第64話「国王レグラディスの憂鬱」
## 第64話「国王レグラディスの憂鬱」
### 【本文】
異変は、すでに始まっていると知った。
"筋肉の賢者"などというふざけた名前の男が王都に来ていると評議会が噂をしている。
煩わしいことに、本来為政や軍事に口出しをせぬことを取り決めている女神教の手のものが評議会にまで侵入している。
その男の話題が上がるのもそのためだろう。くだらん戯言だと一笑に付していたが……。
教皇がその男の伴侶を「勇者」として擁立すると言う話を聞いた。当の本人らはその場から逃走。直後に闇の盗賊団が施設を襲撃したと。
私とて、この国の王となり年月を過ごした。教会勢力をなんとか抑え、権力を維持し、両隣を敵国に挟まれながらも王国内を安定させてきた自負がある。
だがこの件は、妙な胸騒ぎがした。戦時中でさえ、こんな不気味な恐怖を覚えたことはない。
闇の盗賊団が騎士団に手を出してきた。
――そのようなことが起こっていいはずがない。
そしてあろうことか、騎士団長とそのメイドが再起不能の重傷。その後、報告に上がったグレイストン付近に現れた龍。
何か大きな意志が動いている。そうでなければ、この私がここまで狼狽することなどあり得ない。
その後どうなったか。
にわかには信じがたいが、そのふざけた名前の賢者は実際に奇跡の力が使えるらしい。
その賢者による回復の奇跡で再起した団長と王都にいる騎士団精鋭の面々に龍の偵察を任せた。
ここで戦果が上がれば、剣術派のシンボル、象徴としてのみ期待していた団長への評価を改めてやれるだろう。
しかし、教会に囲い込まれていたその筋肉の賢者も北へ向かったと報告があった。
全ての、全ての事案に奴が関わっている。
――その結果は、どうだ。
先ほどの奴らのスキル鑑定の結果を見れば、それは火を見るよりも明らかではないか。
リディアは英雄の力に目覚めた。
賢者は騎士の頂である"龍の加護"と聖職者の極みである"悟り"を持つ。そのほかにも得体の知れぬスキルが複数。
その賢者の伴侶は勇者の名を冠していた。リディアに次ぐ剣聖のスキルも。
――そして暗殺術のスキル……。
連れ子と思しき獣人の少女は王国の秘密兵器であるその力を極めたというのか?
さらにもう一人の少女は、大森林に伝わる伝説、"神獣"に関するスキルを持っているようだ。
……頭痛がする。
筋肉の賢者に野心がないことは僥倖だった。
……彼には騎士団に次ぐ国家権力を与えることにした。
本来であればあってはならぬ愚行である。しかし、アレが教会の手に落ちるなどといった方がよっぽど愚かだ。
――精々、有事の時は役に立ってもらうとしよう。
今明らかにせねばならんのは、龍に取り付けられていた魔装具の出所だ。
幼体とはいえ龍。魔装具を取り付け、その魔力を暴走させるほどの物を作れる魔術師がこの王国にいるとすれば……。
――ザハリエル卿。貴殿の仕業だと言うのか。
これらの事象が一つの流れなのであれば。
――すでに我々は運命の渦に呑まれている。
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