第79話「筋肉と救出劇」
あらすじ
孤児院がザハリエルの襲撃を受けたことはつゆ知らず、マルティナと共に中央広場の防衛に努めるユージ。
疲弊したマルティナに代わりゴーレムたちを殲滅していくが……。
「賢者様ー!」
ゴーレム退治は順調。目に入った個体の核をひたすら撃ち抜く作業に変わりつつあったところで、騎士団の一人が何やら慌てた様子で駆け寄って来た。
「どうかしましたか!グール退治の方に問題でも――」
「あ!いえ!おかげさまでグール退治も順調です」
「それじゃあ……」
妙な胸騒ぎがした。騎士団管轄の報告ならマルティナにするのが筋だ。わざわざ私に報告に来ると言うことは……?
「それが、西の方角で、こちらに向かっている少女と、教会のシスターさんを見かけたと報告があって」
体温が一瞬で持っていかれたような不快感が全身に広がる。
「その報告では、少女は賢者様のお連れの方ではないかと――」
マズい。方角から考えても孤児院に残した二人の可能性が高い。モンスターは王都の中央に集中している。それなのになぜこっちに向かって――?
「大型モンスターに襲われているようで、騎士団も近づくのが困難です。一人はかなりひどい負傷状況のようで急を要すると思い――」
「行ってください」
そう言ったのはマルティナ。振り返ると、彼女は再び立ち上がっていた。
相変わらずマルティナの表情は読めないままだが、それでも十分に伝わってくるのは彼女の”心配”。マルティナはノエラを気にかけてくれているようだ。
「……すぐに戻る!」
そう言うと私は報告があったという場所へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
――こんなことになるなら。
私は、ちょっとだけ後悔しています。
杖を握る手は、もうほとんど感覚がない。
この結界も、もうどれほど持つか。
私に、もっと力があれば。あの瞬間、魔術の権威と対峙した時に怖気付かなければ。
そんな後悔も、もう遅い。
絶えず振り下ろされるゴーレムの鉄槌。この結界が破られれば、きっと私たちを残酷に押しつぶして、それでおしまい。
怖い……怖いけど、涙は出なかった。
強化魔術を使って担いできたクラリスさんは、怪我の治療はできたはずなのに目を覚さない。
――私は、自分の弱さを克服できたと思っていた。
故郷を出る時、乗合馬車を引くために勉強した魔術。
誰かを守るために、自分を守るために覚えた強化と防御の魔術。
でもそれだけでは、本当に守りたいものを……守れない。
――つんざくような粉砕音がこだまする。
ああ、ついに。
結界が破られ、グールが接近してくる。頭上には、散々攻撃を弾かれてきたゴーレムがついにその攻撃を届かせまいとその足を大きく振りかぶっている。
マルティナさん……ごめんなさい。せっかく色々教えてもらったのに、私は……まだ訓練が足りなかったみたいです。
ユージさん……。
きっと……ユージさんなら、私の代わりに故郷に、お父さんお母さんのためにお金を……きっと……。
その時――グンっと体が引っ張られる強烈な衝撃にさらされる。
「ぐえっ!?」
視界が飛ぶ。一体何が――!?
◇◇◇◇◇◇
私が二人を発見した時、事態は一刻の猶予もない状態だった。ノエラが展開する結界はゴーレムの猛攻を受け、周囲には大量のグールが。
騎士団は他のグールやゴーレムの対応に追われあてにできない。
いよいよノエラの結界が破壊されると、ゴーレムが足を上げてノエラに襲いかかる。
(投擲で核を壊しても真下にいるノエラが無事では済まない。ここはこのまま”カタボリック”スキルでスピード全開だ!)
私はそのままの超スピードで二人に接近する。”危機察知”が発動しているからかスローモーションに感じ始めた。
まずはクラリス。報告とは違い外傷は見られない。ノエラの治癒魔術か。彼女を片手で丁寧に担ぐ。その後、ノエラを――すまない!片手しか空いていないので首根っこを引っ張る形になってしまうが……我慢してくれ!!
「ぐえっ!?」
ノエラが聞いたこともないような声を上げた。……本当にすまん!
「えっ……?え!?ユージさん!?」
二人をモンスターの攻撃からひとまず引き離すと、ノエラは混乱した様子で首元を抑えながらそう言った。
「説明は後だ!今はここを突破するぞ!」
「は、はい!」
とは言ったものの、ノエラもかなり魔力を消耗しているようだ。やはりこのゴーレム、弱点が剥き出しの割にそこそこ火力はあるらしい。
まずはゴーレムだな……!
「オラァ!」
担いだクラリスに気を遣いながら、本日何度目かわからないガチ投擲でゴーレムを撃ち抜く。
「え、えぇ〜?」
「見てる場合じゃない!走るぞ!」
「あ!はいっ!」
私たちは中央広場に向けて駆け出す。
この世界に来た時は有酸素運動だなんだと言って抵抗感があった連続ダッシュも、今となっては日常茶飯事になりつつある。
幸いグールは足が遅いので簡単に撒くことができる。ゴーレムも倒したし、残りは騎士団に任せても問題ないだろう。
◇◇◇◇◇◇
「マルティナさん!」
中央広場に戻ると、ノエラがマルティナを見るや駆け寄っていった。モンスターの軍勢はやっとその勢いを緩めたようで、騎士団は陣形を整えて逃げ遅れた市民を守っていた。
「さすがは賢者様、ということでしょうかね」
マルティナは続けて言う。
「ここはもう問題ありません。ノエラさんが加われば私は攻撃に専念できますので」
そう言われたノエラは心配そうに私が抱えているクラリスを見ていた。
「……治癒魔術なら傷を癒すことはできますが、彼女のそれは――」
マルティナはその様子を見ながら言う。
「ああ。なんとなくわかってる」
クラリスは依然目を覚さない。外傷は癒えている。目を覚さない原因は、他にある。
「ザハリエルか」
そう言うと、ノエラは静かに頷いた。その後、孤児院で起こったザハリエルによる襲撃の全貌を聞く。
「そう言うことでしたら、あなたのスキルでなんとかなるのでは?」
マルティナは催促するような様子で言う。
「あ、ああ!そうだな」
クラリスが目を覚さない理由はわからないが、ともあれザハリエルの何かしらの魔術の効果なのだとしたら、”悟り”スキルの発動で無効化できるはずだ。
「ここから近いのは大聖堂か騎士団本部です。ほぼ距離は同じですが――」
それなら答えは一つ。今教皇と顔を合わせると色々面倒そうだ。それなら、リディアがいる騎士団本部に行った方が話が早い。
「騎士団本部に行く。ノエラ、大丈夫だ。クラリスは俺が助ける」
「ユージさん……」
「ノエラはマルティナと協力してみんなを守ってくれ」
私はそう言い残すと、クラリスを抱えたまま再び全力ダッシュで騎士団本部を目指す。
ザハリエルは一連の事件の首謀者で確定だ。それに、女神から”悟り”スキルを剥奪され、それを取り戻すためにこの事件を……。
それに、子供たちをどこかに逃した。おそらく、王都の外へ。
――ここからは、何が起こってもおかしくない。
第79話「筋肉と救出劇」完
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