↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/134

第14話:終幕の閃光

 ガァァァァァァッ─!!


 ダークミストの身体から、黒い霧が爆発のように四方へ広がった。


 それは炎でも雷でもない。

 ただの霧でもない。

 闇そのものが衝撃波になった──

 そんな異質な破壊だった。


 床が揺れ、壁が軋み、空気が悲鳴を上げる。


「やべぇ……!!」


 優斗は反射的に走り出した。

 だが、爆発の速度が速すぎた。


「マジかよ……っ!」


 朔弥は腕で顔を庇い、防御姿勢を取るしかない。

 美咲の震える声が響く。


「危ない──《聖護プロテクション》!!」


 だが──間に合わない。

 レオンが美咲の前に飛び込み、全身で彼女を庇った。


「美咲、伏せろ!!」


 ドォォォォォォォン!!


 爆発が四人を襲った。


「ぐはっ……!」

「うわぁぁぁっ!」

「……っ……!」

「きゃあああああ!!」


 黒い衝撃波が身体を叩きつけ、視界が白く染まる。


 優斗と朔弥は床を転がり、動けなくなった。

 レオンは美咲を抱きかかえたまま膝をつき、肩で息をしている。


 美咲は震える声で呟いた。


「あっ……あ……み、みんな……!」


 レオンは苦しげに息を吐きながらも、美咲の肩に手を置いた。


「……落ち着け……美咲……」


 その声に、美咲の胸の奥で何かが弾けた。


(……私……守らなきゃ……みんなを……今……私が……!)


 美咲は杖を強く握りしめ、涙をこぼしながら叫んだ。


「《範囲治癒エリアハイヒール》!!」


 パァァァァァァァァ──ッ。


 柔らかな光が玉座の間に広がり、優斗と朔弥の身体を包む。

 二人はゆっくりと身体を起こした。

 優斗は胸を押さえ、苦笑しながら息を吐く。


「……いてぇ……けど……助かったぜ、美咲……」


 朔弥は痺れる腕をさすりながら、息を整えた。


「死ぬかと思った……マジで……サンキューな、美咲……」


 美咲は涙を拭い、震えながらも微笑んだ。


「……よかった……ほんとに……」


 レオンは美咲の肩に手を置き、静かに頷く。


「よくやった、美咲。お前のおかげで立て直せた」


 そして、レオンはゆっくりと立ち上がり、聖剣を構え直した。

 爆発を受けたとは思えないほど、その姿は揺るぎなかった。


「さぁ──反撃といくぞ」


 その声に、三人の表情が一気に引き締まる。


「「「おぉぉーーー!!」」」


 ダークミストは、濁影爆の直後で一瞬だけ弱体化していた。

 霧の密度が薄れ、身体の輪郭が揺らいでいる。


 優斗が刀を構え、朔弥が魔力を練り、美咲が杖を握りしめる。

 三人の呼吸が、自然とひとつに揃った。


 朔弥が声を張る。


「合わせるぞ、美咲!」

「うん!」


 朔弥の右手に炎が集まり、美咲の杖先には柔らかな光が宿る。

 二つの魔力が、まるで呼応するように脈打った。


「《聖なる矢(ホーリーアロー)》!」

「いっけぇぇ! 《火槍ファイアランス》!」


 光と炎が一直線に走り、霧の身体を焼き、浄化し、抉り取る。


 ダークミストの目が揺れた。

 怒りか、焦りか──

 それとも、初めて味わう恐怖か。


 レオンの声が鋭く響く。


「ナイスだ、二人とも! 優斗、行くぞ!」

「任せろ!」


 優斗は刀を握り直し、前へ踏み込んだ。

 美咲は二人の背中に向けて、祈りを込めるように杖を胸元へ抱き寄せた。


(……お願い……二人とも……! 私の光が……届きますように……!)


 光が、彼女の指先で静かに揺れた。


「その輝きは仲間を包み、力を満たし、心を守る盾となる。闇を退け、希望を灯し──ここを聖なる領域へと変えよ……!」


「《光祝福陣セントフィールド》!」


 光の陣が展開され、優斗とレオンの身体を包む。

 空気が変わった。

 霧の圧が、わずかに後退する。

 優斗はその変化を肌で感じた。


(……いける……!)


 レオンは聖剣を構え、霧の中へ踏み込む。


「飛べ、光刃──《光刃飛翔ライトシュート》!」


 光刃が霧を裂き、玉座の間の中央に光の筋が生まれた。

 黒い霧が左右へ弾け飛び、空気が一瞬だけ澄む。


 その瞬間──

 世界が静止した。


 霧が止まった。

 音が消えた。

 空気が凍りついた。


 優斗だけが、その静寂の中で動いていた。

 レオンが振り返らずに叫ぶ。


「今だ──優斗!!」


 優斗は刀を鞘に納めた。


 カチリ──。


 その小さな音が、玉座の間全体に響いたように感じた。

 胸の奥で、何かが噛み合うように光る。


(……いまなら──出来る)


 美咲の光が優斗を包む。

 その光は、優斗の背中をそっと押すように温かい。

 朔弥の炎が霧を裂く。

 その熱は、優斗の足元を照らすように力強い。

 レオンが作った光の道が、優斗の前へまっすぐ伸びている。

 三人の力が、優斗の背中を押していた。


 優斗は、ゆっくりと前へ踏み出した。

 一歩。

 また一歩。

 霧が、優斗の足元で逃げるように揺れる。


 ダークミストの目が、赤く大きく揺れた。

 怒りでも、焦りでもない。


 ──恐怖。


 優斗は静かに息を吸い、刀の柄に手を添えた。


「……行くぞ……これで終わりだ……」


 踏み込み。

 世界が、一瞬だけ白になった。

 優斗の身体が霞のように揺れ、次の瞬間には──

 ダークミストの懐にいた。

 霧が反応するより早く、優斗の右手が動いた。


 抜刀。

 光。

 閃光。


「《閃光抜刀》──ッ!!」


 音が遅れて届いた。

 霧が裂け、空気が震え、玉座の間に光の線が走る。

 ダークミストの身体は、左右にゆっくりと割れたまま静止していた。

 赤い目が、最後にひとつだけ揺れた。


 ゆらり──。


 それは怒りでも、憎しみでもなかった。

 ただ、終わりを悟った生き物の静かな揺らぎだった。


 次の瞬間──


 パリン。


 小さな音が響いた。

 霧の影核が砕けた音だった。


 それを合図に、ダークミストの身体は霧となり、ゆっくりと、本当にゆっくりと崩れ落ちていく。

 黒い霧が床に触れる前に、光に溶けるように消えていった。

 まるで、最初から存在しなかったかのように。


 霧が消えると同時に──

 玉座の間に光が戻った。

 天井の魔石灯が、ようやく本来の輝きを取り戻す。


 優斗は刀を下ろし、大きく息を吐いた。


「……はぁ……終わった……」


 その声は、戦いの緊張が一気に抜けた声だった。

 朔弥はその場にへたり込み、両手をついて肩で息をした。


「はぁ……はぁ……マジで……死ぬかと思った……」


 美咲は胸に手を当て、涙をこぼしながら笑った。


「……よかった……みんな……無事で……」


 レオンは聖剣をゆっくりと下ろし、深く息を吐いた。


「……よし。20階層──突破だ」


 その声は、静かで、重くて、どこか誇らしげだった。


 優斗は天井を見上げた。

 光が眩しい。

 さっきまでの暗闇が嘘のようだ。


「……ふぅ……やっと……終わったな……」


 朔弥は笑いながら、優斗の肩を軽く叩いた。


「お前の最後の一撃……マジでやべぇって……!」


 美咲は涙を拭いながら、優斗の隣に立った。


「優斗くん……すごかった……ほんとに……」


 レオンは三人を見渡し、静かに頷いた。


「よくやった。全員で勝ち取った勝利だ」


 四人の影が、晴れた光の中で揺れた。

 その影は、どこか誇らしく、どこか温かかった。


 そして──

 新しい階層へ続く扉が、静かに光を放ち始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。