第81話「筋肉と救出劇2」
## 第81話「筋肉と救出劇2」
### 【あらすじ】
ザハリエルの孤児院襲撃から逃げ延びたノエラとクラリス。
しかし孤児院の子供達はザハリエルの手によってどこかへと転移させられてしまった。
もとより子供達のために始まったザハリエルの行動の数々。それを考えれば、王都にさらなる危険が迫っていることは明白であった。
ザハリエルによって昏睡状態に陥ったクラリスを救うため、ユージは騎士団本部へと走る。
### 【本文】
夜の王都を走る。
周囲にはグールや……武器を持ったスケルトンみたいな奴まで出始めた。弓を持っているやつも……!
「一体何する気なんだよあの老人は……!」
そんなことを言いながらも騎士団本部はすぐそこに迫っていた。明らかにモンスター達が一方向に向かっているので幸い迷わずに済む。
私の存在に気づいたモンスターは歩みを止め襲いかかってくるが、危機察知と緊急回避スキルのおかげで難なく回避できる。モンスターの間を縫うようにして前進することも可能だ。
◇◇◇
騎士団本部前は騒然としていた。騎士団員達が総出でグールやスケルトン兵士と戦っている。その中には――
「リディア!!」
叫びかけると、一際ものすごい勢いでモンスター達を薙ぎ倒している女騎士はこちらに一瞥をくれると、進路を変えてこちらに接近した。
「ユージか……!ゴーレムの件は助かった……と、それどころではなさそうか」
リディアは抱えたクラリスの様子を見て事態を察してくれたようだ。
「話したいことも色々あるんだが……とにかく今はクラリスを助けるのに手を貸してくれないか?」
そう言うと、リディアは数名の騎士団員に声をかけ陣形を組み直させた。どうやら広場と同じくモンスターの波が落ち着き始めているようなのでリディアが離れても大丈夫そうだ。
◇◇◇
騎士団本部の一階広間は、すでに避難民で埋め尽くされている状況。
豪華な衣服に身を包んだ貴族らしき者が平民らしき者の隣に座り込み、顔を歪めている。普段なら決して交わることのない階級が、今はただ「逃げ延びた者」として一つの空間に押し込められていた。
子供の泣き声があちこちから上がる。母親が必死に抱き寄せ、震える声でなだめているが、その手もまた小刻みに震えていた。
一方で、怒号も飛び交っていた。
「騎士団は何をしている!なぜ王都にこんな数の魔物が入り込む!?」
声を荒げる者の目には恐怖が滲んでいる。それを誤魔化すように、誰かを責めずにはいられないのだろう。
壁際では、傷を負った者が簡易的な手当てを受けている。血の匂いと湿った空気が混じり合い、広間の空気は重く淀んでいた。
俯いたまま動かない老人。
歯を食いしばり、外の様子を睨み続ける若者。
ただ呆然と天井を見上げている少女。
「おい!いったい王都で何が起こっておるのだ!」
そんな中央広間をリディアの案内で通り抜けようとすると、身なりのいい横柄な態度の男が絡んできた。
リディアは……立場上無視できない相手なのだろうか。その足が止まる。
「あ、すいません!今急いでるので後にしてもらってもいいですか?」
その様子を見て私はリディアに先に行くよう促し、そう言いながら男の避けて進もうとする。
「き、貴様!無礼であるぞ――」
男はそう言いながら私を止めようとするが……残念ながら私のフィジカルの前には無力だったようだ。すぐに諦めて引き下がった。避難してきている人々の視線が一気にその男に集まる。背後で男が何やらこちらを非難する言葉を発しているのが聞こえたが、耳に入らなかった。
「ちなみに、だが」
そんな様子を見ていたリディアは口を開く。
「君の賢者という肩書きは、どの階級にいることにもならんぞ」
「……そりゃそうだろ」
「わかってて今の態度か……」
「問題になったら全部俺のせいにしてくれ」
「そう簡単に行くか」
そう言いながらもリディアは案内を続ける。
「別に場所さえ教えてくれれば一人でも大丈夫だぞ?前に一回使ったことあるやつだし……」
ずいぶん昔のことのように思うが、以前リディアとマルティナを救うのに使った契約。そこまで難しいものではなかったから道具さえ揃えば――
「心配だ。君だけでは」
そんな私の自信はリディアには通用しなかったようだ。
「……そうか」
そういうリディアの目線は抱えたクラリスに注がれている……何か気になることでもあるのだろうか。
「着いたぞ。ここなら問題あるまい」
階段を上がり二階へ。ここはおそらく……仮眠室のようなものだろうか。ベッドが置かれた部屋だ。クラリスをゆっくりと寝かせる。
「私は道具を持ってくる。君は……その、なんだ。“用意して”待っててくれ。」
「それと――」
リディアは部屋から去り際に言う。
「契約で刻む紋の大きさは覚えているな?」
「え?あ、ああ」
「……全部剥く必要はないからな」
そう言うとリディアは道具を取りに部屋を去った。
(いや、あの時はアンタが勝手に脱いだんじゃ……)
そんなことを考えながらクラリスを見る。
「すまん、服、ダメにしちゃうが……」
背中を露出させると、彼女の透き通るような肌が目に入った。ただ、戦闘時にあれだけモーニングスターをぶん回している割には背筋の筋肉量は少ないな……。
リディアは……たしか腹筋も割れてて筋肉質なナイスボディーだったような。クラリスはスキルで強化されるタイプなのに対し、リディアは基礎身体能力プラススキルであの動きができるってわけか。
そんなことをぐるぐる考えていたら、リディアが道具を持っていつの間にか戻ってきていた。
「……君は、私たちの時もそんな舐め回すような目で見ていたのか」
「そ、そんなわけないだろ……!」
「……さっさと始めろ」
な、なんか腑に落ちないが……。確かに言う通りだ。クラリスをいつまでも待たせるわけにもいかない。急いで"悟り"スキルによる治療を済ませよう。
リディアから道具を受け取ると、そのままクラリスを避けてベッドに乗る。
「……おい。ベッドに乗る必要はないんじゃないか」
リディアはなぜか不満そうに言う。
「いや……このほうが確実だろ」
「…………それもそうだな」
な、なんなんだ?
その後、リディアの刺さるような視線に晒されながら奴隷契約の儀式を進めるのだった。
◇◇◇◇◇◇
「……起きないな」
儀式を終え、リディアがクラリスを着替えさせてからしばらく経った。リディアたちは終わったらすぐに回復したように記憶しているが、クラリスは目を覚さない。
「元より、彼女はなぜこの状態に?」
「わからん……恐らくザハリエルの仕業であることは間違いないんだが……」
「ザハリエル卿か……それなら、何か精神に作用する魔術の類かもしれん」
…………王都で襲われた時に奴が使っていた人ばらいの魔術。確かに、その類の魔術は得意なのかもしれない。
「俺のスキルじゃ太刀打ちできないってことか?」
「いや、そうとも限らん。外傷や病気と違って精神に作用する状態異常は回復しても即座に元通りとはいかん場合が多い」
その時――建物の外から爆発音が聞こえる。
「な、なんだ!?」
急いで窓から外を見る。
「な、なんだあれは……!」
リディアが珍しく狼狽している。二人の目に飛び込んだのは……。
「タイタン・ゴーレムか……?ありえん……ダンジョン内でもほとんど目撃情報がない推定Sランクのモンスターだぞ!?」
外見は今まで散々倒してきたゴーレムと変わらぬ巨体。しかし、そのコアからは信じられないほどのエネルギーを感じる。
最悪なことに、そのゴーレムは大量のグールやスケルトン兵士を従えているように見える。
「ユージ」
リディアはそう言うと、リディアは部屋のベッドで依然目を覚まさないクラリスの方を見る。
「彼女が起きるのを待っている時間はない」
「あのモンスターたちの狙いはここにいる全員だ」
「……そりゃ大変だな」
「さすが、あのモンスターを見てもその余裕か」
「リディアも大概じゃないか?」
「そんなことはない。君がいなければ不安に思ったかもしれんぞ?」
リディアは不敵に笑った。英雄として覚醒した彼女のことだ。私がいなくても立派に戦えそうなものだが……。
――王都の夜はまだまだ続く。我々は騎士団本部にいるすべての人々を守るためにモンスターの迎撃に向かった。
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