第94話「女神追放」
## 第94話「女神追放」
### 【本文】
「どうして――ここに呼ばれたのか、わかりますね」
ここは天界。
物質の境界線は曖昧で、存在と意識だけが行き来する空間。
今、この場にいるのは“女神教の女神”と、“神々の意思”だ。
その上位存在たちの意思からの呼びかけに、女神は答えない。
いや――答えられない。
「あなたが生まれ落ちた世界……素晴らしいことです。あなたのように“新しい神”が生まれなければ世界は停滞するばかりですから」
「しかし、あろうことが神であるあなたが混沌を撒き散らすとは……」
「つい最近、愚かな龍神を下界に追放したばかりだというのに」
女神の存在がゆらめく。ライバルである龍神の追放は、失敗続きの女神にとって朗報だ。
「……愚かな反応。やはり生まれたばかりの未熟な神は手綱を握らなくてはいけませんかね……」
「あなたも下界に行っていただきます。あなたが干渉していた大陸は追放神がまた増えることになりますが……新たな神の誕生の予感もあることですし、なんとかなるでしょう」
――“新たな神”。
女神には心当たりがある。
自分の信仰を脅かし続け、先の事件でその地位を確かなものにした頭のおかしい賢者の存在。
「それに関しては我々も同じ意見です。彼への信仰が神へと昇華するようなことがあれば……フフ、一体どんな神が産まれるでしょう」
まただ。また、あの男が女神の立場を脅かす。
「さて、この世界に関してこれ以上時間は割けません。次の世界の裁定に行かなくては……」
そのような意思を残し、上位存在は姿を消した。
――自身の下界落ちという厳罰の裁定。
女神は呆気にとられた。女神教の誕生から、ここにきて最大の窮地が訪れている。
◇◇◇◇◇◇
女神教は、大陸を巻き込んだグラシオン一家の独立戦争で、その一家が民をまとめ上げるために推し進めた信仰である。
最初は何気ない一人の男の祈りから始まった。
そこから少しずつ規模を拡大していき、グラシオン一家の介入で爆発。
女神はその信仰から生まれた。
戦争が始まり戦況が有利に運ぶと、それにつれて信仰も集まる。
――だが、事はそう簡単には行かなかった。
戦争の終わりは、信仰の終わり。
グラシオン王国の国王は剣を重んじる男だった。勝利の立役者も“龍の加護”をもつ勇者。独立が成った後、信仰がどうなるか保証はできない。
王国だけには頼れない。
女神は敗戦濃厚となり故郷を追われた貴族たちに接近して“転生勇者”たちを召喚させた。
彼らを筆頭に大陸東側で勢力を拡大させ、終戦間際に大侵攻を敢行。王国の勇者を存在ごと抹消し、結果的にグラシオン一家の一人勝ちを避けることができた。
しかし――
あろうことか“聖統国”を名乗り始めた転生勇者を囲う貴族たちは、転生勇者たちを“神”として崇め始めた。
これでは、女神教の信仰は薄れるばかり。
さらには女神教の信仰を確固たるものにするために作った“悟り”スキルも筋トレバカの異常者に獲得され、さらにその特別感が失われていく……。
一度はその男の功績で信仰を集めたが、その男も“龍の加護”を受け、女神教を批判するような動きを始めた。
そして、この下界への追放。
このままでは、消滅してしまう。
女神の焦り。その穏やかでない心情とは裏腹に、空間が光で満ちていく。
――追放が始まった。
女神の生き残りをかけた最後の戦いが始まる。




