第61話「筋肉と死闘明けて」
## 第61話「筋肉と死闘明けて」
### 【あらすじ】
龍里嶽での死闘は終わった。
ドラゴンは退き、転生勇者は重傷を負い撤退。龍神の加護を得て生還したユージ。リディアは“英雄”として覚醒した。
一方リューネ村では、リネアたちが別の戦いに身を投じていた。
迫り来る脅威を退け、勇者としての名声を高めていくリネア。だがその裏で、彼女もまたユージに訪れた臨死の体験を追うこととなる。
王都では、龍里嶽での一件を受けて情勢が大きく動き始める。
ドラゴンに仕込まれていた魔装具の存在、そしてその背後にちらつく“教会の影”。
英雄と勇者と賢者――。
三つの象徴が同時に台頭したことで、王国・教会・そして見えざる勢力の思惑が交錯し始める。
やがてその歪みは、王都全体を巻き込む“混乱”へと繋がっていく――。
### 【本文】
さて、その後どうなったのか。
正直私も事件の全体像は知らない。
目が覚めたらグレイストン村のベッドで寝ていた。
懐には懐かしい感覚。
ふと見てみると、目を真っ赤に腫らしたルノアがしがみついていた。
村長によれば、ボロボロの私とリディアが村の入り口に倒れていたらしい。
恐らく"龍神"によるサービスの転移……。かなんかだろう。
村を総出で目を覚まさない我々を看病すること二日。これまたボロボロのルノアが村に突撃。私を探し出しこの状態になったらしい。
そして、先に目を覚ましたリディアは無事生還した私を見て、みたこともないような様子で泣き崩れたという。(正直みてみたかったな……)
その後、一通り気持ちの整理をつけ今回の件を処理するために王都へ向かったらしい。
……気持ちの整理ってなんだ?
まぁ恐らくその時にリューネ村にも立ち寄っただろう。向こうの件も片付いているといいな。私の無事も伝わっただろう。
そして私の方はというと、体に全く力が入らず、半ばリハビリ状態。
"カタボリック"スキルを全開にして上位ドラゴンの攻撃を受けたせいで、筋力も随分低下してしまったようだ。
しかしそんな状態でも有効な筋トレはある。
できることを粛々とやるだけ。今はルノアもいる。やはり一緒にいる時間は特別だ。それに……。
リネアに会いたい。
そう思っていると――。
「賢者様、お連れ様の馬車が到着いたしました」
グレイストン村教会の聖職者が部屋を訪れた。
__________
「ユージさん……!」
馬車を操っているのはノエラだった。私を見るなり、安堵した表情を浮かべる。
「リネアさん!ほら!ユージさんですよ!元気そうです!」
ノエラはおそらく、荷台にいるリネアに声をかけているのだろう。
しかし、しばらく経ってもリネアの姿が見えない。
「お、おーいリネア……?」
私は恐る恐る荷台を覗く。
そこには、いわゆる体育座りの状態でうずくまっているリネアがいた。
「……怒ってるのか?」
――返事はない。
「……もしかして泣いてる?」
「ないてない」
その声は明らかに震えていた。それにつられて私も涙腺が緩む。
帰ってきたのだ。
これが失いかけた日常。
年甲斐もなく泣くのは不恰好だ。何とか涙を堪えると、リネアに呼びかける。
「あーっと、なんだ……心配かけたな」
「うっさい……こっちは死にかけたのよ」
「あ、やっぱり?契約の効果ってことだよな……」
「……バカ」
その言葉には、怒りよりも安堵、親愛が込めらていた。
__________
「悪かったよ、そろそろ機嫌直してくれ」
グレイストン村を発ち、再び馬車に揺られる。
……今度は仲間たちと一緒だ。
だがまだリネアはまともに口を聞いてくれない。
「あとルノア?いい加減離れても大丈夫じゃないか?」
「ん、ダメ。ご主人様すぐどこかいっちゃう」
「まいったなぁ……」
「本当に、すごかったんですよ」
そう語るのはノエラ。
「リネアさんが倒れたあと、ルノアちゃん、一人で龍里嶽まで行こうとして……」
「そ、それって誰か止められる人いたのか?」
「無理ですよ!気づいた時にはもう追える状態じゃなかったんですから!」
「よくグレイストンまでたどり着けたな……」
「ん、ルノア、ついせきはとくいぶんや」
「いてててて。あんまり強く抱きつくなって」
「だめ。ご主人様かくほ」
そんなところで、我々はひとまず王都に戻ることになった。
龍里嶽やリューネ村での出来事を処理せずに立ち去れば、またお尋ね者に逆戻りだ。
それに、リネアたちも奴隷商に関する情報を手に入れているらしい。
諸々の話によると、王都の奴隷商売はパンデム商会という大店が牛耳ってるという。
リネアやルノアの家族を探すには、まずそこをあたるのがいいだろう。
◇◇◇
◇◇◇
――王都への道中。ある日の野営。
リューネ村の教会から借り受けたという野営の道具があり、騎士団仕込みとはいかないまでも、快適な空間が確保できていた。
しかし気になることが一つ……。
「リネアだろ……?何だ……?」
私のテントの周りをうろうろしているリネア。
気づかれていないとでも思っているのだろうか。テントの中から声をかける。
「……入ってもいかしら」
「お、おう。構わないが……」
リネアはのそのそとテントに入ってきて、チョンと端っこに座った。
……しばしの沈黙。
「な、なぁリネア――」
「何したのよ」
私の声かけを遮るようにリネアが言う。
その顔は伏せられている。心なしか顔が赤いような……。
「何って……何の話だ?」
「団長よ。あの団長と二人で、何したのかって聞いてんのよ」
あ、あぁ〜なるほど。だいたいわかった気がする。
何となくリネアとリディアは私のおよび知らぬところでライバル関係になっていたというのは記憶に新しい。
とりわけ今では、まぁ私が言うことでは断じて無いかもしれないが私を取り合うような形になっている……のかもしれない。
「ダンマリってわけね、でもあの女に聞いたわよ?裸同然で同じテントの中……二人で熱い夜を過ごしたって――!」
リネアはぎゅっと自分の拳を握る。
「部屋が空いてないことをいいことに一緒に寝て……しかもあろうことか抱き合って!!」
「まてまてまて!誤解――」
そこまで言って言葉に詰まる。
いや、まぁ間違ってはない……のか?
いやいやいや!一緒には寝たかもしれんが抱き合ってなんて――
まぁ……よく考えたらこれは本人に確認したわけじゃ無かったな。起きたらベッドの真ん中にいたし。ルノアと寝た時みたいな満足感があったし……。
「否定しないのね」
リネアはにっこり笑顔でこちらを見ている。
「し、仕方ないだろ!そう言う流れになったんだから――」
「じゃあ!」
リネアがずいっとこちらに乗り出す。
「じゃあ……!さ……私とも……しなさいよ」
「……へっ?」
そう言うと、リネアは黙ってしまった。俯いたまま動かない。その様子を見るに……。
おそらく……寂しかったのだろう。それに、不安もあったはずだ。
王都を出る前の夜。彼女が語ったのは紛れもない本音。その直後に別行動となり、あろうことかそれが今生の別れになりかけたのだ。
「……わかった。最初はキツイかもだが我慢しろよ?」
そう言うと、リネアはビクッと反応する。
「な、何だよ?そんな反応するなら辞めとくか?」
「……いい。……大丈夫」
リネアの反応に違和感を覚える。何だか噛み合っていないような……?
あっ……。
「ちなみに、同じテントの中で熱い夜をって……"そううこと"じゃないぞ」
「……へ?」
聞いたこともない間抜けな声がリネアから聞こえる。
「俺たちがしたのはサウナといってだな――」
その後、私はリディアと行ったテントサウナについて説明する。誤解が解けるに連れてリネアの顔がみるみる赤く紅潮していく。
「つまりは"そういうこと"はしてないからな」
「うっさい!バカ!」
「痛ったぁ!?」
さすが推定ではあるが剣聖スキル持ち。見事な鉄拳が私の頬に突き刺さる。
リネアは怒った様子でテントを出ていってしまった。
「……これはリディアの伝え方が悪くないか?」
王都であったら文句を言おう。
そう思いながら痛む頬をさすり、眠りについた。
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