第88話「筋肉と捕食獣バロメギア」
## 第88話「筋肉と捕食獣バロメギア」
### 【あらすじ】
ついに本命が姿を現した。SSランクモンスター《捕食獣バロメギア》。全てを喰らい尽くすその残忍なモンスターと渡り合うリネアだったが、ザハリエルの強化によってさらに凶暴になったバロメギアに万事休す。
そんな彼女を救ったのは、騎士団本部から駆けつけたユージだった。一撃でバロメギアを吹き飛ばし、ついにザハリエルと対峙する。
### 【本文】
「馬鹿な。バロメギアは……SSランクの、それも“最も戦闘能力が高いダンジョン・ボス”として名高い――」
ぶっちゃけ状況はよくわからなかった。クソでかいモンスターに襲い掛かられているリネア。その後ろで控えるザハリエル。
とりあえずモンスターを全力の“パンチ”で殴ってみた。少々抵抗されたが、問題なくぶっ飛ばせた。
「バカはあんたよ。ユージがあんなのに負けるわけないでしょ」
リネアは自信満々に言う。なんでリネアがそんなに誇らしげなんだ――
「……銀翼災龍を退けたという話、教皇のでっちあげだと踏んでいたが、もしや――」
「あ、いや、それは教皇が盛ってる話ですよ。実際に銀翼災龍を撃退したのは……まぁ、私ではないってことで」
「全く……ふざけた力だ」
「……それで、目的はなんなんだ?王都にモンスターをばら撒くなんて……」
ザハリエルの日記からこの事件の全貌は掴めつつある。
孤児院の子供達を呪いから守るために女神から授けられた“悟り”スキルを維持しなければならいこと。
そのスキルを人質に女神の神託の遂行を強制させられていること。
ドラゴン事件でついにそのスキルを剥奪され、取り戻すために“何か”をしようとしていること……。
「“目的”か……貴様にそれを聞かれるとはな」
ザハリエルは恨めしそうな目でこちらを見る。
「――貴様が知る必要はない。ここで死ねば……貴様はそれで良いのだ!」
杖を振りかざすザハリエル。
「おいおい!ふざけんなよ!!」
杖から放たれるのは――炎の魔術か!?
「どっせぇぇぇいい!!!」
すんでのところでリネアを抱き抱えて回避する。
「ちょ、ちょっと!!私、もう動けるから!」
思いがけずお姫様抱っこになってしまい、怒られてしまった。
「……あれ」
リネアを下ろして辺りを見回す。
――ザハリエルの姿が見えない。
――グゥォォォォォォォォ!!!!
直後、咆哮が響き渡る。
「……仕留め損なってるじゃない」
「いや、別に一撃で倒そうなんて思ってないからな」
「謙虚なことね」
リネアは剣を構える。久しぶりに見るその姿は、私の記憶にある彼女の姿より、かっこよく見えた。これが“剣聖”スキルを持つ“勇者”かぁ。
「……何よ」
「あぁ、すまん。かっこいいなと思って」
そう言うとリネアは小さく「バカ言ってんじゃないわよ」と言ってモンスターの声の方向へ向く。
「……来るわよ!」
リネアの声に合わせたかのように土砂の影から巨体が飛んできた。やっぱりデカいな!
「さっきのお返しよッ!!」
私が拳を構えたその時、リネアは相手に踏み込み剣を一閃――
(おぉ!?)
――するかと思ったが、リネアは直後、体を捻って回転させるように斬撃を繰り出す。
リネアと交差するように着地しようとしたモンスターは、そのまま前につんのめって後方の建物に激突した。
「な、なんだ……!?」
「フン!一発入れて調子に乗ったのかしら?」
リネアは興奮した様子で――ビッと剣についたモンスターの血を払う。
「す、すげぇな!回転しながら斬ったのか!?」
そそくさと戻ってきたリネアの後方にはモンスターの前脚と思われるブツが転がっていた。
「言ってる場合じゃないわよ。多分、再生するから」
「……え?」
――グゥォォォォォォォォ!!!!
「――ホントだな」
再びこちらに対峙したデカいモンスターはすっかり元通りの様子だ。
「……じゃ、私の気は済んだから。さっさと終わらせなさいよ」
リネアは肘で私を小突く。
「え?あ、ああ。じゃ、なんか投げるか……」
モンスターは再び凶暴な叫び声を上げながら爪での飛びかかり攻撃を繰り出してくる。危機察知と緊急回避スキルで躱しながらしゃがむ。リネアも慌てて躱した。
(う〜ん、足元には手頃な石がないな)
モンスターは着地と同時にこちらに反転し、爪を勢いよく振った。その軌道が――
「ちょっとユージ!?」
なんかのスキルだろうか、衝撃波が攻撃となってこちらに飛んできている。
「フン!」
リネアを体の陰に隠して衝撃波を“パンチ”で迎撃する。このくらいなら何でもない。
「ちょっとちょっと!今の何よ!?」
リネアは混乱している。いつの間にか私の体にしがみついている。
「別になんでもないだろ?王都に出てきてるモンスターの中では結構強い方だとは思うが――」
なぜかリネアは唖然とした様子でこちらをみている。
「おっ」
再びモンスターに目をやると、四足で踏ん張り大口を開けている。その口には何か……なんだあれ?
「リネア……あれ、何?」
「私が聞きたいわよ!!早くなんとかしなさい!」
どうやら何か飛ばしてこようとしているのだろうか。エネルギー弾、的な……?
「悪いが、ここで貴様に負けるわけにはいかんのだ」
ザハリエルは強化魔法のようなものをモンスターにかけている。みるみるうちにエネルギー弾が巨大化していく。
「ほら!これ!剣あるから!投げていいから!!」
な、何をそんなに慌てているのだろうか……ただ、投げるものに困っていたのでお言葉に甘えて使わせてもらうことにしよう。
モンスターがこしらえている謎のエネルギー弾がその成長を止めた。いよいよ発射というわけか。これは早くしたほうが良さそうだ。
「行くぞ〜!フンッ!!!!」
私は全力でリネアの剣を投げる。
すると――
いつも通り手を離れる瞬間、スローモーションで感覚が研ぎ澄まされる。剣の尻を指で引っ掛け、地面と美しい平行になった剣をリリースする――
「あ、あれ?」
剣が手から完全に離れると、時間の感覚が戻る。
――ヒュッ
と鋭い風切音が鳴ると、剣は……“消えた”。
同時に、モンスターが作っていたエネルギー弾も空中に拡散していくように消滅した。
肝心のモンスターは……動かない。
投げた剣は当たった――はず。
一体どうなったんだ?と思った直後。
「……死んでるわ。こいつ」
リネアが呟く。
直後、モンスターは頭から徐々に塵となって消えた……最後にゴロンと巨大な魔水晶を残して。
◇◇◇◇◇◇
「よ、よし!倒したぞ!」
「“よし!”じゃないわよ。私の剣……結構大事にしてたんだけど?」
「すまん、あんなに飛ぶとは」
リネアに叩かれた。しかしそれは暴力ではなくある種の賞賛。
――王都に静寂が訪れる。
雨音だけが響く。
「……筋肉の賢者。まさかこれほどとは」
声がした。
いつの間にか現れたその老人の目には、“絶望”“諦め”そんな感情が浮かぶ。
「私の強化を施したSSランクモンスターがこうも容易く殺されるとは……神の所業とも言うべき……」
老人は呆然としている。
「いや、この男こそが……“真の神”の領域に――」
この老人はこの一連の事件の全貌を知っている。
……話を聞く時が来た。
毎日20:00更新中!ブックマーク・評価いただけると励みになります!




