表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/120

第5話:影核の破壊

 影狼シャドウ・フェンリルの影脚が裂け、その奥で光の反射のようなものが揺れた。


 影の核──

 影狼の生命の中心。


 影狼は影の霧を巻き上げ、核を覆い隠すように闇を濃くする。

 空気が沈む。

 床の影が波紋のように揺れ、霧が渦を巻き、階層全体が脈打つように震えている。


 影狼が”影走り”で姿を消すと、次の瞬間にはレオンの真横に現れた。


 影の牙が振り下ろされる。

 空気が裂けるような圧が走る。

 黒い影が伸びる。


 その刹那、レオンは踏み込み聖剣を横薙ぎに斬った。

 光が閃き、影の牙が砕け散る。


 影狼が低く唸ると、霧が逆巻き、床が微かに震えた。

 美咲が声を張る。


「影の濃度が上がってる……! 次の一撃来るよ……!」


 影が揺れ、霧が裂けた。

 影狼の影が、空間を切り裂くように走り出す。


 その瞬間──

 美咲の声が静かに、しかし強く響いた。


「その輝きは仲間を包み、力を満たし、心を守る盾となる。闇を退け、希望を灯し、ここを聖なる領域へと変えよ」

「――《光祝福陣セントフィールド》!」


 光が弾けた。

 聖女の祈りが杖に集まり、足元へ流れ込む。


 光が一点に収束し──

 地面に巨大な魔法陣が展開する。

 柔らかく、それでいて揺るぎない光。

 複雑な祝福文様が淡く輝き、光の柱が立ち上がる。


 優斗の身体が軽くなる。

 朔弥の魔力が整う。

 レオンの聖剣が光を帯びる。


 影の干渉が弱まり、胸のざわつきが静かに溶けていく。

 影が後退し、霧が薄れ、影狼の影毛皮が揺らぐ。


 優斗が叫ぶ。


「すげぇ……! 身体が……動く……!」


 朔弥も息を呑む。


「魔力が……流れる……! 美咲……これ……!」


 レオンは短く言った。


「いいぞ、美咲」


 影狼が影を広げ、光を押し返そうとする。


 だが──

 光祝福陣セントフィールドの光は揺らがない。

 美咲の決意が、そのまま光の強さになっていた。


「……負けない……! みんなを守る……!」


 光が強まり、影が薄れる。

 レオンが聖剣を構えた。


「行くぞーー!」


 優斗が突撃し、”見切りの極意”で影狼の攻撃をかわしながら”一閃斬”を叩き込む。

 朔弥が”雷槍”で核を露出させる。

 美咲が光で影の再生を抑える。

 レオンが”光刃”を振り下ろす。


 《光刃ライトブレード》──!!


 光が走り、影が裂け、影狼が咆哮を上げる。

 霧が吹き飛び、床が震えた。

 だが──

 まだ倒れない。


 影狼は、最後の力を振り絞り、影を凝縮し始めた。

 霧が一点に集まり、黒い塊が脈動するように膨らむ。

 影が牙の形を成し、空気を歪めるほどの圧が走った。


 美咲が息を呑む。


「……影が……濃くなってる……!」


 影狼は最後の一撃を放つため、影の牙を巨大化させていた。

 その牙は光を吸い、存在そのものが闇の塊だった。


 優斗が前に出る。


「レオン! 行け! 隙は俺が作る!」


 影狼の影脚が優斗へ迫る。

 だが──

 優斗はすでに未来を見ていた。


 ――見切りの極意。


 影の揺れ、霧の流れ、空気の震え──

 すべてが攻撃の予兆として見える。


 優斗は踏み込み、影脚の軌道を外し、逆に斬り込む。


「《嵐舞斬》──ッ!」


 風を纏った斬撃が連続で走り、影狼の影脚を切り裂く。

 影が飛び散り、影狼の動きが止まる。

 朔弥が魔力を練り上げる。


「優斗──ナイス! もう一回、核を出す!」


 魔力が爆ぜ、雷が槍の形を成す。


「《雷槍サンダースピア》!!」


 雷が影を裂き、影狼の胸元を貫く。

 影の毛皮が焼け、その奥で──

 影の核が再び露出した。


 レオンは聖剣を構え、影の核へ向かって踏み込んだ。


「トドメだ!」


 影狼が影の牙を振り下ろす。

 巨大な影の刃が、レオンを飲み込もうと迫る。

 だが、レオンは止まらない。

 仲間の力が、レオンの背中を押していた。

 聖剣が光を帯びる。


「《光刃閃撃ライトインパクト》──!」


 光が爆ぜた。


 同時に朔弥が雷を放つ。


「《雷光ライトニング》!!」


 光と雷が交差し、影の核へ一直線に走る。


 影狼が咆哮する。

 音はない。

 だが、影が震え、霧が裂け、空気が悲鳴を上げた。


 光は止まらない。

 雷は止まらない。


 レオンの”光刃閃撃”と、朔弥の”雷光”が重なり──

 影核を貫いた。


 影が裂け、霧が弾け、影狼の身体が崩れ落ちる。

 音もなく、ただ影が霧散していく。

 巨大な影の獣は、静かに跡形もなく消えた。


 十階層の守護獣──

 影狼、討伐。


 影狼が霧散したあと、階層の空気は嘘のように静まり返った。

 黒い霧は薄れ、細かな粒子となって宙に漂い、やがて光に溶けるように消えていく。

 まるで、長く続いた悪夢がようやく終わり、

 影そのものが眠りについたかのような静けさだった。


 朔弥は肩で息をしながら、影狼が消えた場所を見つめた。


「……終わった……んだよな……」


 優斗は刀を下ろし、深く息を吐く。


「マジで……死ぬかと思った……でも……勝ったんだな……」


 美咲は杖を胸元に抱え、光をそっと弱める。

 その表情には疲労と安堵が混ざっていた。


「……うん……みんな……無事でよかった……」


 レオンは聖剣を納め、静かに頷いた。


「十階層……攻略だ」


 影が完全に晴れた瞬間、床に黒い石の階段が現れた。

 下層へ続く、深い闇の入口。


 朔弥が目を丸くする。


「……出た……これが……次の階層……」


 優斗は階段を覗き込み、肩をすくめた。


「うわ……また暗ぇ……絶対ヤバいのいるだろ……」

「でも……みんなと一緒なら……大丈夫……」


 美咲は小さく笑った。

 だがその言葉に、優斗と朔弥が同時に振り返った。


「なぁ美咲──!!」

「ひゃっ……!? な、なに……?」


 美咲がびくっと肩を跳ねさせると、朔弥が勢いのまま詰め寄る。


「お前……さっきの光の陣……あれ絶対ただの魔法じゃねぇよな!?」


 優斗も続く。


「そうだよ! あれ……なんだよ!? 身体軽くなってビビったんだけど!」


 美咲は頬を赤くし、視線をそらした。


「え、えっと……その……実は……」


 レオンが淡々と口を開く。


「美咲は聖女の称号を得た」

「「聞いてないんだけど!?」」


 朔弥と優斗の叫びが見事に揃った。


 美咲は慌てて手を振る。


「い、言おうと思ってたの……! でも……タイミングが……!」


 優斗は頭を抱え、朔弥はその場に崩れ落ちた。


「いやいやいや! 大事なことだろそれ!」

「……俺なんて、称号もないのに……」


 美咲は慌てて朔弥の横にしゃがみ込む。


「そ、そんなことないよ朔弥くん! 雷槍だって……雷光だって……すごかったよ……!」


 優斗も肩を叩く。


「そうだって。お前がいなきゃ核見えなかったし。称号なんてそのうち勝手に付くって」


 朔弥は顔を上げ、二人の顔を交互に見た。


「……ほんと……?」


 美咲が力強く頷き、優斗も続くように頷いた。


「ほんと」

「ほんとだって」


 そこに、レオンが短く言葉を添える。


「……本当だ」


 三人に囲まれ、朔弥はようやく息を吐いた。


「……なら……いいけど……」


 美咲は安心したように微笑む。

 レオンは階段の前に立ち、静かに言った。


「行くぞ。ここからは……さらに強くなる」


 影の残滓が完全に消え、10階層は深い静寂に包まれた。


 四人は互いに頷き合い、新たな階層へと足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ