―幕間― 美咲:光の揺らぎ
戦いが終わったあと、玉座の間に残った光は、どこか柔らかかった。
さっきまであれほど濃く渦巻いていた黒い霧は、まるで嘘みたいに消えていた。
空気が軽い。
胸の奥に張り付いていた冷たさが、ゆっくりと溶けていく。
優斗くんが天井を見上げて大きく息を吐き、朔弥くんがへたり込んで笑い、レオンくんが静かに剣を下ろす。
その三つの姿が視界に入った瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
(……よかった……みんな……無事で……)
そう思った途端、自分の手が震えていることに気づいた。
怖かった。
本当に、怖かった。
──あの瞬間。
暗闇の中で、倒れた朔弥くんが見えたとき。
胸の奥がぎゅっと潰れた。
息が止まって、足が動かなくなって、頭の中が真っ白になった。
(……朔弥くん……?)
霧の中に横たわる影。
血のように見える黒い染み。
動かない身体。
それが幻覚だと分かったのは、ほんの数秒後。
でも、その数秒は永遠みたいに長かった。
怖かった。
失いたくないと思った。
その気持ちが、胸の奥で暴れていた。
(……朔弥くんが……いなくなるなんて……)
震える手を握りしめたとき、横で優斗くんが叫んでいた。
「くそっ……どれが本物だ……!」
その声は、焦りと怒りと、仲間を守ろうとする必死さで震えていた。
優斗くんは強い。
でも、強いだけじゃない。
仲間のために、迷わず前に出られる人だ。
霧の刃が迫っても、恐怖を押し殺して動ける人だ。
その姿に、私は少しだけ救われた。
(……優斗くん……ありがとう……)
私が朔弥くんを想って震えていたとき、優斗くんは前に出てくれた。
その背中が、私の心を支えてくれた。
そして──
爆発の衝撃が迫った瞬間。
黒い霧が爆ぜ、空気が悲鳴を上げ、私の身体が吹き飛ばされそうになったとき。
レオンくんが、迷わず私を抱き寄せて庇ってくれた。
「美咲、伏せろ!!」
その背中は、大きくて、温かくて、震えていた私の心を包み込んでくれた。
レオンくんは強い。
でもその強さは、ただの力じゃない。
仲間を守るという意思の強さだ。
(……私も……あんなふうに……誰かを守れる人になりたい……)
そう思った。
朔弥くんが倒れたように見えたとき、胸が潰れそうになった。
優斗くんが前に出てくれたとき、心が少しだけ前を向けた。
レオンくんが庇ってくれたとき、私は守られるだけの存在じゃいたくないと思った。
三人の背中が、私の心を揺らし、支え、前へ押し出してくれた。
(……絶対に……守るから……)
朔弥くんも。
優斗くんも。
レオンくんも。
みんなが無事でいてくれるように。
私の光が届くように。
怖さが消えたわけじゃない。
不安がなくなったわけでもない。
でも──
その怖さの向こうに、初めて自分の意思があった。
(これからは……自信を持って……みんなと一緒に戦いたい)
聖女としての力が、ようやく自分のものになった気がした。
光はまだ小さい。
でも、確かにそこにある。
私は杖を胸に抱き、そっと目を閉じた。
(……次は……もっと強くなれる……もっと……みんなの力になれる……そして……)
朔弥くんの笑顔が、ふと胸に浮かんだ。
(……もっと……隣に立てるように……)
光が、静かに揺れた。
それは、私の中に芽生えた決意の光だった。




