえながら、次の負傷者へ駆け寄った。


「大丈夫……大丈夫です……! 今、治しますから……!」


 震えているのに、声だけは必死に強く保とうとしていた。

 その時、逃げ惑う親子の背後に、シャドーウルフが影のように迫った。


「危ない!!」


 美咲は反射的に杖を向けた。


「《聖護プロテクション》!!」


 バシュンッ!!


 親子の前に光の盾が展開し、シャドーウルフの牙を弾き返す。


 ガンッ!!


 火花が散り、ウルフが後退した。


「走って!! 今のうちに!!」


 美咲の叫びに、親子は涙を流しながら走り去った。


 美咲は震える足で、次の負傷者へ駆け寄る。

 魔物の影が迫るたびに聖護プロテクションで弾き返し、倒れた人々へ上位治癒ハイヒールを注ぎ続ける。


 光が傷を塞ぎ、光が命を繋ぎ、光が恐怖を押し返す。

 その姿は、戦場の闇に差し込む一筋の光だった。

 もはやただの女子中学生ではなく――

 光の癒し手だった。


 レオンの光が闇を裂き、優斗の刃が影を断ち、朔弥の魔法が魔物を焼き、美咲の光が命を繋いでいく。


 魔物の数は、目に見えて減っていた。

 自衛隊員たちの表情に、ようやく希望が戻り始める。


「いける……! 押してるぞ!」

「このまま殲滅だ!」

「勇者……本当にいたんだな……!」


 その声は震えていたが、確かに勝利を信じ始めていた。


 ――だが。


 その瞬間、駅前の空気が変わった。

 風が止み、音が消え、夕暮れの光がわずかに濁る。

 ロータリーの奥。

 黒い霧が、ゆっくりと形を成し始めた。


 最初に現れたのは――

 尾だった。


 長く、しなやかで、闇そのものを引きずるような黒い尾。

 続いて、鋭い爪。

 闇に溶ける鱗。

 赤い双眸。


 ――シャドーリザード


 そして、その背後。

 霧の奥から巨壁のような影が立ち上がる。


 ビルの看板ほどの腕。

 岩塊のような胸。

 闇を吸い込むような巨体。


 ――シャドーゴーレム


 自衛隊の希望が、一瞬で凍りついた。


「なっ……なんだあれ……!」

「で、でかい……!」

「撃て!! 撃てぇぇ!!」


 銃撃。

 砲撃。


 だが――

 シャドーゴーレムは微動だにしない。

 まるで、人間の攻撃など存在しないかのように。


 次の瞬間。


 ドゴォォォォン!!


 ゴーレムの拳が振り下ろされ、地面が陥没し、自衛隊の前線が半壊した。


 悲鳴。

 爆音。

 崩れる建物。

 舞い上がる砂埃。


 勝利の空気は、跡形もなく吹き飛んだ。


 レオンが振り返り、目を細める。


「……中位魔物……いや、それ以上か。」


 その声は低く、しかし揺らぎがなかった。

 三人がレオンの背中に並ぶ。

 優斗は刀を握り直し、朔弥は魔力を整え、美咲は杖を構える。


 恐怖はある。

 震えもある。

 それでも――

 四人は前に立った。


 レオンは静かに言う。


「ここからは――四人で行くぞ」


 夕暮れの街に、影が満ちていく。

 だがその中心に、四つの光が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ