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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第20章「王都大動乱」エピローグ

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第93話「王国学術院主席、アルクスのランチタイム」

## 第93話「王国学術院主席、アルクスのランチタイム」


### 【あらすじ】


 時は遡り、グールの異常個体が王立学術院を襲っていた頃(85、86話参照)、無事事件を解決したらリネアと食事に行くことをお願いしていた学術院主席生徒のアルクス。


 王都に平穏が戻ってから数日後、アルクスとリネアはとある食堂を訪れていた。


### 【本文】


「まさかホントに実現するとは思わねェよな……」


 王都に新しくできた話題の食堂“隠鱗亭”。


 予約ができないほど連日大繁盛しているこの店。その中でもとりわけ人気な個室を予約していた勇者リネアからのランチのお誘いは、アルクスに衝撃を与えた。


「まぁ、約束したしね」


 奇妙な音をガラガラと立てながら横に引いて開ける扉を潜ると、そこは一般的な食堂と一線を画した光景が広がっていた。扉をくぐった瞬間、外の喧騒がすっと遠のき、洗練された木の香りが広がる。


 広々とした店内は低く抑えられた光に包まれ、床には一面に敷き詰められた柔らかな敷物。靴を脱いで上がるというルールも珍しく、初めて訪れた客は皆どこか戸惑いを見せていた。


 仕切りで区切られた席がいくつも連なり、さらにその先には庭が覗く大広間が広がっている。水を打った石と、整えられた草木。まるで外とは別の世界が、店の内側にもう一つ存在しているかのようだった。


 給仕たちは音を立てずに行き交い、客もまた、自然と声を潜める。この空間では、騒ぐことそのものが無粋に思えるのだ。


「こちらでございます」


 案内係は二人を見ると名前も確認せずに一番奥の個室を案内した。


「……まじかよ、ここいくらするんだ?」


「これに関しては私もびっくりしてるけど、お金に関しては気にしなくていいから」


 リネアにとっては記憶に新しい、ユージと一緒に王城に行ったあの日。


 ユージによる危うい交渉の結果、パーティーは莫大な資金を手に入れることになった。


 それになぜかついてきたここ“隠鱗亭”VIP席のペア招待券。正確にはいつの間にか拠点に届けられていたのだが……。


(本当はユージと来る予定だったけど……王様からの呼び出しじゃしょうがないわよね)


 ユージは緊急の国王からの呼び出しで不在。ノエラかルノアと来ることも考えたが、ペア券なのでどちらかをお留守番させることになってしまう。そんな時ふとアルクスとの約束を思い出したのだ。


 話をすればノエラが「ルノアちゃんと行ってきてください〜」と引き下がるのは目に見えていたので、こっそり出てきたリネアだった。


「まぁ、国が召し抱える勇者ってんならそんなもんか」


「そんなもんよ。さ、好きなもの頼みましょ」


 リネアがそう言うと、見計らったかのように注文係がやってきた。


「私はこの鶏肉の蒸し焼きと……あとこの、“白蒸穀”……?ってのを頂戴」


「……なんだそれ?」


「さあ?でもこれが人気らしいわよ」


「……じゃあ俺もそれで」


 アルクスがそう言うと、注文係は「かしこまりました」と礼儀正しく頭を下げて退出した。


「……しかし、よく覚えていてくれたな」


「食事の話?まぁ……緊急だったとはいえ学術院のモンスター丸投げしちゃったし」


「いや、おかげで俺は一躍評価を得て飛び級で卒業できることになったんだ。感謝したいくらいだ」


「そうなの?よかったじゃない。じゃあ、今回はそのお祝いも兼ねてってことで」


 そう言うリネアと対面しているアルクスだったが、伏せ目がちでなかなかリネアと目を合わせない。


「……こんなこと言うのは絶対違うと思うけど、よく倒せたわね。話じゃSランクモンスターの“マザー・グール”だったって聞いたけど」


「な……アンタが俺ならできるって言って送り出したんじゃねェか!」


 アルクスはそう言いながら身を乗り出す。


「い、いや……あん時は……アンタの采配が正しかった。か」


 すぐに座り直して冷静になるアルクス。その後しばらく考え込んだような様子を見せる。


(普通に労いのつもりで誘ったけど……この様子だとあの時の予想は合ってたみたいね)


「な、なぁ!リ、リネア……さんは今――」


「待って」


 アルクスが何か言いかけたところでリネアが止めた。


「その話は食べ終わってからにしましょう」


(やっぱり……“こういう感情”って向けられている側もわかるものよね。それならユージも……)


◇◇◇◇◇◇


 何か言いかけたのを止められてしまいドギマギするアルクスをよそに、料理が運ばれてきた。混んでいる様子だったが随分早い到着だ。


「す、すごい量ね」


「そうだな……」


 運ばれてきたのはかなりボリュームのある鶏肉の蒸し焼きと温野菜が盛り合わせられた料理と、独特な食器に盛られた白い穀物……のような粒が立った山盛りの料理。


 二人は一口それらを食べてからというものの、ひたすら無言で食事を続ける。


 言葉がないのは気まずいからではなく……。


(なにこれ、美味しすぎるんだけど)


(美味いな……!これ……!)


 料理が美味しすぎたのだ。


◇◇◇◇◇◇


「フー!食った食った!」


 ――しばらくして、二人は大満足の食事を終えた。


「すごい量だったけど不思議と食べられたわ。この店が人気な理由がわかるわね」


「じゃ、じゃあ!さっきの話だが――」


 アルクスが話題を戻そうとした瞬間。


「お客様。支配人がご挨拶に伺いたいと」


 扉越しに声をかけてきたのはこの店の店員だ。


 一瞬警戒したリネアだったが、いつの間にか届けられていた招待券のことも知りたい。と言うことで支配人とやらの訪問を許可した。


◇◇◇◇◇◇


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。この料亭“隠鱗亭”の支配人、レヴィンと申します」


 挨拶に現れたのは、これまた珍しい衣服に身を包んだレヴィンという女性。綺麗なお辞儀をしながらそう言った。


(歳は……ユージよりは年上……かしらね。すごい綺麗な服……理由はわからないけど、この店の雰囲気に合っている気がするわ)


「この度は、この王都を救った賢者様と勇者様にお越しいただき――」


 そう言いながら顔を上げたレヴィンは、二人を見ると意外そうな表情を見せた。


「あら……てっきり賢者様とお見えになると思っていましたが」


 レヴィンは何が何だかわからないという様子のアルクスを見る。


「――勇者様、浮気はいけませんよ」


「「……は!?」」


 アルクスとリネアは同じリアクション。


「……これだから人の姿は……こんな見当違いをするなんて――」


「えっ?何?」


「失礼、なんでもありません」


 レヴィンはそう言うと「ごゆっくり〜」と言って下がっていった。


「な、何だったのかしら」


 リネアはその様子を見送る。


「な、なぁ……」


 アルクスは何か言いたげだ。


「……アンタの思ってる通りだと思うわよ。多分」


「……噂じゃなかったのか。筋肉の賢者と勇者が――」


「け、結婚してるなんて……!」


 リネアは否定も肯定もしない。


 実際のところはまだ正式にそういう関係ではないのだが、ひと足先に王国公認として賢者の妻と認められたリディアに対抗するために、なんとかその機会を伺っているリネアとしてはこの噂がより事実として広まれば良いと思っている。


 だが、最終的にこの“無言”がアルクスへのトドメとなった。


「わかった……だ、だがな!俺だって学術院を救った英雄だって言われてんだ!」


 アルクスは立ち上がる。


「絶対に……!筋肉の賢者より強くなって……筋肉ムキムキになってアンタを振り向かせてみせるからな!」


 ――これは、アルクスの精一杯の強がりだった。


 王立学術院の夜。王都に侵攻するモンスター。そんな危機的状況で颯爽と現れたリネアの姿が忘れられなかったアルクス。


 その隣にいることができたらどれだけ素晴らしいだろうか。そのことを考えない日は無かった。


 そしてついに実現した二人でのランチタイム。


 彼の中には確かな決意があった。


 ――今日、彼女に自分の思いを伝える。


 しかし、二度その時を阻まれ、ついには彼女に伴侶がいることを知った。


 正確には、考えようとしてこなかった現実が突きつけられた形。


 アルクスはその後、丁寧にリネアにご馳走になったことの礼を言うと、先に退店した。


「……別に、私はアイツが強いからとか、ムキムキだからどうこうってわけじゃないんだけどね」


 そんなことを考えながら、自分がユージのことを“そう思っている”ことにもはやなんの疑念もないことに気づき、赤面しながら帰路につくリネアだった。

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