第85話「王都防衛戦 中央広場編」
## 第85話「王都防衛戦 中央広場編」
### 【あらすじ】
騎士団本部にタイタン・ゴーレムが、大聖堂にアビス・セラフィムが現れたのとほぼ同時刻。ここ王都中央広場にも不穏な影が……。
### 【本文】
「クラリスさん……大丈夫でしょうか」
ノエラとマルティナ、そして逃げ遅れた多くの避難民は依然として王都中央広場に陣取っていた。ここから避難所となっている騎士団本部、大聖堂、そして王立学術院。どこに行くにしてもそれなりに距離がある。
「彼のスキルは本物です。信じても良いのでは?」
モンスターの襲撃は落ち着きを見せていた。ユージのおかげでヘヴィコア・ゴーレムの姿ももう見られない。騎士団員たちは再び逃げ遅れた人たちがいないか捜索に向かっている。
「マルティナさんって、ユージさんのこと……案外信頼してくれていますよね!」
「…………妙なことを言わないでください」
「す、すみません……!でも……ありがとうございます」
ノエラはマルティナに言う。
「ユージさんを信頼して、私たちのところに――」
「あぁ、そのことですか」
マルティナはノエラの言葉を待たずに言った。
「それは、“あなたを心配してのこと”です。あの男を信頼していたわけではありません」
「……それってどう違うんですか?」
「それは……ですから、あなたが心配だったからあの男を行かせただけで――」
マルティナとノエラは束の間の休息を感じていた。状況は違えど、絶えずゴーレムの攻撃に晒され、それぞれの守るべきもののために戦った二人の魔力は底をつきかけていたが、徐々にそれも回復しつつある。全快には程遠いが、ある程度の襲撃になら耐えられるだろう。
しかし、そんな余裕は、すぐに残酷な現実によってかき消される。
――気配。それはまずマルティナが、遅れてノエラが察知する。
「マルティナさん」
「静かに……みなさんも、なるべく一箇所に」
マルティナが民衆をまとめる。
――何かが来る。
最初に姿を現したのは、スケルトン兵士たちだった。剣を持った近接攻撃タイプだ。
(あれ……?もっと邪悪な気配がしたと思ったけど、さっきまでと変わらない……)
ノエラはその兵士たちを観察する。
ゆっくりと、こちらを伺うようにジリジリと迫ってくるスケルトン兵士たち。その数は十……いや、二十はいるだろうか。
「ノエラさん。状況は最悪です」
「えっ?」
「こうなってはここに留まるのは自殺行為です。恐らく囲まれている……あのスケルトン兵士が出てきた方向を考えれば――そうですね……騎士団本部の方向へ撤退戦に移行します」
「ど、どういうことですか……?」
「話はあとです。模擬戦の時、私が教えたことを思い出して……全力を尽くして」
マルティナは言う。その様子はノエラが今まで見たことのないものだった。
「皆さん!!今から移動します!そのまま広がらずに、なるべく固まって騎士団本部へ向かいます!」
マルティナは民衆に呼びかける。
「走らず!慌てず!ゆっくりで大丈夫です。道がわかる人を先頭と最後尾に!」
マルティナの雨音を切り裂くような凛々しい声の指示が民衆を動かす。二十数人の人々は彼女の指示通りに動き始める。
「良いですか?あなたが感じた気配。それは正しい。まずその感覚を信じて」
その後すぐにマルティナはノエラに寄り添い、そう言った。
「は、はい。たぶん……かなり強いモンスターが、近くにいます」
「そうね。それで……出てきたのはスケルトン兵士たち。どう思う?」
マルティナのこの喋り方をノエラは知っている。何か相手に学び取って欲しい時の彼女の特徴だ。
「…………こちらにまっすぐ向かってこない、です。誰かの指示を……待っているかの、ように……?」
ノエラはそう言いながらある確信へと辿り着く。冒険者稼業に縁のない彼女でも知っている。スケルトン兵士を率いる恐怖のSランクモンスター“スケルトン・ジェネラル”が、自分たちを狙っている……?
◇◇◇◇◇◇
移動を始めてしばらく、スケルトン兵士もこちらを伺うように距離を保ちながら追跡を続けている。
マルティナの指示で一団はなるべく見通しのいい大通りを行く。マルティナが警戒しているのは――。
「マルティナさん!来ます!!」
ノエラが叫ぶ。直後、風を切るような音が乱発。
――矢だ。
どこからともなく大量の矢が放たれ、民衆に襲いかかる。
悲鳴が上がる。だが、その矢は誰のところにも届かず、魔術によって作り出された壁に阻まれた。
「さすがですね、ノエラさん」
「は、はい!教えていただいた相手の攻撃“だけ”に反応して防御障壁を展開する魔術……!」
回復してきたとはいえ、魔力量は限られている。絶えず移動する民衆全員をカバーする結界を張り続けるのはリスクがあるため、このような必要時にだけ発動する防御魔術は今の状況に合致している。
(おそらく、避難済みで空き家になったどこかから弓矢の斉射。噂には聞いていましたがここまで厄介な知能を持っているとは……)
スケルトン・ジェネラルは人間のような組織戦闘をスケルトン兵士を使って展開してくるモンスターだ。ダンジョンで遭遇した場合はその入り組んだ地形を生かした遭遇戦を仕掛けるなどして多くの冒険者の命を奪ってきた。
(これは市街地戦……それにこちらは一般市民の避難を同時に……これは、まずいかもしれませんね)
夜の闇に紛れて、弓兵の場所は掴めない。すぐに第二射がくるが、これもノエラの適切な防御結界が阻む。
「足を止めないでください!ゆっくりでいいですから騎士団本部の方向に――」
マルティナがそう民衆に呼びかけた瞬間だった。
――ウォォォォォォォォン!!!!!
サイレンのような音が王都中にこだました。
民衆から再び悲鳴が上がる。ノエラもマルティナも、スケルトン兵士でさえもその叫びに怯み、足を止めた。
「何です、今のは……」
(幸い、距離はある。でも確実に……ここだけじゃない。王都中でSランク級――もしくはそれ以上のモンスターが……?)
マルティナがそう考えていると、ノエラが不安そうにマルティナの方へ寄って来る。
(いえ……他所を心配している余裕はありませんね。今はここを切り抜けなくては……)
すると、先ほどの咆哮を合図にしたようにして、様子を伺っていた近距離装備のスケルトン兵士たちが一斉に襲いかかってきた。同時に弓の斉射も降り注ぐ。
「ノエラさん!一気に突破しますよ!」
マルティナは叫ぶ。
「ま、前からも来てます!!」
「当たり前です!あなたが敵ならどうするか常に考えなさい!」
「はっはい!!」
このやりとりにノエラは懐かしさを感じていた。騎士団の訓練施設で攻撃魔術を教わっている時は、こんな感じで……。
(あ、そうだ!私の攻撃魔術……マルティナさんがいるこんな時こそっ……!この距離があれば誰も巻き込まないし……後のことは……“時限式”が使えればきっと大丈夫……!)
ノエラは何かを閃き、進行方向から押し寄せるスケルトン兵士に突進していく。奥には一際大きく、豪華な装備をつけたスケルトンが。おそらくあれがスケルトン・ジェネラルだ。
「なっ……!?ノエラさん!!」
マルティナは叫んだ。しかし、民衆を放っては置けない。後方からのスケルトン兵士の猛攻、そして頭上から降り注ぐ矢は捌ききれない。やむを得ず全体を覆う結界を展開し耐える。
――ノエラはその結界の外に出ている。
「ノエラさん!!!」
マルティナの声は届いたか、否か。
そんなマルティナの心配もよそに、ノエラは降り注ぐ矢を的確にピンポイントの障壁展開で処理。スケルトン兵士に肉薄した。
「い、いけぇ!!」
相変わらず気の抜けるようなノエラの叫びだったが、彼女が放った爆発の魔術は……。
――ドォォォォォォォン!!!!
一瞬周辺が真昼のような明るさになったかと思った瞬間。強烈な爆発音と衝撃波が広がる。
(……え?)
マルティナは呆気に取られたような様子でその大爆発を目撃した。
◇◇◇◇◇◇
爆発は前方のスケルトンたちをまとめて消し飛ばしていた。その威力は粉々になって生成された大量の魔水晶が物語っている。
残った後方のスケルトンの対応をしながら前進するマルティナと避難民の人々。ジェネラルを失ったスケルトンたちはバラバラに攻撃を仕掛けてくるようになった。姿を隠すように矢を射っていた弓兵も次第に姿が見えるようになってきている。
「ノエラさん!!!」
そんな中、ノエラは通りのど真ん中で倒れていた。
(あれほどの大魔術……おそらく私が教えた攻撃魔術を限界まで高めた派生魔術“爆閃”。そんな魔術を使えば魔力が枯渇して当たり前……!)
どうにかして彼女を救わなくては……!しかし、マルティナの魔力も継続的な結界展開で限界が近い。
――無慈悲な弓矢の雨がノエラを襲う。
マルティナの思考が限界まで回転する。この場を、誰も死なずに乗り越える方法は!?自分がノエラを庇いに行けば、その後多くの民衆がスケルトン兵士の餌食になる。
ノエラを放置すれば、このまま矢の雨にさらされ無惨に――
そこまで考えた直後。
ノエラの体が突如現れた魔法陣の光に吸い込まれ消えた。
「えっ……!?」
マルティナは状況を飲み込めない。しかし、すぐに冷静に状況を分析しようとすると……。
「あ、あの……!足元に……!」
避難民の女性の一人がそう言う。
言われるままにマルティナが足元を見ると――。
「ノ、ノエラさん!?」
先ほどまで結界のはるか先で倒れていたノエラがいつの間にかそこにいた。
(て、転移門の“時限設置”……!?いつの間にそんな高等魔術を……それに、それをあの土壇場で……!?)
マルティナはノエラを避難民の一人に預ける。
(この成長……おそらくあの男のおかげでしょうか。最初の師匠としては、すこし複雑ですが……)
マルティナはノエラを見る。先ほどと何ら変わらない彼女の姿。マルティナにとっては、とても勇敢に写っていた。
(もはや、過去の私と重ねる面影はありませんね)
そう思いながら杖を構える。統率を失ったスケルトン兵士など、何体来ても同じことだ。マルティナは冷静に状況に対処すると、リディアの待つ騎士団本部へと民衆を誘導するのだった。
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