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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第17章「王都大動乱」前編

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第77話「筋肉と老人の過去」

## 第77話「筋肉と老人の過去」


### 【あらすじ】


 クラリスによってレクトはひとまず回復したが、治療は一時的なものに留まった。


 そして再び王都に現れるモンスター。リネアたちは再び討伐へと向かうが……。



### 【本文】


「う……ん……?ここは……」


「良かった。目を覚ましたみたいだな」


 孤児院の一室。倒れたクラリスを寝かせて一時間ほどだろうか。幸い、彼女の眼は普段通りの色に戻っている。


「申し訳ありません。私は……」


「レクトを治療して、そのまま倒れたんだ」


 クラリスは周囲を見回す。


「レクトか?一時的な治療とはいえ歩き回れるくらいには回復したみたいだ。今はヴェルカと一緒にいると思う」


 私の言葉を聞いて、クラリスはホッと胸を撫で下ろすような様子を見せる。全く……父親にも見習って欲しいものだ。


「……ひとまず治療はできましたが、私のスキルは"聖なる祈り"と言って賢者様やザハリエル様、お父様の"悟り"スキルの下位互換です。またいつ呪いが再発するか――」


 私は不安そうなクラリスの言葉を遮る。


「焦る必要はないだろ。俺のスキルがあるからしばらく訓練すれば絶対に"悟り"スキルにたどり着けるはずだ。神聖契約のスキルもな」


「……そうでしょうか?」


「そうだろうとも」


「……フフっ」


 そんな私の言葉を聞いてクラリスは微笑む。


「……どうした?」


「いえ……勇者リネア様と騎士団長様。お二人の気持ちがわかったような気がして」


「ん……?それって――」


 今度は逆にクラリスが私の言葉を遮った。


「それで、他の皆様はどうされたのですか?」


「あ、ああ……なんでもまた王都にモンスターが出たみたいで、リネアとルノアは騎士団の加勢に行ったみたいだ。ノエラは外で孤児院の周りを警戒してくれてる」


「……王都にモンスターが出るなんて」


「やはり……ザハリエルの仕業なのか?」


「騎士団の警戒や巡回を掻い潜って王都の外からモンスターが侵入することは不可能です。それに、王都の中にモンスターが自然発生するような場所はありません」


「じゃあ……」


「今実際に起こっているモンスターによる王都襲撃を実現するには"転移"によってモンスターを王都に送り込むのが最も現実的です」


「なるほどな……」


 クラリスが言うには、今回の規模の転移を成立させることができる魔術師は王都の中でも一握りだそうだ。その中で今回の件を引き起こす理由があるのは……。


「王都を破壊して自分の容疑ごとうやむやにしようってか……?あまりにもあんまりすぎるやり方じゃないか?」


 私は過去に何度かザハリエルに会ったことがある。その時の印象ではこんな破れかぶれの方法を選ぶ人間ではないように思ったが……。


「憶測で語っても仕方ありません。とにかく今は、ザハリエル様を探し出すのが……」


「そうだな。クラリスはノエラと一緒に孤児院を頼む。俺はリネアたちと合流する」


 ザハリエルには何か私たちの想像しない狙いがあるような気がする。一刻も早く、奴を見つけなければ。


 そう思い部屋を出ると、ドア沿いの壁に一人の少女が立っていた。


「ヴェルカ……もしかして聞いてた?」


 こくりと頷くヴェルカ。


 ま、まずいな……彼女たちの保護者であるザハリエルの現状は知られないようにしたかったのだが。


「賢者様……これ」


 そういってヴェルカが渡してきたのはくたびれた分厚い冊子だった


「ザハじいの部屋に置いてあったんです」


「残ってたのは、これだけ……」


 ヴェルカは絞り出すような声で言う。


「私、難しくて読めなくて……賢者様なら、ザハじいがどうしていなくなっちゃったか、わかると思って」


 冊子を受け取り、いくらか見てみると、それはザハリエルの日記のようだった。


◇◇◇


 私の孤児院は戦争で身寄りをなくした子供たちのためにある。


 身分も、金も、思想さえも、関係なく。


 まだ失われるべきではない命を、私が守れるならなんだってすると誓おう。


 今日、イシュルドと名乗る少年が加わった。


 帝国軍のクーデター騒ぎに巻き込まれて一家が惨殺された貴族の生き残りだ。


 この子は魔術に長けている。この私も魔術師の端くれ。彼には私の弟子となってもらうとしよう。


◇◇◇


 女神教の教皇が孤児院を訪れた。


 女神教は……この内乱でグラシオン軍が領民を焚き付けるために推し進めている新興宗教だ。


 胡散臭い。だが……大所帯になってきた孤児院を経営していくには金が必要だ。私は教皇の誘いに乗ることにした。


 教皇は一から孤児院を作るよりもすでにある施設を女神教に吸収する方が楽だとでも思っているのだろう。全く持って鼻持ちならない考え方だが、背に腹は変えられない。


◇◇◇


 戦争は終わった。グラシオン領の独立は成った。


 我々の孤児院も、戦勝国の国教――そのお膝元に置かれる施設となり、この国、グラシオン王国が傾かぬ限り安泰であると知った。子供たちもこれで安心して暮らせるだろう。


 信者獲得に一役買った私は教皇の下に付き、引き続き教会の権力拡大のために尽力することになった。これも子供達のため。女神の神託を受け、それをつつがなく遂行することが私の役目だ。


◇◇◇


 問題が起こった。


 "呪い"だ。戦火によって多くの命が失われたこの土地に、呪いが発現したのだ。

 呪いは幼い子供を蝕む。孤児院でも呪いを発症した子が出た。


 教皇は戦時中、異常なまでの信仰への執着から、聖職者の極致である"悟り"のスキルを手に入れているらしい。その力があれば呪いも鎮めることができるに違いない。


 だが、あろうことか教皇はその力をお布施集めに使っている。


 呪いを発症した子供を持つ貴族が教会に押し寄せていた。


 "奇跡の治療"が貴族の信仰と莫大なお布施を集めるのに有効だと気づいたのか、これまで散々信者集めに利用していた孤児院のことを無視するような言動が目立つ。


 このままでは子供達の命が危ない。


◇◇◇


 頼れるのは、癪だが女神しかいないと思った。


 私は女神に祈った。


 与えられたのは、教皇と同じ"悟り"のスキル。


 しかしその力の代償として私に課されたのは以前よりも厳格な神託の遂行。


 本来、政治や軍事に口出しが認められていない教会の権力を増加させるために、私は全力を尽くさなければならなくなった。


 表向きの“孤児院を経営する信心深き老人”としての顔を捨て、王都の裏で教会魔術派を立ち上げ、女神教の信仰を王国運営にまで浸透させるべく立ち回らねば。


◇◇◇


 今朝、新たな神託が降った。


 "隣国、アスレイド聖統国の転生勇者を殺せ"


 勇者を殺すには勇者しかいない。


 今この国にいる勇者候補は、剣術派筆頭の騎士団長だけ。


 上手くやらなくては。


◇◇◇


 イシュルドが更迭されたと聞いた。


 魔術派拡大のため騎士団に送り込んで久しい。


 立派に第三隊隊長まで上り詰めた我が子は王都の南の果て、大森林との国境沿いに送られたそうだ。


 一体何があったのだ。


 権限を超えた行動で市民を脅かしたと聞いたが、イシュルドはそのように短絡的な男ではない。


 手柄を焦ったのか?馬鹿なことを。この老体のことなど気にせず立派に働けばそれで良いとどれだけ言っても聞かなかった。そのことが裏目に出てしまったのか?


◇◇◇


 何かがおかしい。


 女神の神託の内容が不安定になり始めた。


 ことの発端は、"筋肉の賢者"というふざけた称号を持つ男を殺すように指示する神託が降りたことだ。


 一度奴を取り逃した後に神託は取り下げられた。今までこのような形で信託が消滅することなど無かった。


 何かが起こっている。

 

 イシュルドの一件にもこの男が絡んでいるようだ。


 女神は何かに焦っている。


 転生勇者を殺す神託も長い間放置されている。


 どうにかしなくてはならない。


◇◇◇


 私は、失敗したようだ。


 筋肉の賢者が連れていた勇者候補を教会派閥に取り込むところまでは良かった。


 ドラゴンに魔装具を取り付け、転生勇者を呼び寄せる。そこに賢者と勇者をぶつけ、転生勇者を殺せば神託は成る。


 だが、そう簡単にはいかなかった。私はあの男を見誤っていた。


 騎士団もドラゴン調査に向かっていた。剣術派に手柄を横取りされれば女神の怒りを買いかねない。


 そこで私は王都からグレイストン村の間にある村に盗賊やならずものを差し向けた。これで騎士団のほとんどは足止めとなるはずだ。だがそれが、結果的に悪手だった。


 転生勇者は生還。剣術派筆頭の騎士団長は英雄として凱旋。賢者は"龍の加護"を受けますます女神への信仰を脅かす存在になった。


 女神は私に最後通牒を神託として与えた。



 「――――まで"悟り”スキルは没収」



 最悪の事態だ。このままでは我が子たちは呪いで死ぬ。


 教皇は全く意に介する様子がない。


 時間がない。最早失敗は許されない。


 これが最後のチャンスだ。

 


 ◇◇◇

 

 私は日記を閉じる。これは……意図的に“何かが起こった日”のページだけ残された日記だ。それに、最後のページの一部は破られている。


「賢者様……ザハじいは、私たちを見捨てちゃったの?ザハじいは悪い人なの?」


 ヴェルカは切実な様子で言う。


 ――どう説明したらいい。


 今、王都で何が起こっているんだ。


 外は陽が落ち始めた。いつの間にか雨が降り始めている。


 龍里嶽のドラゴン事件、そしてリューネ村の騒ぎはザハリエルの仕業で確定だ。


 あの老人は孤児院にいるこの子たちを守る力を女神から受け取る代わりに、あの、大勢が傷つき、亡くなったリューネ村への襲撃を……?


 それもこれも、あの教皇が貴族の信仰のためだけに孤児院を軽視しなければ……。


 女神が自分の信仰のためにめちゃくちゃしなければ……。


 ヴェルカは今にも泣き出しそうな目でこちらを見上げている。


「大丈夫だ……きっと、ザハリエルは帰ってくる」


 私はそう言いながらヴェルカを抱き抱える。何の根拠もない無責任な発言だ。


 それにあの老人が帰ってきたとして、今まで通りこの子達と暮らす未来はとうに潰えているのかもしれない。


 奴が“悟り”スキルを取り戻すために遂行しようとしている女神の神託が何かはわからなかった。だが、これ以上奴が子供達のために罪を重ねることを許すわけにはいかない。

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