第60話「筋肉と龍神」
## 第60話「筋肉と龍神」
### 【あらすじ】
上位ドラゴンの猛攻により瀕死となったユージ。
その身を挺して未来を変えた代償はあまりにも大きく、戦線から完全に離脱してしまう。
残されたリディアは、“英雄”として立ち上がる。
しかしその覚悟すら嘲笑うかのように現れたのは、転生勇者のコウキ。
圧倒的な力でリディアと戦い、上位ドラゴンすら狙うその異常な戦闘力。
さらに治癒の力を持つレイナの存在により、戦況は絶望的なものへと傾いていく。
もはや打つ手はなくとも、託された思いを糧に戦うリディア。その瞬間――
### 【本文】
「な、なんだ今度は……!?」
コウキたちが見上げると、そこにいたのは、まさしく“神”と呼ぶに相応しい存在。
それは“巨大な龍”である――ように見える。
その姿は、言葉で表現することが無礼であるかのような神々しさを持っていた。
山肌と空の境界、その両方にまたがるように存在しているそれは、ただ「そこに在る」ということだけを圧倒的な現実として突きつけている。
空間に焼き付くような白色。
白光が連なり、鱗を成しているかのように幾重にも重なりながら脈動している。
一枚一枚が結晶のように鋭く、同時に液体のように揺らぎ、視線を向けるたびに形状が微細に変わる。
地面に立っているはずの人間たちの身体が、自らの存在を見失うような感覚を覚える。
呼吸すらも、どこへ吸い込めばいいのか分からなくなる。
その存在はゆっくりと戦場を見渡した。その黄金の瞳がリディアへと向けられる。
――満身創痍の英雄。そして、その後方に横たわるユージを一瞥すると、ほんのわずかに白光の揺らぎが和らいだ。
同胞を護り、束縛から解放した者たちに向けられる柔和な瞳。
しかし次の瞬間、その視線がコウキたちへと向けられると、空間の圧が明確に変質する。
拒絶。
それは怒りではない。
断罪でもない。
ただ、“異物”を前にした世界の正しい反応。
『――去れ』
声は、耳で聞くものではなかった。
直接、脳へと流し込まれる。否応なく理解させられる“意味”。
『汝らは、ここに在るべきではない』
その言葉は絶対的な宣告。
そこに敵意はない。だが、選択の余地もまた存在しない。
『龍は、我が庇護にある』
『それを理解せぬのであれば――』
わずかに、翼が揺れた。
それだけで、空間が裂けるように歪み、コウキたちの足元の大地が悲鳴を上げる。
選択肢はすでに提示されている。
従うか、あるいは――拒絶。そしてそれは、“死”と同義。
「な、なんだってんだ!俺の“処刑の剣”にかかればテメェなんざ怖くもねェ!」
コウキは剣を構え、その存在に向かって振り下ろす。
ものすごい衝撃波が向かっていく。文字通り対象を処刑する大技だ。
『愚かな』
「あっ……!?」
当たった……はずだった。
しかしコウキの攻撃は、どうなったかもわからず消えた。
「ぐあぁぁぇ!?」
直後、切り裂かれるコウキの体。
鮮血が散る。
斬られたというより、その部分が丸ごと消されたかのような抉り跡が痛々しく彼の体に現れる。
「コウキ!?いや……!ダメッ……!」
レイナはコウキに駆け寄ると、必死に回復魔術らしき処置をする。
『次は消す。貴様のそれでは、戻せぬ』
淡々と告げる。
レイナは怯え切った表情でその存在を見ると、魔法陣を展開した。
転移の魔術。
依然絶望的な存在感を放つそれは、ただ二人が去っていくのを見届けるだけだった。
「一体、何がどうなっている……」
リディアはその様子をただ見つめる。
脅威は取り除かれた……?
そう思うと、徐々に感じるはずだった強烈な痛みが彼女を襲う。
「ぐ、あぁ……!」
膝をつき悶える。
「このままでは……。ユージ……。必ず、連れて帰る……ぞ……」
その様子を見守る天空の存在は、徐々にその威光を薄れさせていく。
そうして、この空間に意識のあるものは居なくなった。
山間に倒れる、英雄と賢者の二人。
世界は何事もなかったかのように沈黙した。
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「賢者よ、目覚めなさい」
……ん?なんだ。
ずいぶん長く寝ていた気がする。
俺は……どうなったんだ?
起き上がると、見覚えのある空間に浮いていた。これは、女神と話した時と同じ空間だ。
「……お迎えが来たってやつか」
「残念ながら違うわ。あなたは“まだ”死んでないもの」
見渡す限り無の空間だ。だが、声だけが脳内に直接響き渡る。
「……もしかしてあなたも神的な存在ですか?」
「そう……ね。間違いじゃないわ」
「……俺は死ぬんですか」
「気になる?」
「まぁ……そりゃあ」
リディアはどうなったのだろうか。それに、俺が死んだらリネアも……そんなことはあってはならない。
「いま、あなたの魂は肉体にギリギリ繋ぎ止められている状態よ。」
「このままじゃ死んじゃうけど、あなたそれじゃ困るわよね?」
女神といい、この謎の神といい、ずいぶんと身勝手なものだ。人の命を何だと……。
「あら、ごめんなさいね。そんなつもりはないんだけど」
「……とりあえず、お礼を言わなくちゃ。私たちの家族を救ってくれたんだから」
……家族?いったい何のことだ?
「私はこの世界で龍神と呼ばれる存在でね。あの魔装具を取り付けられていた子は私の家族なの」
な、なるほど……?
「あなたたちが龍里嶽と呼んでいる山には龍の里がある」
「そこから旅立っていった龍たちが大陸を越え、この世界のあちこちで信仰を集めた結果生まれたのが私」
「その信仰のもとになっているドラゴンたちはみんな私の家族なの」
な、何だかものすごいスケールの話だ。どれだけ長い期間の話をしているんだ……。
「うーん……ざっと数万年は龍神やってるかもね」
想像以上のスケールだ……。
「あなた、まだ生きたいわよね?」
無論だ。リネアの命がかかっている。それに、リディアがどうなったかも見届けなくては。
「わかったわ。でも、一つだけ条件があるの」
条件……?
「もう察しているとは思うけど、女神と龍神はちょっとした敵対関係にあってね」
そ、そうなのか……?あまりピンと来ていないが……。
「だから、その“悟り”って言うスキル、女神教由来のスキルでしょ?」
「それだけ持ってるとバランスが悪いから、“龍の加護”って言うスキルも取得してもらうわ。それが条件」
な、なんで龍神が俺のスキル構成でバランスを取ろうとするんだ……?
「何でって――君を転生させたの、私だから」
……な、なんだって!?俺はこの龍神に意図的に転生させられたのか!?何で?
「ん〜、だって女神が転生勇者使って滅茶苦茶してるんだもん。せっかく安定してた世界が台無しよ」
そ、そんな理由で俺を……?
「そんな理由って言ってるけど、私がそうしなかったらあなたそのまま転生せずに死んじゃってたんだからね。感謝して欲しいくらいなんだけど」
そ、それはそうか……それに今、また助けようとしてくれているし……。
「いやまあ、あなたをこんなにしちゃったのウチの子なんだけど……ごめんね?あの子、あなたたちが幼いドラゴンをいじめたって誤解しちゃったみたいで」
「……本当はその辺干渉するのダメなんだけど――結局こうなるなら最初から助けてればよかったわね」
なるほど……?俺のことを助けるのは良いのか?
「あぁ〜それはね……まったくもって大丈夫じゃないんだけど……大丈夫じゃないっていうか、禁忌というか……まあ!機会があったら説明するわ」
いやいや!ぜひ今この場で説明して欲しいんだが――!?
「ま、あなたもウチの子の前脚粉砕したわけだし、この件はおあいこよね?」
……は?俺があのドラゴンの前脚を?受け止めただけだと思っていたが――
「じゃ、そういうことで、引き続き頑張ってね、賢者くん♡」
あ、ちょっと待て!まだ色々説明が――!!!
視界いっぱいに広がる光。
思わず目を瞑ると、どんどんと意識が遠のいていく。
「じゃあ、サービスで近くの村に飛ばしといてあげるから。」
ま、待て!!俺は……俺は一体どうなってしまうんだ――?
意識が遠のく。俺はまたあの日常に戻れるのか……!?
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