第97話「ようこそ隠鱗亭へ!その1」
## 第97話「ようこそ隠鱗亭へ!その1」
### 【あらすじ】
王都で平穏な日常と筋トレと情報収集を続けるユージ。
そんな時、ふとリネアがアルクスという少年と行った“隠鱗亭”という料亭の存在を思い出した。リネアの話ではなかなかの量のタンパク質と炭水化物を摂取できるようだ。
リディアの話では騎士団も大動乱の後処理にひと段落ついた様子。
ここは一つみんなを誘って慰労会でもと画策すると……。
### 本文
全くもって、人とは変わるものである。
まさか私が飲み会の“幹事”を務めることになるとは。
「それでは、飲み物も行き渡ったところで今回の王都防衛の功労者、ユージに乾杯の音頭を」
ここは“隠鱗亭”。
王都で今大人気の行列のできる料亭だ。
本来ならお客さんでごった返しているであろう席や衝立、個室の引き戸を全開放して貸切状態。
「は、はい。では……僭越ながらこの度王様から子爵位を賜った私が――」
「お〜い!固いぞ〜!」
ヤジを入れたのはカイル。
なんとリディアの声かけにより、騎士団の主要メンバーも参加となった大所帯の打ち上げの様相を呈した“隠鱗亭”。
「そ、それでは簡潔に……!みなさんお疲れ様でした!乾杯!」
店中に響き渡る乾杯の声。
中央のテーブルには私と隣にリネア。反対側にルノアとノエラが。
もう一つのテーブルではカイルとマルティナが座っている。反対側にはリディアと……あれは誰だ?おそらく騎士団の誰かなのだろうが、初老の……強者のオーラ漂う男性が座っている。
さらにその横ではクラリスと孤児院の子供達……レクトとヴェルカの姿も見える。
「すごい大所帯になったわね」
「あ、ああ。まさか貸切になるとはな」
「私、こういうにぎやかなパーティー初めてかも知れません。故郷の村は小さかったので……」
「にぎやか。ルノアきらいじゃない」
ことの発端は私がこの“隠鱗亭”に行こうと提案したこと。
リネアが以前「みんなで行こう」と言っていたのでリディアが来れるように後処理が落ち着くのを待っていたわけだが、それもあってか騎士団に話が伝わり、このような打ち上げめいた様相に。クラリスの配慮で孤児院の子供達も参戦となったため、夕方からの健全な時間での開催となった。
「とりあえず、各テーブル回って来る」
私はそう言うとグラスを持って立ち上がる。無論、ノンアルコール……という概念はこの世界にはないので、果実のジュースが入っているグラスだ。
どうやらこの世界には乾杯でグラスをぶつけ合う習慣はないらしく、グラスを高々と掲げるだけの方法が一般的なようだ。だがこの乾杯のタイミングで各テーブルに主催者が挨拶に回らないのはどうなんだと思い、一応席を立つ。
◇◇◇◇◇◇
「お、お疲れ様です!」
まずは騎士団の面々がいるテーブル。初対面らしい人もいるので、なるべく失礼の無いように振る舞おう。
「ああ。ユージ。お疲れ様、だな」
まず目に入ったのはリディア。
おお……なんというか……“完全にオフ”の彼女はほぼ初めてレベルで見た気がする。
事件後、国王から婚姻の話が出た後も後処理で早朝から本部に詰める毎日が続いており、新たな拠点となった我が家にもほぼ寝るために帰るだけだったしな。
……そんなリディアがリラックスできているのを見ると、こちらも嬉しくなるな。
「おお〜!新婚さんはアツいな!」
「なっ……!カイル!」
そんな様子のリディアを茶化すのはカイル。
「ダッハッハ!実に愉快だな!王都の若造どもが大した武功をと思ったが――」
そう豪快に笑って見せたのは信じられないサイズのジョッキを持つ先ほどの初対面の初老の男性。
「お前さんが“筋肉の賢者”か。俺は“西壁”ガドル・ヴァルグレイだ」
ガドルと名乗った男性はジョッキを持たない手で握手を求める。
「これはご丁寧にどうも。ユージ・タカハラです」
握手をしながら答える。こ、これは!
見事な腕橈骨筋っ!!!それにこの握力――
「痛タタタタ!?」
ガドルはニヤリと笑いながらその握手の力を強めていく。
これは――挑戦状か?
久しぶりに高揚感が体を駆け巡る。いつの間にか手に入れていた“闘争本能”のスキルが発動したのを感じる。
(よし!受けて立つ!)
私は負けじと握る手に力を込める。
「おっ!出た!“西壁”の根性試し!」
カイルが叫ぶ。な、なんだ?それにさっき本人も言ってたが“西壁”ってなんのことだろうか……と言ってる場合じゃないな!
「おぉ!なかなかやるじゃないか若いの。ウチの大将の心を射止めただけのことはあるな」
どんどんとその力を強めていくガドル。
「そ、それはどうも……!」
こちらも負けてはいられない。その強まる力に応戦してこちらも力を強めていく。
いつの間にかリネアたちや子供達までも我々の“握手勝負”を取り囲んで観戦している。
「な〜にやってんれすか!?」
そんな我々の間からヌッと現れたのは……だ、誰?いや、この三つ編みは……。
「そんなんじゃぁいつまれたっても決着つかないれすよ!」
ま、マルティナか?メガネはどこに……?ってそれよりも……。
「あぁ、もう酔っちまったか。早いな。相変わらず」
カイルが言う。え!?マルティナ……酔うとこんな感じになるのか?ってかほんとに早いな!まだグラス半分も飲んでなさそうだが。
「ユージさん!ガドルさん!肘を机についてくらさい!」
「お、おう」
「おぉ、メイドの嬢ちゃんは相変わらずだな!」
ガドルはマルティナの酒癖を知っているらしい……ってこれは……。
――腕相撲か?
「いきますよ〜!」
マルティナが大きく腕を振り上げる。
「はじめ〜!」
マルティナの腕が振り下ろされると同時に――
「「フンっ!!!」」
両者本気のパワーがぶつかり合う。
躍動する筋肉。男同士の戦い。
わかる。このガドルと言う男、並大抵ではないな。
それこそ、日々の訓練、トレーニングは相当なレベルなはず。そしてこの爆発的なパワー。
――素晴らしい!
しばし拮抗。
戦いは持久戦の様相を呈したその瞬間
――ミシミシッ
嫌な音がした。
その直後。
――バァァァァン!!!!!
ものすごい音が響き渡った。
「「あ」」
良い大人が二人。
はしゃいで店の机を破壊。
「は〜いまずは白身魚の揚げ物を――て何これ」
その時店の奥から出てきた見事な魔術で大量の皿を同時に持ってきた着物の女性……あの人は確かこの店の支配人さんで……レヴィンさんって名前だったかな?
「え〜っと、とりあえずお料理はこっちにまとめて置くわね」
冷静にまず料理を置き切ると、レヴィンさんはこちらを見て手招きした。
「……みなさんは引き続きお楽しみください」
私はそう言ってレヴィンさんが促すまま店の裏へと連れて行かれるのだった。
◇◇◇◇◇◇
「……なぁ大将、騎士団の予算って――」
残された面々は真っ二つになった大机を囲むようにして立ち尽くしている。
「騎士団で弁償するしか……」
「な〜にいってんれすかぁ?魔水晶こそいっぱいありますけどぉ、お金は相変わらずカツカツですよ〜!」
「あ、あの……うちのバカからも半分出させるので……」
しばしの無言。
「王様から現金、貰っておいてよかったですね……」
「ん、おかねはだいじ」
弁償となってもひとまずなんとかなりそうだとわかった面々は、ユージの無事の帰還を祈りつつ、席に戻るのだった。
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