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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第17章「王都大動乱」前編

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第76話「筋肉と未熟なシスター」

## 第76話「筋肉と未熟なシスター」


### 【あらすじ】


 以前から分かっていたことではあったが、教皇は直接的に教会の実益になること以外に興味はない。


 それは呪いにかかった子供を前にしても変わらなかった。


 教皇への説得を諦めクラリスを連れて孤児院へ戻るリネア。


 呪いが再発しているレクトを救うには、ザハリエルを見つけるか、クラリスによる回復の奇跡を完成させるしかない……!


### 【本文】


 リネアと二手に分かれてからしばらく経った。私は断続的に現れる黒いゴーレム達を投擲でぶち抜きまくっている。


「……これで五体目、か?」


「賢者様!次はあちらに一体出現しました!」


「分かりました!すぐ向かいます!」


 当然騎士団員たちも出張っており、“ゴーレムのコア破壊鑑賞ツアー”に合流してからは騎士団の情報でゴーレムを追跡し、倒す。そんなルーティーンを繰り返している。


 騎士団の誘導で民衆は“観客”のようになっており。私がゴーレムを撃ち抜くたびに歓声が上がっていた。


「本当に助かりました……団長は本部周辺、カイルさんは王城周りを守っていて、我々の持ち場である西側の防衛は我々だけでどうにかしなくてはいけない状況だったのですが……」


 正直なところ全く手応えがないのでこの黒ゴーレムがどの程度の強さなのかはわからないが、その口ぶりからそこそこの強さだということはわかる。


「気にしなくていいですよ。ただ石投げてるだけなので。行きますよ……フンッ!!!」


 私は視界に入った黒ゴーレムのコアを投擲で再び打ち抜く。


「いや……あ、アハハ。そうですね」


 騎士団員はドン引きしながらそう言う。


「……何よこれ、どういう状況?」


「賢者様……流石の手腕にございます」


 そんな様子を眺めながら登場したのはレクトを抱えたままのリネア――とクラリスだ。教皇との話がついたのか……と思ったが、どうやら状況は芳しくないようだ。


「レクトの呪いは?」


「話は後。アンタが言ってた孤児院の祭壇、案内しなさい」


 リネアは強引にこの場を去るように促す。幸いゴーレムの姿は見えなくなってきた。騎士団の話ではカイルがこちらに向かっているとのことだったのでここは任せても大丈夫だろう。


「け、賢者様!?撃破したゴーレムの魔水晶は……!?」


「あ、ああ……そうですね、適当に騎士団で処理しておいてください!」


「えっ!?そ、そんなよろしいのですか?」


そう言い残すと、我々は孤児院へと向かった。


◇◇◇


「クラリス、行けそうか?」


「はい……この祭壇は、おそらくザハリエル様がお作りになられた神聖契約魔術に特化したものです。レクト様をこちらに」


 孤児院の地下、簡素な作りのその祭壇は子供達の"呪い"に対処するために作られたのだろう。


 リネアから大聖堂で教皇が話したことを聞いた。想像以上に、あの男は教会の益にならないことをとことん切り捨てられるらしい。


 そして呪いに対抗して契約を交わせるのは“神聖契約魔術”。魔力のない私にはそれが使えない。それが示すのは、今呪いを発症した子供たちを救えるのは教皇と行方がわからないザハリエルだけということ。


 教皇による“奇跡の治療”の金額ははっきり言って法外な値段だった。貴族が一家の財力を惜しみなく投じてやっとという金額。どう稼ごうとしてもレクトの治療に間に合わにない。


 そんなことを考えながらクラリスの指示でレクトを寝かせると、クラリスは両手を掲げ神聖契約魔術を発動するために目を閉じる。この状況を変えるには、クラリスが教皇とザハリエルに並んで“悟り”スキルと“神聖契約魔術”を使えるようになるしかない。


 そういえば……魔術にもスキルと一緒でレベルの概念があったよな。クラリスの神聖契約魔術が"呪い"に対して成功したことがないのがレベルによるものなら……。


「……っ!!」


 そう思った矢先、レクトの体にかざしたクラリスの手から赤黒い光――いや、電撃のような閃光が走る。


「お、おい!?大丈夫か!」


「は、はい……!呪いに拒まれて……」


 "マッスルメモリー”と”賢者の合トレ"のスキルは強力だが、立ち所にレベルをどうこうできるものじゃない。繰り返しの訓練が前提のスキルだ。


 通るようになるまでひたすら繰り返すと言う手もあるが……。


 クラリスは呪いに拒まれた反動のせいか、手を痛々しく抑えている。


(回数はできない。それに魔力の消費も激しそうだ。他にクラリスの能力を短時間で上げる方法は……)


(……そうだ――この方法なら、行けるか……?確信はないが……)


 私はクラリスに近づき、後ろから彼女の両肩に手を乗せる。


「け、賢者様?」


「クラリス……もう一回、できるか?」


「は、はい!何とか……!」


「よし。じゃ、目を瞑ってくれ」


 クラリスはゆっくりと目を閉じる。私はそのままクラリスに語りかける。


「いいか……今クラリスは森の中にいる。想像してみてくれ」


「は、はい……?わかりました……」


「そこには、女神教の教会から略奪した積荷を満載した馬車を引く盗賊がいる。リューネ村のことを思い出すんだ……」


 そう言うと、わずかにクラリスの肩が動く。


「そこには呪いにかかった子供も拐われていた。女神教の名にかけて、クラリスはその子を助けなくては行けない」


 クラリスの体温が上がるのを感じる。そうだ、いいぞ……あの時の彼女の"断罪モード"と言うべき状態なら……!


「盗賊たちは逃げ始めた。だが、追うにはまずこの子を救わなくては。クラリス……!」


 再び彼女の手に聖なる光が灯る。小刻みに震えているクラリスの肩に乗せた手に力が入る。


(大丈夫だ……!クラリスならきっとできる……!)


 その光は次第に強さを増し、そして――


◇◇◇


 治療はなんとかうまくいったようだった。


 クラリスを“断罪モード”にすることで能力を底上げし、神聖契約魔術を成功させようという狙いは良かったようだ。


 レクトを祭壇からベッドに移動させると、その後すぐにレクトは目覚めた。


「あれ……?俺、どうなって……?」


 目覚めると、レクトは我々を見て言った。


「ザハじぃじゃない……?お姉ちゃんたち、誰?」


 状況を飲み込めないレクトに、クラリスは優しく呪いの一時的な治療に成功したことを説明した。


「そっか……ザハじぃはまだ帰ってないんだ……ヴェルカは?」


 ヴェルカ……私にレクトの治療を頼んだ子か。


「外にいます。彼女が君を助けて欲しいと私に」


「そっか……悪いことしたな」


 そういうレクトは起きあがろうとするが、まだ体がうまく動かない様子だ。


「申し訳ありません……一時的に呪いを封じ込めることは叶いましたが、かなり限定的な治療にとどまっております」


 クラリスはそう言いながら祈るように頭を下げる。


「私が皆さんを呼んできます。ひとまずはここで休んでください」


 そう言うと、私はレクトの回復を待っていたヴェルカを呼びに行った。


◇◇◇


「レクトっ……!」


 外で待っていたヴェルカは目を覚ましたレクトを見ると、ベッドに駆け寄った。


「……ここは私が見てるから。アンタたちはこの後どうするか話し合ったら?」


 同じく外で待機していたリネアはその様子を見ながら言う。


「見た感じ、またいつ再発してもおかしくないんでしょ?やっぱりザハリエルを見つけないとまずいんじゃないかしら」


「ああ……そうかもな」


「それに、この子達に聞かれていい話じゃないでしょ」


 孤児院の子供達はザハリエルが私たちを呼んだと思っている。事実と異なることが知れれば、いたずらに不安を煽るだけだ。


「そうだな。すまん、ここは頼む」


 そう言うと、クラリスと私は部屋を後にした。


◇◇◇


 部屋を変えた我々は、状況を整理するために互いの情報を交換し合う。


「つまり……クラリスは孤児院の状況を知らなかったと」


「はい……まさか父上が、呪いにかかった子供達にあんな……」


 リネアによれば教皇は呪いに苦しむレクトを見ても治療する気は全くなかったらしい。その姿を見たクラリスはショックを受けたようだ。


 正直……かける言葉が見つからない。


「賢者様、先ほどはありがとうございました」


「えっ……?あ、ああ」


「父に一矢報いることができました」


「そうだな……って、はい??」


 クラリスをよく見ると、まだ目が紅くなっているままだ。これは彼女が"断罪モード"の時の特徴。


「ちょちょ!あれ?おかしいな……」


 クラリスはジリジリとこちらに近づきながら獲物を狙うような目でこちらを見る。


「父の行いは女神様の教えに背く蛮行。その目論見を破るには賢者様のご助力が必要でした」


 そ、そうなのか?そもそも女神教の教えを詳しく知らんから教皇のスタンスがどう扱われるか知らないが……!


「女神教の教えを今、最も厳格に実行されているのは賢者様です。私が真に仕えるべきは父ではなく……」


 やばいな。このままだと教会勢力をかき乱す親子喧嘩が始まってしまいそうだ。どうにかしてクラリスを冷静な状態に戻さなければ!


「クラリス……!一旦冷静に……!」


 私は再びクラリスの両肩を掴む。


「……賢者様」


 そう言うとクラリスは凄まじい力で私の腕を掴み返して引っ張った。


「うおっ……!?」


 そうだ、この状態のクラリスはものすごい怪力だった――そう思った途端、クラリスの体から力が抜ける。


 抵抗しようとして踏ん張った私の体がクラリスの体を抱きとめる。


「な、何だ……?」


 クラリス……これは、眠っている……?


「さっきの神聖契約で力を使い果たしたのか……?」


 そう思った直後――


「ユージ!!また王都にモンスターが――」


 部屋に飛び込んできたリネア。我々の姿をしばらく観察すると、慌てていた様子が嘘のように冷静になった。


「アンタ、マジでいい加減にしたほうがいいと思うわ。いちゃついてる場合じゃないのわかるでしょ?普通に」


「いや、誤解だ――」


 私は強引にクラリスを抱きとめたような体勢。まぁ、この状態を見られたらそう思われても……。


「いいわ。私とルノアで行くから」


 誤解は解けぬまま、リネアは行ってしまった……。


 孤児院の子供達の呪い、ザハリエルの失踪、王都に出没するモンスター……それにリネアの誤解も……。


 問題は山積みだ。

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