第63話「筋肉と国王」
## 第63話「筋肉と国王」
### 【あらすじ】
王都に帰還したユージは、教会の思惑と騎士団の動きが交錯する中、否応なく“中心人物”として扱われ始める。
再会を果たしたリディアから語られるのは、龍里嶽での出来事の全貌。
そしてついに、国王レグラディスからの謁見の命が下る。
剣術派と魔術派の対立が激化する王都――
その均衡を崩しかねない存在として、ユージの名はすでに広まりつつあった。
歓迎か、利用か、それとも排除か。
玉座の間で待ち受けるのは、王としての威光か、それとも冷徹な判断か。
筋肉の賢者は今、国家の意思と対峙する。
### 【本文】
「よく来たな。賢者よ」
――王城。謁見の間。
まさに豪傑と言った存在感を放つのは謁見の間、その最奥に鎮座する男。
レグラディス・グラシオン王だ。
話では何度か聞いたことがあった、紛れもないこの国の王。
その空間にはすでにリネア、ルノア、ノエラの三人がいた。
謁見の間の中央に用意された豪華な大型の円卓と椅子に座っており、円卓の上には豪勢な果物や茶菓子が置かれている。
(良かった……。拒絶されている訳ではなさそうだ。)
円卓には初対面の顔ぶれがズラリと並んでいる。
こちらを歓迎するような目線を送るものや軽蔑の眼差しを送るものまで、その印象は様々だ。
「座りたまえ。貴殿がいなくては始まらぬからな」
王は言う。
いそいそと空いた席に座り、軽くその場の面々に会釈をする。
リネアは少々緊張した表情で周囲の様子を見ている。ルノアは卓上のお菓子が気になるようだ。ノエラは固まっている。
――まぁ、ノエラの反応が普通だよな。
「では、まず筋肉の賢者、ユージよ。此度の騎士団との共同戦線。誠に大義であった」
「国境付近に出没していたドラゴンの調査、およびその原因究明と撃退。」
「同じくして現れた銀翼災龍は国家を脅かすSSSランクモンスター。撃退したのは賞賛に値する」
「続いて、転生勇者。先の独立戦争で我々を最後まで苦しめた彼らを退け、ドラゴンスレイヤーの称号獲得による強化を食い止めたのは国をあげて賞賛せねばならん」
ひとまず、良い印象は持ってもらえてるみたいだ。そのうちの三分の二はリディアの功績なのだが……。この様子だとリディアは黙ってるみたいだな。
「しかし」
王がピシャリと言い放つと、場の空気が一変する。
「評議会の数名から進言があってな。そこまでの力を持つ筋肉の賢者の所在が宙に浮いてるのは憂患ではないかと」
憂患……すなわち将来の不安材料としてみられているわけか。
私 は筋トレをしながら仲間のために動ければそれ以外のことをどうこうする気はないのだが……。
「そこでだ」
王が合図をすると、何やら大型の水晶が嵌め込まれた台座が運び込まれてくる。
「この鑑定水晶で今、この場で能力を確認させてはくれまいか」
……なるほど。
少し考える。恐らく、王の意図としてはこの場で私がどの程度の脅威なのか裸にしておきたいと言うことだろう。
女神教由来の"悟り“スキルはすでに賢者の噂で露呈している。
問題は新しく追加されているであろう“龍の加護“……これがどう解釈されるか……だな。
この円卓に座っているのは恐らくその“評議会“の面々だろう。私に好意的なのは今の所、教会魔術派と考えるべきだ。
――そして否定的なのは剣術保守派。
リディアの言う通り今は剣術保守派の方が人数が多そうだが……。
「どうした。何か不都合でもあるのか?」
評議会の男の一人がこちらを蔑むような口調で言う。
「い、いえ。そんなことは。ぜひ」
考えている暇はない……か。
「よし、では準備しろ」
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「な、なんだこのスキルは――!!!」「あり得ない!」「この男はこの王国をどうするつもりなんじゃ!?」「聞いたこともないレジェンダリースキルが多すぎる!!」「もはや賢者ではなく厄災ではないのか!?」
水晶に手をかざすと、もはや懐かしさを覚えるステータス画面のようなものが浮かび上がる。魔力がない私でも使えているのを見るに、この水晶は魔力がいらないタイプか。
そのステータス画面を見た評議会の面々は各々様々なリアクションだ。一部物騒な意見も聞こえるが……。
◇◇◇
《ユージ》
ジョブ:トレーニー
【レジェンダリースキル】
◆ 悟り
◆ 龍の加護
◆ カタボリック
◆ マッスルメモリー
◆ 賢者の合トレ
【戦闘・身体スキル】
◆ パンチ
◆ 投擲
◆ 危機察知
◆ 緊急回避
◆ 闘争本能Lv 42
【習得スキル】
◆ 剣術Lv 78
◆ 馬術
◆ 武器職人Lv 12
※ 異常値を検出
※ 一部スキルは解析不能
◇◇◇
……なんというか。まあ、予想はしていたが、騎士団施設で鑑定した時から随分とラインナップが変わっている。
「ええい、静かにせんか!」
王が一喝すると、評議会の面々は黙って席についた。
「……まず、この“龍の加護“。どのようなスキルか知っておるか」
「……いえ。」
「そうか。この水晶を持ってしてもそのスキルは解析できぬようだ。だがしかし、この王国に伝わる伝説では独立戦争で活躍した勇者もこのスキルを持っていたという」
……ん?独立戦争は大陸を支配していた大帝国が三国に分裂した大帝国内乱のことだよな。
伝説の勇者ってことはその人はもうこの世にはいないってことか……?
「剣術を志すものたちにとっては憧れのようなスキルだ。まさか本当に取得しているものが現れるとはな」
な、なんか評議会からの目線が変わったような……。
「そして言わずもがな、貴殿を賢者たらしめた“悟り“のスキル……か」
「今この王国でそのスキルが使えることを確認しているのは貴殿とザハリエル卿、そしてマグヌス教皇だけだ」
「えっ……!?」
あの教皇が__!?
女神の話では向こう十年、自らに苦痛や極度の負担を強いる修行を不断の努力を持って続けることが取得の条件だったと思うが……。
ザハリエルはともかく、教皇は全く予想外だ……後でどうやって修行したか聞いてみよう。
「これは聖職者の極致とも言えるスキル。すなわち貴殿は教会、騎士団、この王国の両翼の至高にいるのだ」
そう言うと、レグラディス王はフゥと息を吐く。
「此度の進言、賢者は憂患か否か……正直測りかねるな」
「恐れながら王よ!」
評議会の男が立ち上がる。
「もはやこのスキルを見て確信に変わりました。この男はその気になればいつでもこの王国を傾けられる存在!」
その男は捲し立てるように言い、私を指差した。
「野放しにしていてはいずれ牙を剥くか下手をすれば……聖統国や帝国に寝返るやもしれませぬぞ!」
その男の言葉を聞いて、フッっと笑って見せるレグラディス王。……それは一体どういう感情なんだ――?
「だ、そうだ。賢者よ、貴殿はどう考えている?目的を申してみよ」
「え?ああ、はい」
突然話を振られて驚いたが、答えは一つだ。
「私は……仲間たちの使命のため動き、その先々で筋トレができれば、他に欲するものは何もありません」
「ハ、ハッタリだ!」
「黙れ」
王が騒ぎ立てる評議会の男を睨みつける。
よく研ぎ澄まされた刃のような眼差し。男は黙って席につく他なかった。
「賢者よ、その言葉嘘偽りないと誓うか?」
「はい。この命に懸けて」
この言葉に嘘はない。まじりっけなしの本気だ。
「決まりだな。ここに此度の一件に関する貴殿への褒賞を裁定する」
謁見の間に緊張が走る。
「第一に、貴殿のパーティーを王国直属の特務戦力として迎え入れる」
評議会の面々がざわつき始める。
「次に、王都郊外の旧迎賓館をパーティーの拠点として下賜する」
「――以上だ。」
何やら話していた評議会の面々も、しばらくすると納得したように静かになった。
「時間を取らせたな。賢者よ、引き続き王国のために努めよ」
王のその言葉は、謁見の終わりを告げていた。
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「私のジョブ、剣士から勇者になってたんだけど」
王城を出て、下賜された旧迎賓館に案内してもらうためリディアと合流するとリネアがぼやいた。
「わ、私も“神獣使い“になってました……どうしてでしょうか……?」
「ルノア、やそうひめ?だって」
「私は英雄のジョブだそうだ」
ん……?リディアとリネアはまだしもノエラとルノアのジョブは……あれ?
思い出す。このジョブの名前はどこかで……。
そうだ。リューネ村付近で捕縛した盗賊が言っていた。確かに“神獣使い"と“夜葬姫“という単語……。
どういうことだ……?ジョブの名前やスキルの鑑定は水晶とか、専用の場所じゃないと見れないはずじゃ……。
間違いなく私たちは騎士団施設での鑑定の後、ジョブの名前を知る機会はなかったはず……。
これは……。
誰かが私たちを秘密裏に鑑定していて、その噂を流していた――?
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さて……。龍里嶽の一件は片付いた。
レグラディス王の宣言で、騎士団も教会も私の存在に手出ししづらくなっただろう。
だが、同時に新たな“何か“が我々を監視している可能性がある。
それに、リューネ村に盗賊たちを差し向けた犯人や、ドラゴンに魔装具をつけた犯人もわからないまま。
筋トレがしたいだけなのに、まだまだ厄介ごとは多そうだ……。
「着いたぞ。王国がかつて使用していた旧迎賓館だ」
「「「「おぉ〜!」」」」
我々はその後、リディアの案内で下賜された建物を訪れた。
で、でかいし豪華な建物だな……!国賓を招くための建物なんだからそりゃそうなんだが……。
さて、新しい拠点ときてまずやることと言えば……。
「ギルデスさんの工房から、筋トレ器具を持ってきてもらうのっていくらぐらいかかると思う?」
「アンタね……最初に出てくる感想がそれなわけ?」
「相変わらずユージさんは筋トレから考えるんですね……」
「ん、ご主人様ときんとれ。ルノアもする」
「全く……しょうがない奴だな」
私の異世界筋トレ生活は、まだまだ始まったばかりだ。
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