第67話「筋肉とある疑惑」
## 第67話「筋肉とある疑惑」
### 【あらすじ】
クラリスの講義をきっかけに、ユージは王国独立の歴史に違和感を抱く。伝説の勇者パーティーの構成と、トレヴィルで出会った人物たち(1〜10話参照)が奇妙に重なり始めたのだ。
さらにリネアの過去から語られる奴隷商グラートの実態――。
異質な善性と不自然な資金源が、新たな疑念を呼び起こす。
点と点が繋がった時、ユージは確信する。
王国の“伝説”と現在は、未だ見えぬ糸で結ばれている――。
### 【本文】
「おう!兄ちゃんもリネアの嬢ちゃんも。久しぶりだなぁ」
我々の新たな拠点、旧迎賓館の門の前に馬車を停めていたのは、トレヴィルの町で工房を営んでいるギルデス。
元はといえば、彼のところで筋トレ器具を作り始めたのが全ての始まり。だったと思う。
「よっしゃ。じゃあいっちょやるか」
ギルデスはそう言うと、馬車の荷台へと回る。
「こいつが兄ちゃんの特注品、通称"賢者の椅子"だ!」
「こ、これは……!」
驚くべきことに、それは仕様通りの見事なインクライン・ベンチだった。
「ご要望通り多段階で角度が調節可能!座面は連動しちまうってのも不便かと思って別個で角度調節できるようにしてみたがどうだ?」
「なるほど。ライ◯・フィットネスじゃなくてプ◯コー仕様にしてきたか!いいな!」
「ラ、らい……何だって?」
「あぁいや、こっちの話だ」
しかし何度見ても見事な仕事だ。だがもう驚きはしない。なぜなら――
「あ、あの、ギルデスさん?」
「ん?どっかまずかったか?」
「いえ、そういうわけでは」
「そうか。じゃ、なんだ?」
「えーっとですね。違ったらごめんなさい。ギルデスさんって――」
妙な緊張感が走る。これ、実はものすごい国家機密で気付いたやつは消されるみたいなのないよな?
「昔、伝説の勇者パーティーのメンバーだったとか……そんなことってあります……?」
しばしの沈黙。
リネアは怪訝な表情をしていたが、次第に何かを考え込むような様子に変わる。
「な、何を言い出すかと思えば!」
ギルデスは静寂を切り裂くように声を上げる。
「ついに筋トレのしすぎでバカになっちまったのか!?伝説は伝説だ!」
ギルデスはいつも通り豪快に笑った。しかし、その様子はどこかぎこちないような……。
「バカ言ってねぇでこっちも下ろしてくれ。重たくて敵わん」
「あっハイ」
なんとなく話題を逸らすかのように振る舞うギルデス。
しかし……もし本当に伝説の勇者パーティーだったとしても、それを隠してトレヴィルで隠居していた時点で詮索するべきじゃないのか……?
もし私の予想が正解なら、グラートあたりはリネアやルノアの家族を探すのにかなり役立ってくれると思うのだが――
◇◇◇
「ハァ……!ハァ……!よし!これで終わりよね?」
二キロ刻みでそれぞれの重さがペアになっているダンベルセットを発注していたが、残念ながら半分の二十五キロまでのペアしか作れなかったらしい。
二十五キロ以降は、定期的に届けてくれるそうだ。
しばらくは今あるダンベルで腕トレやサイドレイズをしよう。
「ああ。手伝ってもらっちゃって悪いな」
「いいわよ、私が言い出したんだし」
「しっかし、本当に立派な建物だよな。ここ」
「そうね。私たち四人だけじゃ全然使いきれないわよ」
王都がまだ大帝国の“グラシオン領“だった時に、他の領地や帝国の要人を迎えるために建てられた迎賓施設。
立派な庭に噴水もある。リネアの話では動力のコアとなる魔水晶を入れ替えてやれば動き出すそうだ。
「独立戦争の後に使われなくなったみたい。一等地に新しいのを建てた後はね。」
リネアは筋トレ器具を運び込んだ大広間を見渡す。
「それにしては随分綺麗だけど」
「そう……だな。確かに」
「大切に管理されてたってことかしら。今じゃアンタの筋トレ場所になろうとしてるわけだけど」
「別に悪いことしてるわけじゃないんだからいいだろ?」
とはいえ、舞踏会でも開けそうな立派な大広間。
シャンデリアが吊られている高い天井は開放感があって筋トレにもってこい……じゃなくて、その空間に鎮座するインクラインベンチ。通称“賢者の椅子"。そしてたくさんのダンベルたちは……。
「……なんか冒涜してるみたいで悪いな」
「あら、アンタにもそういう感覚あるのね」
「……まあな」
とはいえ、まだまだ改良の余地はある。
場所が手に入ったのであれば次に目指すべきは「パワーラック」の導入だ。
これが成ればついにBIG3(ベンチプレス・バーベルスクワット・デッドリフトの三種目。バーベルで行う代表的なコンパウンド種目で、その鍛えられる部位の多さからBIG3と呼ばれる)ができるようになるのだ。
「ちなみに、コンパウンド種目というのは日本語で“多関節種目”という意味で――」
「え?なになに怖いんだけど!?」
「あ、ああ!スマン心の声が……」
脳内筋肉談義が思わず盛り上がってしまった。リネアを怖がらせてしまったようだ。
「ま、まぁアンタのそれはいつものことだからいいんだけど……。それより、さっきのギルデスさんの話。私考えたんだけど――やっぱり、そういうことよね?」
ギルデスはその後、器具を下ろしたらそそくさとトレヴィルへ帰ってしまった。せっかく豪華な建物が使えるようになったというのに、それにもあまり驚いていない様子だった。
手紙には「王都で場所の都合がついたので、旧迎賓館の前まで持ってきてほしい」という旨しか書かなかったのだが。
ギルデス本人は否定したが、ここまで特徴が一致していると偶然では済まされなさそうだ。
トレヴィルで出会った冒険者ギルド長のガルデン。副ギルド長のセリオ、町の工房主ギルデス、そして雑貨屋兼奴隷商のグラートの四人……。
そして――不審な点はもう一つ。
「……でなんだが。リネア、今までトレヴィルにいてそのことに気づかなかったのか?勇者の伝説は知ってたんだろ?」
「……ええ。アンタに言われて気づいたわ。不思議なことにね」
これまでの経験。彼女との色々な体験を通して確実に言えるのは、リネアが私に言われるまでその一致に気づかないわけがないということだ。
独立戦争には勝っているはず。なのに勇者を含め功労者だというパーティーは全員が“伝説の存在"となっており、名前も遺っていない。
そもそも、彼らが戦争の後どうなったのかも聞いたことがない。まだそんなに調べてないので確たることは言えないが……。
感覚的には、”勇者とその仲間たちの情報がまるまる消されている”ような感じ。
「藪蛇な気がするな……。首を突っ込んだらまたいろいろ巻き込まれそうだ」
「……相変わらずね。アンタは」
「しょうがないだろ?でもまぁ、奴隷商に関してはやっぱりグラートから探るべきだよな」
「そうね……私やルノアの家族について、私たちが一番頼れるのはグラートさんでしょ」
◇◇◇
その後、早速届けてもらったダンベルで肩のトレーニングを行う。
インターバル(休憩)の時間は頭の中の整理にうってつけだ。前世ではこの時間にスマホをいじる人も多かったが、私はもっぱら瞑想派だ。
――やはり、どうしても気になるのはトレヴィルの四人と伝説の関係。
騒ぎにならない範囲で調べてみるぐらいなら大丈夫だろうか。
グラートの線から奴隷商についていろいろわかるかもしれない。この王国の奴隷商売を牛耳っているという“パンデム商会“のことも、奴なら知っている可能性が高いだろう。
そんなことをぐるぐると考えながら一時間ほど。
さすが、重量を細かく設定できる上、保持性能も高いダンベルのおかげで肩が見事なパンプアップ(筋肉に刺激が入り血流や水分が集まることで筋肉が大きく見える現象)を見せている。
すっかり日も暮れたし、調査は明日にでも再開することにしよう。今回こそは何事もなく進捗だけを掴みたいものだ。
騎士団、教会、ドラゴン、と来て今度は伝説の勇者。
――考えたくもないが、いやーな予感がする。
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