第78話「筋肉と防衛」
## 第78話「筋肉と防衛」
### 【あらすじ】
レクトの治療はクラリスの頑張りによって成功したが、またいつ呪いが再発するかわからない状況だ。
さらにまたまたモンスターが王都を襲撃。状況は悪化の一途をたどる。
ヴェルカが見つけたザハリエルの持ち物には彼の過去が記されていた。孤児院の子供達を守るためにザハリエルがとった行動。そしてその終着点が見え始めた。
### 【本文】
――老人は背の高い時計台から王都を見下ろす。雨の王都は魔石による明かりを美しく反射し輝いている。
彼が使った"転移門"という魔術。
空間と空間を繋ぐその魔術を最大レベルにまで極めた彼のその転移魔術は王都の複数箇所と、"とあるダンジョンのとある階層"を繋いだ。
門から少しずつモンスターが溢れ出し、ついにはAランクモンスターを断続的に送り込むようになった。その様子を眺める老人。
「これでいい。これで……女神の神託を成す」
「――筋肉の賢者を、殺す」
「その後、転移させたモンスターを私が秘密裏に回収すれば万事解決。女神の神託は成り、王都にモンスターの侵入を許した騎士団は発言権を失う。評議会に忍ばせた魔術派連中を焚き付ければ……」
(せいぜい、王都を救うためその身を犠牲に戦った英雄としてその最期を飾るといい)
(……子供達は私が守る。あの子たちは私の生きる意味、そのもの――)
老人は、再び闇の中に消えた。
◇◇◇
「リネア!状況は?」
「……最悪ね。そこらじゅうにモンスターがウヨウヨいるわよ」
私は孤児院を離れ大聖堂付近でリネアと合流した。王都は日中のゴーレム騒ぎでもぬけの殻だ、代わりに色んなモンスターたちが跋扈している。
「騎士団はどうしたんだ?全然見当たらないが――」
「もうこうなったら避難誘導するしかないんでしょ?大聖堂も一般人の避難先になってるわよ」
「そうか……」
「今は逃げ遅れた人がいないか探してるところ。それで――」
「あぁ。この騒ぎの犯人もザハリエルでほぼ確定だ」
「そう……子供達には?」
「伝えてない……今の所は」
「……いいと思うわ。それで」
リネアはそう言うと背を向けて剣を抜いた。
「ルノアには大聖堂周りを見てもらってる。私は南側の王立学術院の周りをチェックするわ」
「お、おう。流石の手際だな」
「アンタがシスターといちゃついて使えないから私が頑張ってるんだけど?」
「い、いや……それは誤解――」
「わかってるわよ……じゃ、アンタはこのまま中央広場周辺を頼むわ」
そう言うとリネアは剣を前方に向ける。
「それに……アンタ、あいつの相手、得意でしょ」
その剣の先には見覚えのある黒い巨体。昼に見たゴーレムの大群だ。
◇◇◇
「皆さん!!落ち着いて!大丈夫です!すぐに騎士団の援軍が来ますから……!」「ゴーレムがもう直ぐ目の前に!」「グールを止めろ!!このままじゃ押し切られるぞ!」
リネアの指示で向かった王都中央の広場はまさに絶体絶命の状態だった。広場には数十人の逃げ遅れたのであろう人々が何者かによって張られた結界の中に避難している。
「ありゃやばいぞっ……!!」
私は大急ぎで駆け寄ると、孤児院から持ってきた石のストックから一つを握って一番近くに見えるゴーレムの核へと投擲する。
「フンッ!!」
着弾の様子を見ている暇はない。また別のゴーレムが結界を破壊しようと襲いかかっている。
「もう一発っ!」
二発目も無事にゴーレムを仕留める。しかし、視界にはまだ何体ものゴーレムが目に入る。広場を囲むように並ぶ建物の奥、まだ上半身しか見えていないが、確実にこちらに向かってきている。
「おいおい……これ、かなりやばいんじゃないか?」
ゴーレムだけではない。こいつは……グールみたいな感じか?気持ち悪いモンスターがやはり人々を狙って結界に襲いかかっている。
「あ、あんまり触りたくないが……投擲だと貫通して結界壊しそうだし……仕方ないかっ……!」
久しぶりの全力パンチをグールにお見舞いする。ほぼ当たった感覚はなく、空振ったような手応えだが、グールの上半身が消し飛んでいる。
「お、おお!体液とかぶちまけないのはいいな。よし!この調子で……」
結界に近づくモンスターたちを次々に倒していく。すぐに騎士団の面々は私の存在に気付いたようだ。
「け、賢者様……!?」
騎士団の一人がこちらを見るや否や叫んだ。
「み、みんな!賢者様の加勢だ!!」
その声は群衆に一抹の安堵をもたらしたらしい。ほっと一安心のような空気感が広がる。
(な、なんか随分期待されてるな……)
こうなってしまっては責任を持ってみんなを守るほかない。
「あ、あの!ここは誰が指揮を……」
そう聞いた瞬間、群衆を囲っていた結界が解かれる。
「あ……!結界が!マルティナさん!大丈夫ですか!?」
騎士団の男はそう言うと私についてくるように促す。
「おい!結界が消えたぞ!」「一体どうなっている?早く我々を守れ!」「大丈夫……!きっと賢者様が守ってくれるわ……!」
人々は皆混乱しているようだ。口々にいろいろなことを騎士団相手にぶつけている者もいれば、静かに祈るような仕草をする者もいた。
「マルティナさん……!」
騎士団の男はその中心にいたマルティナに呼びかける。
これは……どれだけ長い間結界を展開していたんだ?かなり疲弊した様子のマルティナが座り込んでいた。
「大丈夫です……直ぐにまた結界を……ゴーレムはあと何体いますか」
「マルティナさん……!もう限界ですよ!今は休んでください!ほら、賢者様がゴーレムもグールもあっという間に――」
騎士団の男の言葉を聞いて、ハッとした様子で顔を上げるマルティナ。
「あなた……どうしてここに」
「どうしてって……なんかすごいことになってるから加勢に――」
しばらくじっとこちらを見つめたあと、力なく立ち上がるマルティナ。
「状況は把握されていますか?」
淡々とそう言うマルティナ。
「え……?いや、ほとんどわからんな」
「……でしょうね。端的に言います。王都は今存亡の危機と言っても過言ではありません」
「えっ……!?」
「あなたにとってどう見えていたのかは知りませんが、先ほど私の結界に攻撃を仕掛けていたゴーレムはAランクのヘヴィコア・ゴーレムですよ?団長やカイルさんならともかく、私では皆さんを守るので精一杯です」
そ、そうなのか……正直この世界のモンスターに関しては全く知識がないから強さの基準がわからんな……。
「団長は騎士団本部で受け入れた避難民を守っています。カイルさんは大聖堂へ。他にも南の王立学術院が避難所になっていますが……そこは戦力が割けずほとんど学術院生や教員に防衛を――」
「あ、それならさっきリネアが王立学術院方向に行くとかなんとか……」
そう言うと、マルティナは再びこちらをじっと見つめる。
「そうですか……リネアさんがいるなら安心ですね」
(……大聖堂方面はルノアが見てるって話だったな。カイルもいるならそこは大丈夫だろう)
――ドゴォォォォォォォン!
そこまで考えたタイミングで、目前の建物が轟音を立てて崩壊する。
ゴーレムだ。間違いなくこちらを狙っている。私は残り少なくなってきた投擲用に持ってきた石を握る。
「……ここは俺がやる。一旦休んでろ」
私は再び結界を展開しようと杖を握るマルティナを制止する。
一瞬何か言いたげにしたマルティナだったが、「わかりました」と言うとグールの大群を捌いている騎士団員のフォローにまわった。
正直このレベルのゴーレムなら何体来ようが関係ない。
――他の避難所も問題なく対処できているだろうか。
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