第69話「王都に迫る影」
## 第69話「王都に迫る影」
### 【本文】
「副団長!ちょうど良かったです近くにいて!」
「……なんだ?そんなに慌てて」
夜の王都は、昼間とはまた違う顔を見せていた。
大通りには魔石の柔らかな光が連なり、石畳を黄金色に照らしている。
行き交う人々の足音と、酒場から漏れ聞こえる笑い声。
屋台では香ばしい肉の焼ける匂いが漂い、遅い時間だというのに人の流れは途切れない。
――これが王都の夜。
そんな王国の中心部を守るのは、王国騎士団。
「向こうで何人か襲われたみたいなんです。被害者は搬送しましたが、犯人が見つからなくて」
「王都で暴力沙汰とは大した度胸だな。その類の連中はリューネ村の件でだいぶ締められたと思ってたが」
「いや……それがどうも違うんです」
「……違う?」
「はい。搬送された怪我人の報告では、“噛まれた"と」
「……案内しろ。急ぐぞ」
◇◇◇
カイルは団員の案内で裏路地へと入る。
背後の王都の賑わいが遠ざかっていく。
大通りの光はここまで届かない。月明かりを頼りに事件のあった場所を目指す。
次第に湿った空気が肌にまとわりつき、生臭い水の匂いが鼻をつく。
路地は細く入り組み、人の気配はない。足音だけがやけに大きく響く。
「この先です……確か、このあたりと報告が」
団員が視線を向けた先。
積み上げられた木箱の陰。その暗がりの奥で、ぬるりと何かが蠢いた。
「……ッ、これは——!」
団員の男が剣を抜く。
――あれは人ではない。団員の男はそう確信する。
「そんなにビビんなよ?低ランクのただのグールだ」
「グ、グールですか!?どうして王都……それもこんな人がたくさんいる近くに!?」
(問題はそこだ。モンスターが自然に侵入できる経路なんざ存在しねぇ。誰かが意図的に持ち込んだか……?だが何のために?)
「まぁこれも経験だ。頑張れ。な?」
「は……はい!行くぞぉ!」
騎士団の男はグールに斬りかかる。
動きが遅く、獲物に噛み付く動きに気をつければ難しい相手ではなかったようだ。
「や、やりました!これで一件落着――」
直後、背後で人々の悲鳴が聞こえる。
「副団長!」
「チッ……!一体じゃねえのか!」
二人は大急ぎで来た道を戻る。裏路地を抜けると、すでに人々の賑わいはパニックへと姿を変えていた。
グールが大通りに跋扈している。先ほどは一体も見当たらなかったはずのグールの大群。
「おい!お前は避難誘導だ!俺はあの腐れグールどもをぶった斬ってくる!」
「はい!ご武運を!」
(何だってんだ!こんなこと、王都ができてから今の今まで聞いたことも――)
いざ、カイルがグールに攻撃を加えようとした瞬間。
ボトリ、ボトリ。
二体のグールの首が不自然に落下した。
「な、なんだ……!?」
それはまるで、最初から繋がっていなかったかのような綺麗な断面を曝け出している
「よ、よくわからねえが敵が減ったのは喜ぶべきだな!」
カイルは気を取り直して攻撃を開始する。
一体、二体と豪快に切り伏せるたび、またボトリと別のグールの首が落ちる。
「全く!気味が悪いったらありゃしないぜ!」
謎の加勢の助けもあり、グールの群れは数分で片付いた。
◇◇◇
「副団長!お疲れ様でした。さすがの闘いっぷりですね。おかげでこちらの被害は出ませんでした」
「ああ……だがなぁ……」
カイルが一つの魔水晶を拾い上げる。
「き、綺麗な魔水晶ですね。ここまで形が良いのは珍しいです」
「だな。俺みてぇなガサツな斬り方じゃこうはならん」
「じゃあこれは……?」
(心当たりがあるとすれば団長だが、斬った姿すら見えなかった。そんなことができんのは――)
「ん、ルノア、おてがら」
「「うわっ!?」」
同じようにして驚く騎士団の男とカイル。
「ル、ルノアちゃんかぁ……!俺はてっきりハンクの爺さんが現れたのかと」
「ししょーのししょー、わるいひとだったってきいた」
「あ、ああ。そうだな」
「ルノア、わるいひとじゃない」
「……!ああ。そうだな」
(この子はこの子なりに闇の盗賊団と関係がある自分のスキルに負い目感じてんのか?)
「す、すごい……。筋肉の賢者様のお仲間、“夜葬姫“のルノアさん。ですよね」
「ん、ルノア、ひとびとをまもる」
「まぁ助かったは助かった。ユージのやつは元気にしてるか?」
「とってもげんき。まいにちきんとれ。ルノアもいっしょ」
「相変わらずだな……」
(こりゃあ、明日から忙しくなるな。とりあえずこいつらがどうやってここまで入り込んだのか調べねえと)
王都に入りこむモンスター。
動き始める新たな騒動の予感を、それぞれが感じ取り始めた。
それは王都を巻き込む大動乱か、それとも――。
◇◇◇
「……“門”は正しく動作しているようですね」
裏路地に覗く影。老人は誰に聞かせるでもなく呟くと、再び闇に消えた。
毎日20:00更新中!ブックマーク・評価いただけると励みになります!




