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異世界筋肉〜筋トレがしたいだけなのに異世界が放っておいてくれない〜  作者: プロテイン長田
第16章「王都大動乱」プロローグ

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第66話「筋肉とシスター・クラリスの特別講義」

## 第66話「筋肉とシスター・クラリスの特別講義」


### 【あらすじ】


 龍里嶽での一件を経て王都へ帰還したユージは、国王レグラディスとの謁見に臨む。


 その場で明かされたのは、常識を逸脱した彼の能力――そして“国家を揺るがしかねない存在”としての評価だった。


 剣術派と魔術派が対立を深める王都において、ユージの力は歓迎と警戒、両方の視線を集めることになる。


 王は最終的に、ユージたちを王国直属の特務戦力として迎え入れる決断を下すが――それは同時に、国家の中枢へと深く関わることを意味していた。


 さらに、仲間たちのジョブ変化、そして“誰かに監視されている”という不穏な気配。


 ドラゴン騒動の裏に潜む黒幕の存在も未だ掴めぬまま、王都では確実に何かが動き始めている。


 筋肉の賢者は、知らぬ間に国家規模の渦の中心へと立たされていた――。


 またまた舞台は王都に。大動乱の幕が上がる。


### 【本文】


「さて、皆様お揃いのようですね」


 大聖堂。その身廊に据えられた説教壇に立っているのはクラリスだ。


 リューネ村で分かれてからしばらくぶりだが、やはり彼女は教会でシスターをやっている姿が一番似合う。


(盗賊を薙ぎ倒していた彼女の姿がちらつくが……。まぁ、そう何度も見る姿じゃないだろうしな。早いとこ忘れよう)


 さて、私は今、ちびっ子たちに囲まれて彼女の話を待っている。


 今日は教会が催す子供向けの特別講演「グラシオン王国の歴史」の日。この大陸の常識を知るために聞いてこいとリネアに言われてやってきたのだ。


 なぜか私の体に二人ほど子供がよじ登っており、背中をべしべし叩いたり、大腿四頭筋に蹴りを入れている子もいるが、まぁ子供というのはそういうものだ。


 この場で言えば不相応なのは私の存在。甘んじて受け入れながら話を聞くことにしよう。


◇◇◇


 ――大帝国。


 かつてこの大陸を治めていたその国は、レグラディス王の勇気ある独立宣言により戦争の時代に突入しました。


 皆さんもご存知でしょう。伝説の勇者様とその仲間たちは、勇敢に戦い、大帝国から不当な扱いを受けていた民を救いました。


 勇者様を支えたのは、大きな斧を使う大男。聡明な魔術師のエルフ、華麗な剣捌きを得意とする剣士、そして彼らの武器を見事な職人技で作り上げ、自らも支援魔法を得意としたドワーフの四人。


 今のグラシオン王国は、彼ら伝説の冒険者パーティーによって独立を掴み取りました。


 しかし忘れてはなりません。


 その彼らを支えたのが、いと尊き我々が信仰する女神様。


 女神様なしでは、今、我々が平穏に暮らすグラシオン王国での日常はありません。


 今日もまた、女神様がもたらす平穏に感謝して、祈りをささげましょう。


 では次にお話しするのは――


◇◇◇


 特別講演は私にとってとても興味深いものだった。


 子供達は半分以上遊びに夢中だったような気もするが、伝説の勇者パーティーの件は多くの子供が反応を示していた。


「賢者様って勇者リネア様とケッコンしてるの?」


 子供の一人が聞いてくる。


「勇者リネア様は私の大事なパートナーですよ」


 そんなこんなで子供達に絡まれながら先ほどの話を思い出す。


 私がこの世界に来る前から存在していた伝説の勇者は、独立戦争時代の英雄。しかし今は伝説上の存在になっている。


 この話自体は前にも聞いたことがあった。だがそのパーティーの内訳は初めて聞いたな。


 大斧の大男、聡明なエルフ、華麗な剣士、そして武器職人のドワーフ。


 ……なんか引っかかる。


 それに、独立戦争が終わってグラシオン王国ができたのってせいぜい十数年前の話だよな?


 そこで活躍した人たちが"伝説"になっていて、名前も、その存在以外何も残っていないって不自然じゃないか?


「終わったみたいね」


 そんなことを考えていると、リネアが来ていた。


「「「「ゆーしゃ様だ!」」」


 リネアを見るや否や、子供たちが大喜びで集まってくる。


「あらあら。相変わらず大人気だな」


「まあね。別に悪い気はしないからいいわ」


「……勇者様、それに賢者様も」


 そんな様子を見てクラリスが声をかけてくる。


「ここにいる子供たちは、ほとんどが教会が管理する孤児院で暮らしている子たちです。よろしければ遊びに行ってあげてください」


 ――孤児院か……。


 やはり表面上豊かそうなこの王都でも、身寄りがない子供たちはいるんだな。


「わかったわ。定期的に顔を出すようにする」


「感謝します……。それで、父のことなのですが」


 クラリスの父――すなわち教皇か。最近姿を見ていないが……。


「賢者様を王国に横取りされてしまったことがショックだったようで……」


 なるほど。レグラディス王との謁見で私たちの管轄が王国直属に移ったことで、教会専属にするという教皇の目論見は潰えてしまったのだ。


「こちらもたまには顔を出してあげてください。父も喜びます」


 まあ、厄介ごとが増えない限りはそれもやぶさかではない。懸垂バーの全国展開の件は是非とも進めたいしな。


「じゃ、そろそろ行くわよ。ギルデスさん、もう到着してると思うから」


「お、本当か!?」


「な、何よ。いきなりテンション上げないでくれる?」


 元よりこの異世界にきて初めて取り掛かった筋トレ器具制作。その成果がやっと見れるのか――!


 そりゃぁテンションも上がると言ったところだ。


「じゃ、みんなもまたね」リネアは優しい表情で子供達に挨拶をする。


「バイバーイ!」「遊びにきてね!」「またねー!」

「リネアおねーちゃーん!」「ゆうしゃさまー!」


 子供たちは随分とリネアになついているようだ。将来、いいお母さんになるだろうな。


「……何よ」


「いいや、なんでも」


 我々は、レグラディス王から下賜された旧迎賓館、今の我が家へと帰る。


◇◇◇


「なぁ、ふと気になったんだが、トレヴィルにいたグラートって……」


 帰路、私は気になっていた頭の中のつっかえを整理するようにリネアに話かける。


「グラートさんがどうかした?」


「そうそれ。その呼び方。グラート"さん"ってどういうことだ?」


「あぁ、そのへん、うやむやのまま王都に来ちゃってたわよね」


 リネアは後ろ手を組み、歩きながら話す。


「私が奴隷として辿り着いたグラートさんの奴隷商店はね。他とは少し違ったのよ」


「……違った?」


「ええ。かなりね。まず、食事は三食しっかり出たし、病気しても看病してくれた」


「い、いや、一番地下の部屋にいた人たちは――」


「あぁ……あの人たちはね、普通だったらもうとっくに死んでるの」


「え……?」


「私ね。誰かに買われてトレヴィルとその周辺を自由に移動できるようになってからは、グラートさんの店、たまに手伝ってたのよ」


 そうだったのか。


 確かに、ルノアと出会った時も妙にスムーズに案内されてた気がする。奴隷たちや店のこともよく知っていた。


「だから知ってるの。あの最下層で扱われてた人たちのこと」


 リネアはゆっくりと話す。それは、自分の過去とも向き合っているかのような語り口。


「連れてこられた時は……もうすでに病か、怪我、ひどければ拷問された後のような人もいたわね。それこそ……不治の病の子も」


「グラートさんはそんな人たちも引き取って、お金をかけて助けていたのよ」


「……すごいな」


「ええ。本当に。どこからそんな資金が出てくるのかは全くわからなかったけど。それでも、あそこにいる奴隷の人たちは、よそにいるより何倍もマシよ」


「なあ。それってやっぱり――」


「おかしい。でしょ?私も感じてる」


 リネアが歩みを止めてそう言うと、こちらに向き直る。


「ここ数日、王都の奴隷商店を見て回ったけど、どこもグラートさんみたいに隠れて商売してない」


「そうだよな……。やっぱりグラートの店が少数派ってことか」


「私のお母さん、それにルノアの家族のことも、探るならグラートさんのところから当たるのがいいと思う。ちょうどギルデスさんもウチに来てるし、聞いてみましょう」


「ん?ギルデスさんとグラートって接点あったっけ?」


「ええ。ギルデスさん、グラートさん、あとギルド長とセリオさんは知り合いよ」


「……あっ」


「……何よ?」


「ちなみに、グラートって元冒険者だったりする?」


「ええ。私と同じ剣士だったみたい。これが結構強いのよ?そもそも私の剣の師匠だし」


「あぁ……なるほど。ちなみにパワー型か技巧派かで言うと……」


「圧倒的に技巧派ね」


 わかった。完全に繋がったぞ。


 さっきのクラリスの講義。登場した伝説の勇者パーティー。勇者を除いた四人に感じた既視感は――!


 トレヴィルで出会った四人だ!

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