第74話「筋肉とゴーレムと呪い」
## 第74話「筋肉とゴーレムと呪い」
### 【あらすじ】
ザハリエルの失踪で、孤児院は孤立無縁状態だった。
“呪い"にかかった子供達は“悟り"スキルにより定期的な治療が必要とされている。
すでに一人の男の子は呪いが再発している。
急げ!ユージ!
### 【本文】
ヴェルカに案内された孤児院地下の祭壇は簡素なものだった。
周囲を探しても契約魔術に使えそうな道具は見当たらない。
「ヴェルカ、いつもはどうやって呪いを治してるんだ?」
「わ、わかりません……でも、“神聖契約魔術”だってザハじぃは言ってたと思います」
ま、魔術か……魔力がない私には苦手分野だ。もし仮にここにその方法があるのだとしても、私に使えないなら仕方がない。私ではこの場所で“悟り"を発動させることは不可能だ。
他に王都で私が契約を成立させることができるとわかっているのは騎士団の施設。しかし、ここからはかなり距離がある。
まずは大聖堂に行って方法がないか聞くのが最善だ。流石の教皇もこの状態の子供を見過ごすような真似はしないだろう。
◇◇◇
再発した呪いに苦しむレクトを抱えて王都を全力で移動する。
子供の命がかかっているのだ。筋肉がどうとか言っていられるわけもないので全力ダッシュだ。
孤児院のことはリネアと、子供たちのリーダー的存在であるらしいヴェルカに任せた。ルノアとノエラも合流するらしい。それなら安心だ。
――だが……なんだ?この腹の奥底にどっしりくる違和感は……?
何かが追ってくるような圧迫感を感じる――
そう思った瞬間。ものすごい地響きと共に“何か"が姿を現す。
「な、なんだ……!?」
建物が音を立てて崩れる。そこから立ち上った砂煙が――
「おいおい!冗談だろ!急いでるってのに!」
砂煙が晴れるにつれてその姿をあらわにする巨体。
一体どこから現れたんだ!?まるで“突然降って湧いた"かのような……!
「――ゴーレム……か?」
視界を覆っていた砂煙の向こう。
それは人の形を模した、あまりにも巨大な石の塊だった。
全身は黒ずんだ岩石で構成されており、胸部の中心には、淡く光る核のようなものが埋め込まれている
ズシン――と一歩、踏み出す。周囲に振動が伝わる。
「王都のど真ん中に出てきて良いサイズじゃ無くないか……!?」
二階建ての建物をゆうに超えるサイズ感。――デカい!
辺りを見回すと人々はパニック状態で逃げ惑っている。このままでは被害が拡大する一方だ。
「ク、クソッ……!やるしかないのか!?」
正直、すぐにでも大聖堂に向かいたいが、この騒ぎを放置して行くのは――
「ちょっと……!これどういう状況なわけ?」
切羽詰まった私を救うように現れたのは――
「リネア!ちょ、ちょうど良いところに……だが孤児院は――」
「ノエラとルノアに任せたのよ。アンタだけじゃなんか不安だったから……ま、予想どおり大変なことになってるわね」
こういう機転はリネアの特権だな……と思いつつ、この状況をどうするか考える。
「黒い岩石のゴーレム……多分上位種よ。胸部のコアを破壊すれば倒せるのは普通のゴーレムと変わらないと思うけど……かなり硬いとおもうわ」
「なるほど、やっぱりあのコアみたいなやつが弱点なんだな」
私はそう言うと抱えたレクトをリネアに預ける。
「な、何?流石のアンタでもこの距離からどうこうできる相手じゃないと思うけど」
心配そうなリネアをよそに近くに転がっていた石を拾い上げ、全力の投擲を行う。
「フンっ!!!」
私の予想通り、石は人智を超えた速度で発射され、ゴーレムのコアに飛んで行く。
ピヒュン――
ゴルフクラブを全力で振り抜いたような音がする。
「あ、あれ?どうなったんだ」
「……私に聞かないでよ」
リネアはドン引きした様子で言う。
ゴーレムは微動だにしない。そして程なくして塵となって消えた。
「……あれ、多分相当強いモンスターだと思うんだけど。下手したらAランク級よ」
リネアは言う。逃げ惑っていた人たちも、ゴーレムが消えていく様子を見てなんとなくこっちに寄ってきた。
――安全地帯じゃないぞ私は。
そんなことを思ったが、残念ながら安心する間も無く、先ほどと同じような振動が地面から伝わる。しかも……厄介なことに複数体いるようだ。
「マジかよ……今のが何体もいるのか?王都だろ、ここ」
「……言ってる場合じゃないでしょ」
リネアがレクトを抱えながら辺りを見回す。
「私がこの子を大聖堂まで連れて行くから、アンタがあのゴーレムたちをなんとかしなさい」
「……それが一番確実、か」
リネアは確かにものすごい実力をつけているが、複数体のゴーレムを一体ずつ相手にするのは時間がかかるだろう。今は遠距離で一撃の私が残るのが最適か。
「教皇も"悟り”スキルが使えるらしい。説得するのは骨が折れるかもしれないが……レクトを頼む」
「……とっとと終わらせてアンタも来なさいよ」
「ああ」
そう言うと、リネアはレクトを抱えたままものすごいスピードで去って行った
◇◇◇
「とはいったものの。だな」
ゴーレムが複数出てきたことで市民は再びパニックに――と思ったが、なぜか私の周辺に続々と集まってきている。
「賢者様!王都をお救いください!!」
一人の男が叫ぶ。それに同調するようにして民衆は助けを求めるように懇願する様子を見せた。
「わ、わかってます!大丈夫ですよ!私がなんとかしますから!」
そしてなぜか続々と集まってきている手頃な石ころたち。
その一つを手にとり、近くにいた人たちに下がるようお願いする。
そして最も接近してきているゴーレムのコアに狙いを定める。
「フンっ!!!」
踏み込み、腰から入れて、旋回運動を腕を通して最大限伝える。
筋肉が躍動するのを感じながら……って――だいぶ“投擲”も板についてきたな。
ピヒュン――
先ほどと同じように、石がゴーレムのコアを撃ち抜く。ゴーレムは動きを止めると、程なくして塵となって消えた。
――おぉ〜〜!!
歓声が上がる。な、なんか気が抜けるな……。
い、いやいや!これは紛れも無い人命救助。引き続きこっちに接近してくる個体から順番に倒していくぞ!
そうして、私はしばらく“ゴーレムのコア破壊鑑賞ツアー”と化した民衆と一緒にゴーレムを倒して回った。
(こっちは大丈夫そうだ……リネアもうまくやっているといいが……)
◇◇◇◇◇◇
――大聖堂。
先ほどのゴーレム事件で王都は大騒ぎだと言うのに、ここは呑気なものだ。きっと騎士団はゴーレムの対応に追われていることだろう。
「ま、アイツがいるからモンスター自体はなんてことないと思うけど、騎士団は後処理で大変でしょうね」
そんなことを呟きながら教皇を探す。
教会によって勇者となることを宣言された私ならズカズカと入り込めるのは便利ね……。
「勇者様」
大聖堂を探していると、声をかけてきたのはクラリスだった。
「てっきり王都の騒ぎに加勢されているものかと……」
「――アンタ、ほんと教会にいる時はそんな感じのキャラなのね」
「……そのことはあまりここでは」
「そう。悪かったわね。モンスター騒ぎはユージに任せてるから問題ないわ」
「では……ここにはその子を……?」
クラリスは私が抱えているレクトを見る。
「この子は……一体どうしたのですか?」
クラリスは驚いて――いや、怒っている?どうあれ、"呪い"のことは知っていそうだ。
「アンタらが管理している孤児院の子よ」
「孤児院……?そんな、まさか」
この様子だと孤児院の状況は知らないようね。
「良いから教皇を出しなさい。あまり時間ないわよ」
「わ、わかりました。こちらへ」
◇◇◇
「勇者リネアよ……いくらお主の願いとあってもできることとできないことがあるでな」
「……は?」
クラリスに案内された豪華な部屋に教皇はいた。
私が抱えているレクトを見るや否や、教皇は"厄介そう"な顔をしてそう言った。思わずキレ気味に返してしまう。
「お父様!この子は"呪い"で苦しんでいます!我が教会の孤児院にいながらどうして――」
「クラリス。我が娘よ」
クラリスの言葉を遮るように教皇がピシャリと言い放つ。
部屋に広がる沈黙。
――これで確定ね。
教皇は孤児院の状況を知っていながら"何もしていなかった"のだ。理由は想像したくもないけど、とにかくこの男を説得しなければ、この子の命が危ない。
私、交渉とか苦手なんだけど……ま、アイツに任せるよりはマシかしら……?
……私に任せてね。必ず、助けてあげるから。
毎日20:00更新中!ブックマーク・評価いただけると励みになります!




