↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/140

第16話:深影の前触れ

 階段を降りるたび、空気がひんやりと肌にまとわりついてくる。

 湿った風が頬を撫で、足音が洞窟の奥へ吸い込まれるように響いた。


 朔弥は暗がりの先を見つめながら小さく息を吐き、優斗が肩を回しながらいつもの調子で返す。


「今度の階層はどんなだろうな……」

「まぁ、ロクなもんじゃない事だけは確かだな」


「……見えたよ、みんな」


 美咲が前方を指さした。

 階段を降り切り、四人は41階層へと踏み入った。



 ―第41階層:洞窟―


 優斗が辺り光景を見て目を丸くした。


「うぉ、なんだーこれ? なんか急に普通じゃね?」


 朔弥は周囲を見回す。

 岩壁、湿気、反響する水滴──

 どう見てもただの洞窟だ。


「洞窟だな……」

「洞窟だね……」


 美咲も朔弥の言葉に呟いて答える。

 レオンは洞窟の壁に手を触れ、静かに息を吐いた。


「幻覚……ではなさそうだ」


 優斗がそんなみんなを見て笑いかけ、美咲が少し肩の力を抜いて話した。


「まぁ、普通なら普通でいいじゃん。探索が楽になるよな」

「わたしもちょっと気持ちが楽かも」


 だが、朔弥は眉を寄せたまま、洞窟の奥を見つめる。

 それに対して優斗は軽く首を傾げた。


「でも……なんか変じゃね?」

「んー? そうか?」


 レオンは聖剣の柄に手を添えたまま、短く話しかけた。


「いずれにせよ、警戒するに越したことない。気を付けて進もう」


 そうして四人は歩き出す。

 洞窟は静かで、普通で、けれど──

 何かが確かに違う。


 通路は分岐もなく一本道の様だ。

 4人はひたすらその通路を前へと進んだ。

 辺りは相変わらずの洞窟で、景色は変わらない。

 暫く進み長い通路を抜けた瞬間、視界が一気に開けた。


 天井は10メートルはあるだろうか。

 洞窟とは思えないほど広い空間が、ぽっかりと口を開けている。


 それを見た優斗が思わず声を漏らす。


「急に広い所に出たな」


 朔弥は周囲を見回しながら肩をすくめ、朔弥の言葉に美咲は苦笑する。


「魔物がうじゃうじゃいたりしないよね……?」

「それは嫌だなー……」


 そんな3人の言葉を遮るように、レオンが一歩前に出た。

 その視線が、広間の中央で揺れる影に吸い寄せられる。


「……待て。何かいるぞ」


 広間の中央では、影が盛り上がり岩壁を押し割るように巨体が立ち上がった。


 ゴゴゴ……ッ。


 ――影喰いオーガ。


 灰黒色の皮膚。

 濁った紫の片目。

 本体より太い影が、地面にべったりと張り付いている。


 朔弥がその巨体を目にし、言葉を漏らした。


「……でけぇ……」


 レオンは注意深く観察をしながら、低く呟いた。


「オーガか……いや、少し違う。影を喰っている……」


 優斗が口角を上げ刀を構えると、美咲が両手を胸の前で組み気合を入れた。


「よし、サクッとやるか」

「支援入れるね!」


 レオンが3人の顔を見て短く言葉を伝える。


「用心しろよ」


 グォォォォォッ!!


 その時、影喰いオーガがこちらに気が付いて咆哮をあげた。

 そして、四人は同時に動く。


 先行したのは美咲。

 白杖を掲げ、詠唱を始める。


「《聖励ブレッシング》!」


 聖なる光がみんなの身体を包み込み、力を底上げしていく。

 光を受け取った直後、優斗が影喰いオーガ目掛けて一直線に飛び込む。


「《武威解放》!」


 床石を蹴った瞬間残像が走り、吹き上がるオーラに空気が裂ける。

 その動きに合わせるように、朔弥が詠唱を重ねる。


「《雷光ライトニング》!」


 青白い雷がオーガの肩口を撃ち抜き、巨体がわずかに揺れた。

 同時に優斗の斬撃が、影喰いオーガの腕を切り裂く。

 レオンが最後尾から静かに踏み込むと、その一歩だけで空気が震えた。


「……終わりだ」


 レオンは一瞬でオーガの懐に入り、聖剣の一撃が胸奥を貫いた。


 ズバァァァァァッ!!

 ドズゥゥゥン……ッ。


 影喰いオーガの巨体が崩れ落ち、砂煙が舞い広間が静寂に包まれた。


 朔弥が息を吐き振り返って話し出すと、優斗は刀を肩に担ぎ、笑いかけた。


「……俺ら、強くなってるよな」

「だな。前なら絶対もっと苦戦してた」


 美咲は胸に手を当てほっと息をつく。


「よかった……無事で……」


 レオンは何も言わず、ただわずかに頷いた。

 その頷きだけで、十分だった。


 探索は順調に進み、下層へ向かう階段を見つけた。

 階段を降りると、空気がさらに冷たくなる。

 湿気が肌にまとわりつき、洞窟の匂いが濃くなる。


 新たな階層、42階層に足を踏み入れた瞬間朔弥は思わず立ち止まった。



 ―第42階層:洞窟―


(……なんだ……?)


 通路は41階層と変わらない。

 だが──

 音が、少しだけズレていた。


 ポタ……ポタ……

 水滴の音が、半拍遅れて返ってくる。


 その状況に朔弥は眉を寄せ、美咲も小さく頷いた。


「……やっぱりなんか変な感じするんだよな」

「……うん、私もそんな気がしてきた……」


 優斗は2人の会話を聞いて肩をすくめる。


「気のせい……じゃねぇ気がしてきたな……」


 レオンも違和感は感じているが、前を見据えたまま3人に告げた。


「空気が歪んでいる? ……それでも進むしかない。行くぞ」


 敵は出るが、どれも軽く処理できた。

 だが──

 倒した魔物の影が、一瞬だけ濃く揺れたみたいだった。

 朔弥の違和感は段々と確信に変わりつつあった。


(……気のせい……じゃないよな……)


 戦闘、休憩、戦闘、休憩。

 そんな単調な繰り返し。


 あっさりと階段を見つけた四人は、迷わず下層へ降りていく。



 ―第43階層:洞窟―


 相も変わらず洞窟の景色が続いていた。


 その時――

 通路を抜けた瞬間広間が広がり、影が濃くなった。

 広間の奥に沈む闇が、まるで呼吸しているように揺れている。


 優斗がうんざりした顔で言葉を呟くと、朔弥も同意とばかりに小さく息をを吐いて答える。


「またこのパターンかよ……」

「あれが……またいるのか……」


 美咲が光を指先に集めると、レオンは3人の前に一歩でる。


「がんばろうね……」

「嘆いても始まらない。居るなら倒さなければ先に行けないからな」


 広間の中央で、影が三つ盛り上がった。

 影喰いオーガが3体現れた。


 優斗が刀を抜きながら笑うと、朔弥も魔力を練りながら苦笑する。


「おいおい……3体かよ……まぁ、1体ずつなら悪くねぇな」

「……やるしかねぇか」


 レオンは状況を見て3人に短く指示を出した。


「1体ずつ受け持て。美咲は全員を見て支援だ」

「うん……任せて!」


 美咲が白杖を握りしめ頷くと、3体の咆哮が広間を揺らした。


 グォォォォォッ!!

 グォォォォォッ!!

 グォォォォォッ!!


 その瞬間、四人は散開した。

 優斗が真っ先に影喰いオーガに飛び込んでいく。


「お先ぃー!」


 影喰いオーガの影が揺れ、影喰い(シャドウイーター)で周囲の影を吸い込み始めた。

 筋肉が膨張し、皮膚が硬化する。


 それを見た優斗が目を見開く。


「おいおい、こいつ影食ってるのか!?」


 影喰いオーガは優斗と向かい合い、拳を叩きつけてくる。

 それは、通常の速度を軽く上回っていた。


「速さまで上がるのかよ!」


 ドオォォンッ!!


 オーガの拳が迫るが、優斗は拳の軌道を見切り紙一重でかわす。


「甘いぜ!」


 それを見ていた美咲から声が飛ぶ。


「優斗くん、《聖励ブレッシング》!」

「サンキュ、美咲!」


 聖なる光が優斗の身体を包み込んだ。

 優斗は地を蹴り、影喰いオーガの側面に回り込む。


「これならどうだ! 《一閃斬》!」


 ガキィィィンッ!!


「硬すぎだろ、こいつ」


 硬化した皮膚は鋼の様に硬くなっており、優斗の手が軽く痺れを感じていた。

 だが、優斗は影喰いオーガに向かい、笑みをこぼす。


「なら……これで終わりだ! 《嵐舞斬》!!」


 風を纏って舞うように動く優斗。

 白い斬撃が連続して走り、体中を切り裂いた。


 ズババババッ!!


 致命傷を貰った影喰いオーガは動かなくなり、巨体が崩れ落ちる。


「よっし!」



 その頃、朔弥の前の影喰いオーガは、洞窟の壁や天井を殴りつけていた。


 ドガガガガッ!!


 ――洞窟破砕クラッシュ・ケイブ

 朔弥に向って落石が雨のように降る。


「ひー、なんて力だ……!」


 朔弥は走りながら詠唱を試みるが──


「これでもくらえ! ライト……!」


 ドガガガッ


「アブねっ! くそー詠唱できねぇ!」


 ドガガガッ

 ドガガガッ


「わ、わ、ヤバいって……!」


 朔弥の隙をつき、影喰いオーガの腕が横から迫った。


(まずい、避けれない──!)


 その瞬間、美咲の声が朔弥に届く。


「朔弥くん! 《聖護プロテクション》!」


 バキィィィンッ!!


 聖なる光盾が朔弥の横に展開し、影喰いオーガの腕を弾き飛ばした。


「助かった、美咲!」


 朔弥が怒りのまま詠唱を叩き込む。


「頭来た……! 《火弾ファイアバレット》5連!!」


 ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ!!


 火弾が連続で影喰いオーガの顔に炸裂し、動きが止まった。


「続けていくぞ……!」


「《炎雷衝フレアボルト》!!」


 バリバリィィィッ!!

 ドッカァァァンッ!!


 炎をまとった雷撃が一直線に飛ぶ。

 まともにくらった影喰いオーガが、壁に叩きつけられて動かなくなった。


 朔弥は立ち止まり、静かに息を吐く。


「俺の勝ちだ!」



 そしてレオンもまた、朔弥たちと同様に影喰いオーガと対峙していた。


 影喰いオーガは、影腕シャドウアームを三方向から伸ばしてきた。


 ガァァンッ!!

 ガンッ!!

 ガキィィンッ!!


 だかレオンは聖剣を振るい、すべてを跳ね返す。


「実体のある影の攻撃か……」


 間髪入れずに影喰いオーガの右腕がレオン目掛けて振り下ろされ、それと同時に影腕が逆の左側から迫ってきた。


 ドゴドゴォォンッ!!


 レオンは左右から同時に来た攻撃を、軽々とかわす。


「そんな攻撃は効かない」


 レオンは半歩下がり、聖剣を構えなおした。


「《聖剣解放》」


 聖剣がレオンに応えるように光を帯びると、迸る光がレオンの身体を包み込んだ。

 空気が震える。


「《光刃連撃ライトラッシュ》!」


 ズバババババッ!!


 光の如く早い斬撃が連続して走り、影腕ごと斬り裂いていく。

 影喰いオーガは全ての斬撃をくらい、後ろに倒れ動かなくなった。

 レオンは聖剣を鞘に納め、静かに息を吐く。


「……ふぅ」


 3体の巨体が倒れ、広間に静寂が戻った。

 レオンが周囲を確認しながら3人に声をかける。


「みんな、大丈夫か?」


 朔弥が荒い息を整えながら答えると、優斗は刀を担ぎながら笑って答えた。


「……はぁ……なんとか……なんか走ってばっかりだ……」

「いや、俺らマジで強くなってるわ」


 美咲が安堵するように、胸に手を当てながら返事をした。


「みんな……怪我なくてよかった……」


 レオンは三人の無事を確認すると、満足そうに頷いた。

 そして、下層へ向かう階段があるだろう方向を見据える。


「……さぁ、階段を探すぞ」


 暫く探索を続け、下層への階段を見つけた。

 階段を降りている途中から、辺りの空気が変わった感じがした。


 冷たい──ではない。

 重い。



 ―第44階層:洞窟―


 44階層に足を踏み入れた瞬間、四人は立ち止まった。


 そこは、音が消えていた。

 足音も響かない。

 呼吸の音すら洞窟に吸い込まれていく。


 優斗が小声で呟くと、美咲が何かを感じ取っているのか、腕を抱え小刻みに震えていた。


「……敵いねぇのは助かるけどよ……なんか嫌な感じだな」

「……ここ、怖い……音が……全部、沈んでいくみたい……」


 辺りに漂う影が、濁った紫を帯びて揺れている。


 朔弥が苦しそうに喉を押さえると、レオンが気配感知を使い辺りを調べ、静かに言った。


「……空気が……重い……なんか……ここだけ違う……」

「……妙だな。魔物の気配がまったくない。あまりにも不自然だ」


 それでも、進むしかない四人は奥へ、奥へと足を進めていく。


 洞窟の奥へ進むと、急に視界が開けた。

 そこは広間──

 その中央に、ぽっかりと階段が口を開けている。


 朔弥がいち早く見つけて呟くと、美咲が不安を顔に出さないよう、小さく頷いた。


「……あった……階段……」

「次は……45階層……」


 レオンは階段の前に立ち、闇を見つめた。


「……行くぞ」


 誰も反論しない。

 ただ、息を整え、覚悟を決める。

 四人は下層への階段を進み始めた。


 無音の空間が、背後でゆっくりと閉じていくような感じがした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。