第70話「迷探偵筋肉」
## 第70話「迷探偵筋肉」
### 【あらすじ】
ギルデスに頼んでいた筋トレ器具を王都に運び込んだユージ。トレヴィルの四人と“伝説の勇者パーティー”の関係についての疑惑が大きくなる中、当人であるギルデスはそれを強く否定し、真実は依然として霧の中にあった。
一方その頃――王都では、あり得ないはずの“異変”が広がり始めていた。
突如出現したモンスターが市民を襲撃。
王都に侵入経路のないはずの存在に、騎士団は困惑し、事態は急速に不穏さを増していく。
### 【本文】
「……重量をコントロールする魔術ですか?」
翌日。私はノエラに魔術について色々聞いていた。
昨日のワークアウト、やはりダンベルが二十五キロまでしかないので胸や背中の種目をやるにはイマイチ重量が足りないのだ。
「そうですね……。面白い発想だとは思いますけど、私の知識ではそのような魔術はないですね」
「そうか……」
「そんな、露骨に残念がらないでくださいよ〜」
トレヴィルを出た直後に比べて、ノエラはもうすっかり打ち解けてくれたみたいで安心する。
「魔術にも当然できる事とできない事はあるよな」
「はい。物体の重量は変えられないですが、物体にかかる重力をコントロールする“グラビティ“って魔術ならあるんですが――」
「なにっ!?」
私はものすごい食いつきでノエラに接近する。
「わわっ!?な、何ですかユージさん!?近いですっ!」
「あ、ああ!すまん!もしかしたらその“グラビティ"はワークアウトに最適な魔術かもしれん」
「え〜っと、要はそのダンベル?を重たくしたいって事ですよね?」
「そうだな。なるべく均等に重量がコントロールできると嬉しい」
「なるほど……わかりました。ちょっと勉強してみますね」
「おお!ありがとう!楽しみにしてるな!」
ノエラは若干引きながら優しく頷いた。近々何かお礼しないとな。
「――で、もう一個聞きたいんだけどいいか?」
「は、はい。私でわかる事なら」
「ザハリエルに襲われた時、王都の人たちを広場から遠ざけた魔術、あったよな」
「は、はい。かなり高度な範囲魔術です。普通の魔術師にはまず使えない大技ですが……」
「似た感じでさ、特定の地域とか、何なら国を対象に“ある出来事やそれに関わった人の記憶を改竄する魔術“って聞いたらどう思う?」
「えっ……?も、もう一回言ってもらっていいですか?」
まぁ、そうなるよな……我ながら妙なことを言っている自覚はある。
しかし、伝説の勇者パーティーに関する記録は何らかの形で事実が隠匿されているというのが今の私の予想だ。
この異世界の世界観にかかれば、そう言ったこともあるいは、と思ったのだが……。
◇◇◇
「……ということで、そういった不特定多数に恒常的な認識阻害をかけることは事実上不可能。ということになります」
ノエラの魔術講義は大変わかりやすくまとめられていた。実家を出る前に勉強したと言っていたが、かなり高い水準だったみたいだな。
――その熱量で攻撃魔術も……いや、それが彼女のいいところだ。他者を守る防御、強化魔術のスペシャリスト。それがノエラだ。
「……説明、わかりにくかったですか?」
無言で彼女の顔を見る私に、ノエラは心配そうにそう言った。
「い、いや!すごくわかりやすかったぞ。おかげで可能性の一つを消すことができた」
「それってユージさんの筋トレ器具を持ってきてくれたギルデスさんのことですか?」
リネアから聞いたのだろうか。私は伝説の勇者パーティーと私たちの出会いの町にいた四人のことを話す。
「それは……どうなんですかね?偶然って事はもう考えられないんですよね?」
「あぁ。ほぼその線はないと思ってる。」
初めてガルデンとセリオに会ったのはホブゴブリンの魔水晶を買い取ってもらう時。
筋トレ器具を作るのを何の見返りもなく手伝ってくれた冒険者ギルド。それに、一度破壊された後も無償で追加の資材をくれた。
そしてそれで割を食ったのはイシュルドという騎士団の男。
いつの間にか広まっていた“筋肉の賢者“の噂。そして私は王都にいくことになり……。
「全部、仕組まれていたなんてことはない……よな?」
「えっ?何ですか?」
「いや、何でもない」
やはりこの件は、もう少し調べてみる必要がありそうだ。
ここは異世界。言ってしまえばファンタジーの世界だ。そこまでの能力を持っていてもおかしくない存在がいるとしたら。
グラシオン王国独立の功労者たちを存在ごと過去の遺物にする真っ当な理由があるのは――
◇◇◇
「嬉しいな。君の方から会いにきてくれるとは」
騎士団本部。私は団長リディアを訪問した。
「妙な言い方するなよ……。今日は聞きたいことがあってきたんだが――」
私は周囲を見回す。
「……何だか騒がしいな」
私の言葉に、リディアはわずかに眉を寄せ、肩越しに背後の喧騒へ視線を向けた。
「……昨晩からずっとこの調子だ。王都に“いてはならないもの”が出た」
「どういうことだ?“いてはならない“って……」
「モンスターだ」
そう短く、やれやれといった様子でいうリディアの横を、鎧の擦れる音と共に数名の騎士が駆け抜けていく。
彼らは互いに簡潔な指示を交わしながら、休む間もなく持ち場へと散っていった。
通された2階の大部屋には書類の山が乱雑に積まれている。
各所で報告が飛び交い、地図を広げて指示を出す者、伝令として走る者、疲労を押し殺して壁にもたれる者――その全てが、昨晩現れたという“モンスター"が随分と厄介な存在だったということを物語っている。
「第三区画、巡回班の交代完了しました!」
「よし。いいか、夜間警戒は倍にする予定だ。休めるやつは今のうちに休んどけよ!」
「すみません……! また苦情が来ています!『騎士団は何をしているのか』と――」
「……後回しにできるか?」
「無理です!相手は侯爵家です!」
一瞬、場の空気がさらに重く沈む。
リディアは小さく唸ると、目頭を抑えた。この様子だと、かなり長いことこんな感じなのだろう。
「……まったく、面倒なことこの上ないな」
「行かなくていいのか?」
「行ってやりたいのは山々なんだがな。あいにく私はここにいないことになっている。お貴族様の相手は部下に任せる他ない」
「それって……なんと言うか、ホントに大丈夫なのか?」
「大丈夫も何も、元より権力はあるが現場は知らぬ者たちだ。話を聞いてやる以外にできることはないだろう?」
そ、それは大丈夫といっていいのだろうか?何というか、やはりこの騎士団長、戦闘以外はなかなかに心配なところが――
「団長、全く大丈夫ではないです。貴族の反感を買えば立場が悪くなるのは我々なんですよ?」
「……マルティナか」
「お久しぶりですね、賢者様」
◇◇◇
「それで、わざわざ私のところに来た理由を聞いてなかったな」
マルティナは軽く挨拶をすると、苦情を入れに来た貴族たちの対応に階下へと行った。
いくら騎士団長付きとはいえメイドがどうにかできる問題なのか……?と思ったが、団長のためにお命覚悟の自爆攻撃を繰り出すあの人のことだ。きっとうまくやるのだろう。
「そうだそうだ。忘れるところだった。実は聞きたいことがあってだな――」
今、私が抱いている疑念と考えている可能性をリディアに話す。
「転生勇者……か。そういえば奴らのうちの一人が妙な言葉を言っていたな」
可能性があるとすれば、魔術の領域を超えた力が必要だ。心当たりがあるのは転生勇者ぐらいのものだ。
「チートスキル……?だったか。確かそんな類の言葉だ」
グッと内臓を持ち上げられたような嫌な感覚が来る。嫌な方向に予想が当たりそうだ。
「ちなみにどんな能力だったか、わかるか?」
「ああ。一人は回復のスキルだ。一瞬で完全に回復させたように見えた。あれは魔術ではなく奴のスキルだろう」
違う……回復のスキルは今回の一件とは完全に無関係だろう。
「もう一人は、剣に自身の生命力を吸わせる悍ましいスキルだった。龍神の介入がなければ私も今頃はどうなっていたかわからん」
これも違うな……戦闘力云々ではなく“存在ごと消す“みたいな能力でなくてはこの状況は作れないはずだ。
トレヴィルにいた四人は今も生きている。これもハズレだ。
龍里嶽でリディアが遭遇した転生勇者の二人では、今の状況を作り出すのは難しそうだ。
なかなかいい推理だとは思ったが見当違いだったか……?
◇◇◇
「結局進展はなし、か」
去り際にリディアはザハリエル卿の姿が見えないことを私に伝えた。
記憶に新しいグレイストンのドラゴン騒ぎの容疑者として、さらにはさっきのモンスター騒動も彼が容疑者として上がっているらしい。恐らく教会に顔がきく私を頼っての情報だろう。
「情報もらうだけもらって何もしないのは悪いよな……」
気は進まない。が、恩は返すべし。ルノアの手本となる行動を示すべきだよな。
私はその足で大聖堂へと向かうのだった。
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