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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第19章「王都大動乱」後編

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第90話「筋肉と夜明け」

## 第90話「筋肉と夜明け」


### 【あらすじ】


 ザハリエルに子供達の居場所を託されたユージ。


 騎士団に拘束されたザハリエルが言うには、レクトの命は持ってあと数時間らしい。


 急がなくては!


### 【本文】


「……ここか」


「魔法陣……一応、こうなるかもって予想はしてたのかもね」


 我々は孤児院に戻ってきていた。


 二階のザハリエルのものと思われる一室に、起動しているのか光っている魔法陣が展開されていた。


「転移の魔法陣ね。使ったら両側から行き来できるようになってるわ。今はこっちからの片側通行ね」


「詳しいな……」


「そう?冒険者にとって転移魔法陣は常識よ?設置できる人は限られてるけど。さ、さっさと行くわよ」


 リネアに催促されて魔法陣に乗る。


 ――この先に、子供達がいる。


◇◇◇◇◇◇


 ……薄暗いな。


 魔法陣に乗ると、淡い光に包まれ体が少し浮いたような感覚が数秒続いた。視界が光で覆われると浮遊感はすぐに消え、視界が戻る。我々は見覚えのない空間に転移していた。


「リネア……ここは?」


「わからない……でも……この壁、ダンジョン……?」


 ダ、ダンジョン……!?ザハリエルは子供達をダンジョンに送ったのか!?


「……誰?」


 そんなことを考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた。


 声の先には孤児院の子供たちがいた。


 この空間は……そこそこ広いが、出入り口がない。壁には草が生い茂っているような箇所もあり、まさにダンジョンといったような見た目の部屋だ。


「……賢者様!レクトを助けて!」


 我々に気づいてすぐに駆け寄ってきたのはヴェルカだった。


「お願い!レクトが死んじゃう!」


 悲痛な彼女の声。顔は涙で濡れている。


「落ち着いて……いい?他の子の状況は?」


 リネアは優しくヴェルカをなだめながら聞く。私は部屋の隅でまだ元気な子に看病されているレクトを抱き上げた。


「具合が悪い子がいるけど……レクトほどじゃない」


「そう。ユージ、あんたがまずレクトを連れて行きなさい。」


「……ああ」


「何をする気か知らないけど……あんたを信じるわ」


「わかった。必ず教皇に治療させる」


「私は残った子達を何とかして連れて行くわ」


「……頼むわよ」


 リネアの言葉を背に魔法陣に向かう。


 目的地は……大聖堂だ。


◇◇◇◇◇◇


 雨上がりの朝日に虹がかかっている。


 孤児院に転移魔法陣で戻り、大聖堂へと急ぐ。


 今は、まだ避難民が大勢いるはずだ。その場でこの事件の全貌を白日の下に晒すのだ。


 奴が気にしているのは、信者からの目……特に貴族の。


 信仰を集め、お布施を集める。それが奴の行動原理。


 今の今まで孤児院を気にかけなかったのは、とりわけあの男が貴族からの信仰を大事にしているからだ。だがその偏りは弱点とも言える。


 ――今から私はその弱点を突く。


 騎士団本部も、王立学術院も、避難民の中には貴族と思しき面々がいた。大聖堂にもいるだろう。その貴族と平民が同居している空間で、仕掛ける。


「お、おお!ユージじゃねえか。そっちも片付いたのか?」


 大聖堂の入り口でカイルが避難民の誘導をしていた。幸い。まだ身廊にはたくさんの人々が残っている。


「すまん、カイル。しばらくみんなここから出さないでくれ」


「え……?あ、ああ。そりゃ構わんが……」


 カイルは混乱しながら人の流れを止める。私はそのまま大聖堂へと進んだ。


◇◇◇◇◇◇


 ――神妙な面持ちで少年を抱えた筋肉の賢者が、大聖堂の身廊に現れた。


 騎士団の副団長が人の流れを止め、大聖堂の注目が一気にその賢者に向けられる。


 賢者は大きく息を吸うと、力強い声で宣言した。


「聞け!この事件の首謀者、女神教のザハリエル卿は孤児院の子供を守るため、女神の意思によって王都を混乱に陥れた!」


 大聖堂の全員がその声を聞き、息を呑むようにしてその言葉の続きを待つ。


「原因は明白!女神教がこの子のような救いを求める民を蔑ろにしたからだ!」


 続いて、人々の注目は賢者が抱えた少年に集まる。苦しそうに息をする少年。顔色も悪い。命の灯火が消えようとしている。


「筋肉の賢者はその慈愛の心を持ってここに、教皇の手によるこの子達への救いを嘆願しに来た!」


 一瞬の静寂の後に、人々がざわつき始める。その反応は様々だが、教会への疑念の声が多く聞こえ始める。


「教皇よ!今ここに姿を現し、その奇跡の力を持って救いをもたらしては下さらんか!」


 ユージによる渾身の大演説。


 観衆はその行く末を見守る。


「筋肉の賢者殿、その話、まことか」


 その時、身なりのいい男がユージに話しかけた。歳は三十くらいだろうか。背が高くすらっとした印象の銀髪の男。おそらく貴族だろう。


「はい。本当です」


「ふむ、此度の大騒動、その首謀者と原因が教会にあると知れれば我が公爵家としても色々と思うところがある」


「……賢者様」


 続いて大聖堂の広間、その身廊の奥から姿を現したのはエドガルドだった。


「教皇様がお待ちでございます。どうぞこちらに」


 そう案内されると、毅然とした態度の賢者と、彼が抱えた少年は身廊の奥へと消えて行った。残された人々は、そのまま残る者、再開された誘導に従ってその場を後にする者……さまざまであった。


「これは、この王国も時代の境目にいるということか」


 そう言うと、銀髪の貴族も大聖堂を後にした。


◇◇◇◇◇◇


 ――大聖堂、女神の間。


「……お主、やってくれたのぉ」


 今まで見せたことのない凄みを見せる教皇。


 教皇は苛立ちながら女神の間の祭壇の周辺をうろうろしている。


「エドガルド、外せ」


 教皇がピシャリとそう言うと、エドガルドは退出した。ユージとレクト、教皇が残った。


「不本意――この上なく不本意である。しかし、やらねばならぬな?このまま呪いを放置すれば貴様、また先ほどのように――あろうことか女神を愚弄するようなことを!吾輩がくれてやった賢者の名声をあのように使うとは――」


「いいから早くしろ。時間がない」


「貴様……!この女神教が真の恐ろしさを理解しておらん!女神様の怒りを買えば、いや、女神様に見放されればこの国は――」


 ユージは痺れを切らしたように教皇に一歩近づく。その目には、怒りが宿っている。


 教皇は喋るのをやめると、祭壇にレクトを寝かせるように指示した。




 ――教皇による神聖契約魔術が行われる。




 その様子は呆れるほど神々しく、また皮肉にも教皇の今状況とは反転した印象を与える。


「……まだ大勢いる。全員やってもらうからな」


「貴様、女神教の教皇を脅迫してるのだぞ――」


「今後は、ザハリエルの代わりに孤児院を運営しろ。呪いの定期的な治療もな」


 教皇はユージを見たまま動かない。


「……わかっておるであろうな」


「……何がだ」


「女神は貴様を許さぬであろう。女神教の信仰を拡大することを妨げるのなら、女神は他にどんな手を使ってでも貴様を殺すぞ」


「だったら伝えとけ、真正面から来い。周りを巻き込むなってな」


 ユージはそう言うと、すっかり顔色が良くなったレクトを抱き上げて教皇に背を向ける。


「――せいぜいそれまで、筋トレしながら待ってるからよ。デカくなるんなら……俺は信仰集めより筋トレを選ぶ」


 賢者はそう言い残すと、女神の間を去っていく。


 その背中を、教皇はただ見つめることしかできなかった。


◇◇◇◇◇◇


 ――事件はこうして幕を閉じた。


 教皇は今回の事件の責任をすべてザハリエルに押し付ける形で王国や騎士団からの追及を逃れている。


 女神教はと言えば、呪いの治療によって貴族からの信仰は引き続き集めたが、孤児にも同じ奇跡を無償で与えたことが影響し、お布施の額はどっと下がったようだ。


 さらに、平民や貧困層を軽視していたという噂も広がり、その層からの信仰は見る影も無くなってしまったらしい。


 王国としては、女神教の国教としての扱いに関して、協議することが決まった。


 そして……上流階級に屈しないヒーローとして、筋肉の賢者の筋トレ習慣が民衆に浸透し始めている。ユージの演説が大勢の目に触れたことで、筋肉の賢者の教えが女神教のものではないという認識も広がり、筋肉の賢者そのものへの信仰が広がっている。


 王国と剣術派の評議会は教会勢力を削いだ筋肉の賢者を高く評価しているそうだ。教皇による孤児院の扱いも監視してくれるらしい。


 そしてザハリエルは、王都を混乱に陥れ、多くの被害を出した国家叛逆の大罪で死罪が決まった。このことは、孤児院の子供達は知らない。


◇◇◇◇◇◇


「結局、ザハリエルが女神に何を言われてモンスターを王都に放ったのか、聞けずじまいだったな」


 事件が落ち着きを見せた頃、私たちは孤児院に来ていた。ノエラとルノアが子供達と遊んでいるのを眺めながら、私は言った。


「そうね……少なくともあのデカブツを使ってあんたを殺す気でいたみたいだけど」


「……そうなのか?」


 もし、女神の神託が“私を殺すこと”だったら、私の存在が今回の事件の根本的な原因……?


「もしかして、アンタ自身が今回の事件の原因〜なんて考えてんじゃないでしょうね?」


 言い当てられてドキッとする。


「い、いや……」


「言っとくけど自意識過剰よ。それに……もっと根本的な原因がいるでしょ」


「……女神、か」


「私とルノアの家族について調べるにしろ、ノエラの家族のためにお金稼ぎするにしろ、ここまで執拗に狙われてるんじゃ埒があかないんじゃない?」


「そうは言ってもな……」


「警戒するに越したことはないわよ。あの老人だって、女神に翻弄されて……ね」


 リネアはそう言うと暗い表情を見せる。


 リューネ村の件もあって、完全に同情はできない。だが、ザハリエルも家族である子供たちのために……。


 ともあれ、平穏な筋トレ生活はまた遠のいてしまった。この一件で女神教は完全に敵となってしまっただろう。せっかく作ってもらった懸垂の器具はもう使えなくなってしまった。それに、伝説となった勇者の謎もまだ残っている。


 教皇が言っていたことも気になる。


「女神様に見放されればこの国は……なんて言おうとしてたんだろうな」


 私がなにか最悪なトリガーを引いてしまったのではないかと不安になる。


 しかし考えてもしょうがない。今回は、罪なき子供達を救えたことを喜ぶべきだ。


 そして、リネア、ルノア、ノエラの三人と、無事にこの大動乱を乗り越えられたことを喜ぼう。

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