第73話「筋肉と孤児院」
## 第73話「筋肉と孤児院」
### 【あらすじ】
大聖堂へと赴いたユージ。教皇は王国の特務戦力となったユージを自由に使えなくなったことを嘆いていた。
しかし、ユージのおかげで信者やお布施が集まっているのは事実。その点はしっかり評価してくれているようだ。
そして教会で意味不明な流行り方をしている懸垂。
ワークアウト後、エドガルドに新作をオーダーしたついでに孤児院を気にかけて欲しいと頼まれる。
孤児院に向かったユージだったが……。
### 【本文】
大聖堂から西にやや離れたところにある、王都の外縁に位置する孤児院。王都の喧騒とは一線を画すその場所には、総勢十数名の子どもたちが暮らしていた。
「あ〜!けんじゃさまだ!」
孤児院を訪れると、すぐに何人かの子供が寄って来た。
建物の前には、土を踏み固めただけの空き地が広がっている。子供たちはそこで石を並べたり、地面に線を引いたりして遊んでいたようだ。
クラリスの講義を聞いていた子の姿も見える。
その様子を見て思う。
――正直なところ、かなり危うい様子じゃないか。これ……。
孤児院の入口の上に掲げられた教会の紋章は、この場所が教会の管理下に置かれていることを表している。
しかしその紋章は、この孤児院が信仰の名の下に守られているというより、ただ“そういうことになっている”ことだけを示しているように見えた。
話ではこの孤児院はザハリエルが管理している。しかし今、当の本人はリューネ村襲撃やドラゴン事件の容疑がかかり失踪している。
敷地を囲む柵は、腰の高さほどの粗末な木組み。
筋肉関係なしに力を込めれば折れそうなほど頼りなく、外敵を防ぐためのものというより、ただ境界を示すだけの飾りに近い感じだ。
子供達は大きい子でもルノアと同じかそれ以下の歳の子しか見当たらない。王都の中とはいえ、夜は油断ならない雰囲気の場所も多い。とりわけこの場所は大広間など人が多いエリアからかなり離れている。
そんなところで子供達だけで自活できるのか……?
「……賢者さま」
そんなことを考えていたら、服の袖を引かれる。少女がこちらを見上げていた。
その目には不安――いや、"どうしたらいいかわからない“と言ったところだろうか。そんな表情。
私はしゃがんでその少女と目線を合わせる。
「賢者様は、教会の人……ですよね?」
「はい……いや、どうでしょうか……」
私は考える。
今私が置かれている複雑な状況をこの子に説明してわかってもらえるだろうか?というより、私自身うまく説明できる自信が全くない。
「ち、違うんですか……?」
少女は不安そうだ。
状況を察するに、この子達は保護者であるザハリエルの姿が見えず心細いはずだ。教会関係者が来たとわかれば多少は安心できるだろうか。
◇◇◇
「……なんかすごいことになってるわね」
一時間ほど経っただろうか。
子供達には私が教会の人間だと伝えた。するとあれよあれよと「ザハリエルが賢者様を連れてきた」と拡大解釈が広がり、すっかり遊び相手として捕まってしまった。
その後、後で顔を出すと言っていたリネアが合流し、私たちを見てそう言ったのだ。
「リネア――!」
私は助けを請うようにリネアを呼ぶ。
「わぁ〜!勇者様もきたの!?」「すごーい!」「剣見せて〜!」
子供達はその私の言葉を聞いてすぐ興味を移したようで、リネアに駆け寄っていく。
「ふぅ……助かった」
「アンタね……まぁいいわ。でも、その子はアンタに用があるみたいよ」
傍には、先ほど声をかけてきた少女が依然その不安そうな目でこちらを見ていた。
なんか、ノエラと初めて会った時のことを思い出すな。とにかく、話を聞かないことには始まらないか……。
「大丈夫。私はみなさんの味方ですから。なんでも話してください」
「……!じゃあ……」
少女は少しだけ安堵したような表情を見せると、私を孤児院の中へと案内した。
◇◇◇
「これは、何というか……ひどいな」
外見を見た時から予想はしていたが、その二階建て木造の孤児院の中はボロボロだった。
床板は軋み、壁はところどころ剥がれている。そして子どもたちがやったのだろう、所々ボロ板で補修されたような箇所がある。
女神教の教皇という人間のことを考えれば不思議なことではない。教皇は実益に直結しないことはとことん削る。
大聖堂ですら、信者から見えないところはお粗末なものだった。そういう男だ。奴は。
ザハリエルのことも……裏で動いているその働きを進んで評価しようとはしていなかった。この孤児院は気にも止めていないのだろう。
◇◇◇
少女に案内されたのは二階の寝室だった。
「お、おい……!大丈夫か!?」
そこには幼い男の子が寝ていた。明らかに普通ではない状態なのが一目見てわかる。
おそらくこの子を助けてほしいと私をここに連れてきたのだろう。“女神の奇跡"の力が使える私を――。
(ザハリエルの奴は一体何してんだ……?あの老人も“悟り“スキルが使えるはず……こんな状態の子を放置して、いくら騎士団に追われているとはいえ無責任が過ぎるだろ……!)
「賢者さま……レクトを助けてあげて……!」
レクト……この子の名前か。だがどう考えてもこの孤児院では“悟り“を発動させられるような契約方法は望めそうにもない。
「えっと……君の名前は……」
「……ヴェルカです」
「そうか……ヴェルカ、ザハリエルはこういう時どうしてるんだ?」
「ザハじぃは……いつも、地下の祭壇で治してくれます。私たちのこれは“呪い“だから……」
「の、呪い……?」
この世界に来てから初めて聞く単語だ。様子がおかしく感じたのはただの病気ではなかったからか。
それにしても“ザハじぃ“って……案外あの老人は子どもたちに好かれるタイプなのか。
「そ、そんなこと考えてる場合じゃないか……って“いつも"?この呪いは過去にも……?」
「……はい。私も、みんな"呪い"にかかっています……。だから、ザハじぃの治療を受けないとこうなってしまうんです」
……思ったよりやばい状況だな。"悟り"スキルでも完全には治らないってことか?
「とにかく祭壇に急ごう。ヴェルカ、案内頼めるか?」
「……はい!」
この子にどのくらい時間が残っているか分からない。それに、またいつ他の子の呪いが再発するか分からない状況だ。
――急がなくては!
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