第62話「筋肉、歓迎される」
## 第62話「筋肉、歓迎される」
### 【あらすじ】
龍里嶽の激闘を乗り越え、再び仲間たちと合流したユージ。
失いかけた日常を取り戻し、王都へ向かう道中で束の間の安らぎを得る。
しかし、事件はまだ解決していない。やがて明らかになるのは、王都に待つ新たな問題。
龍里嶽の一件を受けて動き出した王国と教会。水面下で進む思惑が、彼らの帰還をただの凱旋では終わらせない。
旅路の先に待つのは、再び巻き込まれる“争い”か、それとも――。
王都を舞台に、新たな火種が静かに灯り始める。
### 【本文】
「よくぞ戻った!!筋肉の賢者よぉ!!」
我々は王都に帰還した。
すぐに教皇たち大聖堂の大歓迎を受け、私は教皇の間に通された。
「いやはや、見事な手腕であるなぁ!吾輩は感服したぞ!」
教皇は興奮している。
恐らく、実際にドラゴンが人里に現れた原因を直接取り除いたのは私だから、どちらかといえば私が活躍したみたいなことになっているのだろう。
「ドラゴンが暴れている原因を突き止めただけでなく、それを見事に解決!さらには銀翼災龍まで撃退。その場に居合わせた転生勇者どもも追い返したとは!!」
ななな、何だって!?後半はほとんど身に覚えがない。
それに銀翼……災龍?何だそれ?
「何だお主、そのピンと来てなさそうな顔は」
いや、実際全くピンと来ていないのだが。
「ま、多少脚色はしとるがの。教会としてはこの方針でいくでな。口裏を合わせてくれぃ」
「あ、あの……教皇様」
「ん?どうした、何でも聞くが良いぞ」
「どうしてリネアたちは騎士団本部に……?」
大聖堂へと招かれた私とは異なり、リネア、ルノア、ノエラの三人は騎士団本部へと行くことになった。
「あぁその話であるか。エドガルド」
「は。そちらの件につきましては私から。ユージ様、お三方はリューネ村での功績により、褒賞を受けるために騎士団本部に招かれたそうです」
なるほど……確かに、リューネ村の防衛は騎士団管轄だと言っていたな。
「全く……惚れ惚れする采配だわい。」
教皇はウンウンと唸りながら言う。
「騎士団管轄の別案件すら手柄を独り占めにさせぬと言う強い意志。最終的に勇者リネアが大々的に目立つ結果になったようだしのぉ」
ま、全くそんなつもりはなかったのだが……どうやら教会にとって都合のいい方にどんどん話が進んでないか……?
「教皇様のおっしゃる通り。この一件で我々女神教の地位はこの王国でさらに重要なものとなるでしょう。」
エドガルドは説明を続ける。
「騎士団は今回の一件、"教会勢力の力を借りて"解決したと言えます。」
「もはや、勇者リネア様と筋肉の賢者様なしでは国防を成せぬと主張するには十分な材料かと」
「現状、国防を含む軍事や為政には口出し無用ということで自由な活動を認められている我々女神教会としてはこれ以上ない戦果と言えるでしょう」
これは……何だか嫌な空気だ。完全に権力争いに巻き込まれているような……。
「その辺の権力拡大路線はザハリエルに一任しとるのだが……最近やつは何をしとるのかのう?」
教皇はやはり目に見える成果を重要視する人物だ。ザハリエルが秘密裏に私を消そうとしたことも知らないようだし……。
「教皇様。ザハリエル卿は陰での工作が得意分野。イシュルドをはじめ騎士団に魔術の風を吹かせたのも彼の功績かと」
「ん〜?イシュルド……あぁそんな奴もいたな」
教皇はその辺の裏工作には興味がなさそうだ。
ダイレクトに信者獲得につながらなさそうではあるが、発言力の向上に関しては長い目で見れば効果ありそうなんだがな……。
「まあ良いまあ良い!それで……お主が活躍しておる間こんなものを作ってみたのだ」
教皇が合図をすると、部屋にあるものが運び込まれてきた。
「何ですか……って……おお!?」
「お主の説教を見聞きした信者から聞いた話をもとにつくらせたのだ」
これは……どう見ても明らかに……。
"懸垂をするやつ"だ!!
少々豪華な装飾が付いているところが気になるが、倒れないための丈夫な足と高いところに棒が一本。
簡単な作りだがトレーニーはこういった構造物を見たら懸垂がしたくなってしまう生き物――!
__________
「おぉ……何と申すか、こうして目の当たりにすると信者たちの気持ちがわかるのう」
「左様でございますね」
教皇の間で懸垂をする私。それを見る教皇と従者。
シュールな絵面である。
しかし、やはりしっかり背中に入れるには懸垂バーが最適だ。
グリップ部分の太さもちょうど良く、久しぶりの懸垂につい夢中になってしまう。
◇◇◇
「フッ!……フッ!……フッ、フン!!」
「も、もう十分ではないか?」
教皇がドン引きしはじめたところで我に帰る。
「あ、ああ!申し訳ありません!つい夢中に」
「い、いや良いのだが……。何というかちゃんと狂っとるのだなお主」
「そ、そんなことは……」
「まあ良い、お主さえ良ければひとまずこれを全国の教会に配備しようと思うだが構わぬか?」
な、何だって!?それなら、王国中の教会で懸垂し放題ということか!?
「そ、それなら教皇様!謹んで進言いたしますが――」
その後、私は捲し立てるように懸垂バーの角度のバリエーション、膝パッド、滑車、錘を導入してアシスト懸垂ができるシステムを提案した――。
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「……?」
きょ、教皇の目が点になっている……。
「賢者様、その件に関しては私が引き受けます。試作品が出来ましたらご連絡いたしますのでしばしお待ちを」
や、やったー!私、教会のこと好きになりそう!
「さて……賢者様。お客様がご到着されたようですよ。」
そんなことを考えていると、扉の奥で待機していたらしい修道女が客人の来訪を知らせてきた。
__________
「こちらのお部屋でございます」
案内されたのは大聖堂の客間。その先にいたのは……。
「……遅かったな」
「リ、リディア――」
私が呼びかけ終わる前に、彼女は私の胸に飛び込んできた。
「うおっ……!?」
わざわざ鎧を脱いで待っていたらしく、衣服越しに彼女の豊満かつ鍛え上げられた肉体の温かさを感じる。
「……生きてる」
「ああ。何とかな」
「傷は?」
「塞がってる。怖いくらい完全にな」
リディアは腕を私の腹部に回し、その手で触れる。
「……一体どんな奇跡でそんな回復を」
「まあ……色々あってな」
私がそう答えると、リディアは最後にぎゅっと力を入れた後、私の体から離れた。
「君と私の仲だろ?隠し事は無しだ」
そういうリディアの顔は、安堵しきった、今までに見たこともないような柔和な笑顔だった。
__________
「何てこった……やはり"アレ"は龍神だったのか」
リディアは天を仰ぐ。
「それで……龍神はどうして君を回復させたんだ?」
どうしたものか……この世界に来てからというものの、私が転生者だということは明かしていない。
しかし転生勇者なる存在がいるとわかった今、私は唯一無二ではない。
ただ転生勇者はお隣国家の首領クラス。やはり軽率に口にはしたくないが……。
「……わからない」
「そうか」
リディアはそれ以上詮索しなかった。
「それで、俺が……その、死にかけてる間に何が……?」
「ああ、その話もしなくては。だな」
私はその後のリディアの壮絶な経験を聞いた。
私たちが出会った上位ドラゴンは"銀翼災龍"というらしい。
過去にその怒りに触れたという旧大帝国は多くの犠牲を払ってその龍を撃退した過去があるそうだ。
そしてその龍からドラゴンスレイヤーの称号を得るために現れた転生勇者コウキとレイナ。
名前から考えるに彼らも現代日本からの転生者なのだろうか。
彼らの転生者らしい能力。そしてそれすらも超越する龍神の登場。
「まだ、龍神が我々の前に顕現したということは誰にも言っていない」
「……助かる」
「これは、君と私だけの……秘密だ」
そう言うと、リディアは愛おしそうに笑ってみせた。
「さて……!」
そういうとリディアは改めてこちらを見る。
「実は私がここに来たのは君を呼ぶためなんだ。王城に行くぞ。国王がお待ちだ。君の仲間たちも既に向かっている」
「……え?」
こ、国王!?
とうとう国のトップまで出てきてしまった……。
それって今の状況を整理して考えると……剣術保守派の多い王国上層部からしてみれば、教会魔術派が増長するきっかけを作っている私の存在はおもしろくないよな……?
一体どうなってしまうんだ――?
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