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第6話:朔弥、学校で英雄扱いされて困惑

 レオンを空き教室にかくまった後、朔弥は深いため息をつきながら壁にもたれた。

 さっきまでの逃走劇の余韻がまだ胸に残っている。


「レオン、今日はもう帰れ。これ以上いたらマジで捕まるぞ」


 レオンは素直に頷き、真剣な目で三人を見た。


「……わかった。君たちのおかげで助かった。恩に着る」


 その言い方があまりにも勇者で、朔弥は思わず目をそらした。


「気をつけて帰ってね、レオンくん」


 美咲が心配そうに声をかける。


「裏門から出ろよ。正門は女子が張ってる」


 優斗が真顔で忠告した。


「……了解した」


 レオンは影のように静かに校舎を抜け、まるで潜入任務を終えたスパイのように姿を消した。


 教室に戻ると、クラス中の視線が一斉に朔弥へ向いた。

 その圧に、朔弥は思わず足を止める。


「光野……お前……この間の魔物の時……天城の妹を守って戦ったってマジか?」


 男子のひとりが真剣な顔で近づいてくる。

 その目は尊敬と驚きが入り混じっていた。


「しかもあのイケメン外国人と一緒に……?」


 女子が目を輝かせる。


「てかあの外国人、何者だよ!? お前の知り合いなのか!?」


 別の男子が前のめりになる。


 朔弥は完全に固まった。


「え、あ……いや……その……」


 言葉が喉でつかえ、うまく出てこない。

 そんな朔弥の横で、美咲が静かに口を開いた。


「朔弥くん、雫ちゃんを守ってくれたんだよ。本当にすごかったんだから」


 その声は優しく、しかし確信に満ちていた。


 優斗も頷く。


「お前、あの状況で逃げなかったのはマジで偉いぞ」


「や、やめろって……!」


 しかしクラスの反応は止まらない。


「光野くん、かっこよかったんだ……」


 女子のひとりが頬を染める。


「いや普通に尊敬するわ……」


 男子が腕を組んで唸る。


「雫ちゃん思いなんだね……!」


 別の女子が微笑む。


 朔弥は頭を抱えた。


「ちょ、ちょっと待って!? なんでそんな空気になってんの!?」


 昼休みになると、状況はさらに悪化した。


「光野! 一緒に飯食おうぜ!」


 男子が弁当を持って駆け寄る。


「お前の話もっと聞かせてくれよ!」


 別の男子が肩を掴む。


「光野くん、これあげる!」


 女子が小さな袋を差し出す。


「お菓子どうぞ!」


「雫ちゃんのために戦うなんて……素敵……!」


 朔弥は完全にパニックだった。


「いやいやいやいや!! 俺そんな大したことしてないから!!」


 優斗が肩を叩く。


「朔弥、諦めろ。お前、完全に“英雄枠”だ」


 美咲も微笑む。


「でも……本当にすごかったよ。あの時の朔弥くん……」


「やめろおおおお!! 恥ずかしいんだって!!」


 放課後。先生に呼ばれ、朔弥は職員室へ向かった。


「光野、ちょっと職員室へ」


「えっ……俺なんかした!?」


「いや、違う。先日の件で……君の勇気を称えたいと思ってな」


「やめてください!! 本当にやめてください!!」


 先生は真剣な顔で続ける。


「遠慮するな。天城の妹だけではなく、小学校の子供たちも守ったと聞いたぞ」


「うわああああああ!!」


 朔弥は机に突っ伏した。


 家に帰ると、玄関の灯りだけがぽつりとついていた。靴を脱ぎ、リビングへ向かうと――

 そこにレオンが正座して待っていた。


 背筋を伸ばし、両膝を揃え、まるで主の帰りを待つ忠臣のような姿勢。

 薄暗い部屋の中で、レオンの金の瞳だけが静かに光っていた。


「朔弥……遅かったな」


 その声は落ち着いていて、どこか心配の色すら含んでいた。

 朔弥はドアにもたれ、ぐったりと肩を落とす。


「……レオン……お前のせいで今日めっちゃ大変だったんだけど……」


 レオンはぱちりと瞬きをし、きょとんとした顔をした。

 その表情は本当に心当たりがないという純粋さに満ちている。


「俺のせい……?」


 朔弥は頭をかきながら、今日一日の出来事を思い返す。

 女子に追われ、質問攻めにされ、英雄扱いされ、先生にまで褒められ――

 その原因が目の前の勇者であることを思うと、もう笑うしかなかった。


「女子に追われて逃げ回ってたお前をかくまったのがバレて、雫の時の事もバレて……なんか、俺まで英雄扱いされてんだよ!!」


 レオンははっと息を呑み、申し訳なさそうに目を伏せた。

 その仕草は、戦場で仲間を巻き込んでしまった戦士のように真剣だった。


「……それは……すまない」


 低く、素直な謝罪。

 その声に、朔弥は逆に罪悪感を覚えてしまう。


「いや、レオンが悪いわけじゃないけどさ……なんか……恥ずかしいんだよ……」


 朔弥はソファに倒れ込むように座り、天井を見上げた。

 今日一日の疲れがどっと押し寄せてくる。


 レオンはゆっくりと顔を上げ、朔弥の横顔を見つめた。

 その瞳には、深い感謝と尊敬が宿っていた。


 そして――静かに微笑む。


「朔弥。恥じることはない。君は……本当に雫を守った。それは“英雄”の行いだ」


「……やめろ、照れる……」


「昨日の君は……勇者だった」


「またそれか!!」


 朔弥は叫びながらも、どこか嬉しそうだった。


 レオンはふっと笑う。


「それにしても……女子生徒の追跡……恐ろしかった……魔物より速い……」


「やめろ、笑うから!!」


 二人は顔を見合わせ、同時に吹き出した。

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