表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第19章「王都大動乱」後編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/90

第89話「筋肉と老人」

## 第89話「筋肉と老人」


### 【あらすじ】


 ザハリエルの思惑は潰えた。


 あとはこの事件の全容を聞き、孤児院の子供たちの安全を確認すれば万事解決だ。


### 【本文】


 先ほどまでモンスターとの戦闘が行われていたとは思えないほどの静寂が包む王都の住宅街。


 いくつかの建物はその戦闘の過激さを物語るように倒壊し、穴が空き……瓦礫が散乱している。


「……孤児院で日記を見た」


 私はザハリエルに告げる。


「――そうか」


「リューネ村も、龍里嶽のドラゴンも……アンタの仕業か」


「知れたことだろう」


「あの村が……どんな状況になったか、知っているのか」


「…………」


「黙るなよ……あれもこれも“子供たちのため”か」


 老人は答えない。せめて、“そうだ”と肯定してくれれば、この男の心理は分かりやすかったのだが。


 恐らく……葛藤があったのだろう。


 自分の愛する子供たち……家族のために他者を脅かすことに。


「……これほどまでに女神を恨んだことはない」


 ザハリエルは呆然と空を仰ぐ。


「……なぁ、他に方法なかったのか」


 私は意を決して言う。すると、ザハリエルは目を見開いてこちらを見た。


「方法……だと?」


「教皇はあんたの状況についてどこまで知ってるんだ?現状、教皇しか呪いの治療ができないんだ。奴に頼るって方法は――」


 そこまで言った私を、リネアが制止した。


 ……呪いに苦しんでいるレクトの治療を拒否した教皇を間近で見たリネアは……“それは不可能だ”と思っているのか。


「……貴様、あの男の本質を見誤っているな」


「……本質?」


「あの男は手駒にならぬと見ればすぐに切る男だ。下手に食い下がれば聖職者の立場自体失いかねない」


「そうなれば終わりだ。いよいよ子供たちは死を待つのみ――そんな未来を予感しながら、どうしてそんなことができるというのだ」


 ……返す言葉がない。教皇に頼るという希望は、彼の中でもうとっくに消えていたのだろう。ザハリエルはこうする他なかったのだ。


「じゃ、じゃあ……クラリスの治療が完成するのを待つっていうのは……」


 そこまで言って、言葉に詰まった。


「レクトという少年を、知っているな」


 ザハリエルが言う。その声色は、怒りや絶望ではなく、悲しみを帯びていた。


「持ってあと数時間だ」


 心臓を冷たい手で握られたような感覚に襲われる。


「それなら……!どうしてクラリスを!彼女がいれば少なくとも時間を稼ぐことぐらいは……!」


「貴様は……何も知らんのだな」


 ザハリエルはゆっくりと息を吸うと続ける。


「あの娘ができるのは“症状を和らげる”だけだ」


「……そんな」


 リネアが言う。


「呪いが命を蝕む……その進行は、少しも止められていない」


 どうすれば……どうすればいい。


 我々が置かれた状況とは正反対に、夜が明け朝日が昇ってきた。いつの間にか雨も止んでいる。


 遠くから男たちの声と鎧の忙しない音が聞こえてくる。


 騎士団の男たちがこの事件の首謀者を探しているのだろう。


「……騎士団がフリーになってるってことは、他の場所もどうにかなったようね」


 リネアが呟く。しかし、私とリネアの視線は依然として老人に注がれたままだ。


「賢者よ」


「……なんだ」


「貴様に、我が子を託す。日記があった場所に行け」


「俺には……救えない。魔力がないから――」


「貴様ではない。貴様の“名声”が救うのだ」


 ザハリエルは言う。


 ――私は考える。


 この老人にできなかったこと。それは、教皇を動かし、子供たちの治療をさせること。


 もしくは、女神の期待に応え、また“悟り”スキルを使えるようにしてもらうこと……。


「そうだ……!女神から課された神託って何なんだ?俺が手伝えば――」


「いたぞ!ここだ!!」


 どこからか男が叫ぶのが聞こえる。


「……賢者よ。我が子らを頼む」


 周辺にいた騎士団員たちが集まってくる。


「――我が子らには……」


 この世の理不尽を恨むかのように言葉を詰まらせるザハリエル。


「私は……旅に出たと伝えてくれ。長い、長い旅に」


「この死……伝えてくれるな」


「ザハリエル卿!騎士団より複数の容疑がかかっている!抵抗せず投降しろ!!」


 騎士団の男の一人が叫ぶ。


 もはや抵抗する気力もない老人の言葉を待つことはなく、騎士団の男たちがザハリエルを捕える。


「行ってくれ!頼む!」


 ザハリエルは叫ぶ。


「行きましょう。騎士団に捕まったら私たちも動けなくなるわ」


 こんな時でもリネアは冷静だった。そうだ。呪いが最も進行しているレクトには時間が……騎士団の相手をしている暇はない。


「そ、そうだな……!」


 騎士団がザハリエルを拘束しているどさくさに紛れて私たちはザハリエルが託した子供たちの居場所へ向かう。


 私には……一つのアイデアがあった。


 子供たちを救うには……もうこの方法しかない。


 この手を使えば……私はもう逃げも隠れもできなくなる。


 筋トレも、自由にできなくなるかもしれない。


 仲間たちの使命にも水を差してしまうかもしれない。


 だが、少なくとも子供たちは救える。


 そしてそれは、今、この時にしかできない。


 ――舞台は整った。奇しくも、ザハリエルの行動によって。


 ここを逃せば、終わりだ。

毎日20:00更新中!ブックマーク・評価いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ