第98話「ようこそ隠鱗亭へ!その2」
## 第98話「ようこそ隠鱗亭へ!その2」
### 【あらすじ】
隠鱗亭での打ち上げが始まった直後に店の机を破壊してしまったユージと騎士団のガドル。
それを目撃した隠鱗亭の支配人レヴィンはユージを店の裏へと連れていき……?
### 【本文】
「ホントすみませんでした……」
王都で大人気の料亭、“隠鱗亭”。
その見た目から察するに高級そうな大机を壊してしまったのだ。その値段は察するに余りある。
「い、いやまぁ……何というかびっくりはしたけど……」
そしてこのレヴィンさん。
見た目は……おそらく私より少し年上の、とても綺麗な女性だ。
そういえば彼女が着ているのも“着物”みたいだよな……この店構えとこの服装。偶然の一致にしては――
「とりあえず机はこっちでなんとかするから、そんなに落ち込まないで、ね?」
「いやでも……」
「それよりも……ねぇ、私を見て何か気づくことない?」
レヴィンさんはそういうと両腕を広げて服装をアピールするような動きをする。
「……綺麗な着物――ですね?」
「……どう?」
「ど、どうと言われましても……」
そういうと、レヴィンさんは「なるほど」といった様子で考えるような仕草をする。
「じゃあヒントをあげようかしら」
「な、なんのヒントですか?」
「それは秘密。言ったら今度こそヤバいから」
さっきから何の話をしてるんだ――?
「このお店、どう思う?」
「え、えーっと……“高級日本料亭”みたいですね……?」
「そう。いいわね、いい線いってる」
「……あー」
なんとなく、わかってきた気がする。
要はこの異世界にある“日本っぽさ”。この店構えとレヴィンさんの着物、そして明らかに白米を意識した“白蒸穀”というメニューの存在。
では私に“日本”という概念を知っていることをアピールしようとしているこのレヴィンさんは一体……?
「どうかな?何か思いついたらなんでも言ってみて」
う〜ん……一応――ある。確認したいことが。
それは、レヴィンさんも“転生者”なのではないかということ。
リディアから聞いた転生勇者たちはコウキとレイナという名前だった。その特徴からもおそらく彼らは私と同じ現代日本からの転生者。
そうなるとレヴィンさんは日本以外からの転生者で“日本”を知っている人物だということになる。その美しい銀髪と紫の瞳を見ればどう考えても日本人じゃないっぽいしな……。
ただ、問題は、私がこの異世界に来てから誰にも“自分が異世界人である”ことを明らかにしていないということ。
「……黙っちゃったわね」
レヴィンさんは不満そうにこちらを覗き込む。
「まだヒントが足りないのかしら?」
そう言うと、レヴィンさんは私にちょいちょいと手招きしてもっと近づくように促す。
そう促されるままにレヴィンさんに接近する。
不思議な雰囲気の人だよな……このお店の予約の時にも一度話したけど本当に“この世の人じゃない”感じがするような……転生してきたと言うよりかむしろ――
「眼、よく見て」
レヴィンさんはそう言うと、私に顔を近づけてきた。
綺麗な瞳。紫色で――
う〜ん……それだけじゃないな。
なんか……人の目じゃないみたいだ。
いや……むしろ人に“似せている”だけで――
もっと、別の。
……そうだ。
強いて言うなら――
爬虫類っぽい?というか、ドラゴンみたいだな、なんて――
「……近すぎないかしら」
「あ……!すみません!」
「私はいいんだけど……ね、そろそろ――」
熱心にレヴィンさんの目を覗き込んでいたら、随分と顔を接近させてしまっていた。急いで顔を離すと――
――視線を感じた。
振り返る。
ガドルとの腕相撲が原因で机を破壊し厨房の裏へと連れて行かれた私。それを心配して様子を見にきたであろうガドルの姿が――
「まぁ、なんだ。『英雄色を好む』とは言うが……」
「あ、あの誤解で」
「ウチの大将が悲しむな」
「違うんです……!」
「どう見ても高級料亭の支配人に手を出してるようにしか見えなかったが」
レヴィンさんはわざとらしく妖艶な熱視線を私に送っている。なんで!?
「まぁその様子なら弁償で騎士団の財政を圧迫する恐れはないか。心配すんな!リディア以外には黙っててやるから」
「それ自動的に全員に知れ渡るんですけど!」
私の叫びも虚しく、ガドルは「ガハハ!」と笑いながら厨房裏から立ち去った。このままではあらぬ誤解が皆に知れ渡ってしまう。
私はガドルの後に続くようにして厨房裏を後にした。
◇◇◇◇◇◇
「……相変わらず楽しい人ね、“筋肉の賢者”」
「ちょっとからかいすぎちゃったかしら。でも、ルール上直接知らせるのは禁止されてるから……」
「気づかれるまでもっとアピールしなきゃね。フフ……とっても楽しいわ」
「次はどうやって彼に近づこうかしら……筋トレ、を使ってもいいけど、それより今は彼の大事な“家族”のことを調べてあげるのがいいかしら」
「まずは、あの“呪い”……かしらね。女神教をやっつけるのにもあの教皇と彼のつながりは切っちゃいましょう」
そう言うと、レヴィンの“龍の眼”がギラリと光った。
◇◇◇◇◇◇
その後、私はガドルの誤解を解くために話しているうちに、彼のことをいろいろ知ることができた。
彼の異名である“西壁”。彼がグラシオン王国と西の隣国ヴァルグディア帝国との国境警備に一役買っているためについた異名だそうだ。
それに、騎士団二番隊の隊長でもあり、リディアについで二番目の地位にいるらしい。
「ガドルさんはですねぇ、と〜ってもすごいんれすよぉ!」
そんな話をしながら席に戻ると、さらに出来上がったマルティナが絡んできた。
「そ、そうなんですね!」
「おい、マルティナ、彼にベタベタするな。明日どうなっても知らんぞ」
顔がほんのり赤くなったほろ酔いリディアがジト目でマルティナに注意する。
「えぇ〜?そんなこと言うならだんちょうもこっちにきてくださいよ〜!もうユージさんのお嫁さんなんですからぁ」
「それについては何度も言っているが、国王陛下より婚姻の許可が降りただけだ。それだけでまだ何も――」
「そうなのか!?」
その話を聞いて反応したのはカイル。
「聞いてねぇぞユージ!それじゃあよ!とっととここで婚姻を宣言しろ!俺、一応そこそこの貴族家の血筋だからよ、保証人には不足ないと思うぜ!」
カイルがそう言った瞬間、リネアたちがいるテーブルからグラスの割れる音がした。な、何だ!?
「いや、ちょっと――」
「だんちょうはそれでいいんれすか〜?もっと素敵な結婚式挙げましょうよ〜!」
――バリン!
また何かが割れる音が!
「結婚式……」
そう呟くとリディアはどんどん赤くなっていく。
「そうだな、挙げたいな……素敵な、結婚式――」
「え〜?なんれすか声が小さくて聞こえないですよぉ!」
そう言いながらリディアに絡みにいくマルティナ。
「じゃ、じゃあ私はこの辺で」
乾杯の挨拶に回ろうとしただけだったがえらい騒ぎになってしまった。まだクラリスに挨拶ができてないので、この辺で切り上げて席を移ろう。結婚の話は……そうだな、また酒が入っていない時にでも……。
私はガドルに「さっきのことは黙っててくださいね」という気持ちを込めて頭を下げると、クラリスと孤児院の子供達がいるテーブルへと向かった。
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